第十三話
「それじゃ説明するのだわ。まず、この世界における実力――魂の質と大きさによって、大体の目安だけれども十一の階級。この世界じゃ“階級”と呼ばれるもので全ての生物は区分されているのよさ」
そう言うと空中の一番下の文字。それを指揮棒と言うか、説明棒のようなもので再度叩くフリをする。
物質化している訳ではないのか、時折文字を貫通してすり抜けてしまっているのはご愛嬌と言うところだろう。
「階級は数字が小さくなるほどより位が高いのだわ。そして一番下の階級、第十一階級を“一般級”と呼ぶのだわさ。そして、その次の十階級が“兵士級”。九の階級が“指揮官級”。八の階級が“騎士級”。そして七の階級が――“准男爵”と呼ぶのよさ」
説明しつつ、次々と下から順に説明棒で文字を追ってはコツコツと叩くマネをするロザリー。
これで眼鏡でも掛けていれば教壇に立つ教師には――――容姿で見えないものの、雰囲気としては申し分なかったに違いない。
ロザリーの説明にヴラドが頷く。言われた内容は一言一句違えず記憶していた。この新たな肉体、記憶能力も上昇しているようだ。
エルも理解しているのかは不明だが、なにやら神妙な顔つきでしきりに頷いている。よく見ればその視線が微妙に泳いでいる為、実はやってみたいだけなのもしれない。
その様子はヴラドが思考の海に没入する姿勢になんとなく似ている。スライムでも近い事をしていたかと思うと、なんだか胸に苦い想いが立ち込めた。
まぁ、必要なら後で自分が噛み砕いて教えればいいだろうとヴラドは内心で決め、ロザリーに先をさとす。
『続けてくれ』
こくりロザリーが小さく頷き、再び説明棒でなにやら八の階級と七の階級の間にある線を示す。
「七の階級、准男爵の次。第六階級を“男爵”と言うわのだわ。そしてこの男爵の階級から世界では“魔神”と呼ぶのよさ。言わば第七階級は魔神予備軍と言えるのだわ。でもまるで見えない壁でもあるように、七と八の差は大きいのよさ。それこそ、才能があるかないかの差と言えるかもしれないのだわさ」
そこまで話すと一息つき、たっぷりと酸素を補給してから再び口を開いた。
「そして五の階級を“子爵”。四の階級を“伯爵”。三の階級を“侯爵。二の階級を“公爵”、そして第一階級を“大公”とそれぞれ呼ぶのよさ。それじゃあ、ここまでの説明を纏めるのだわ」
そう言うと再び小さく何事かを呟く。すると、今までこの世界と思われる字で書かれてた宙の文字が見事に日本語に変化する。
それなら最初からそうしていればよかったのではないかと思うのだが。聴覚でしっかり覚えさせ、その後に視覚も交えて再度復習させるのは、中々悪くない手だとヴラドは思わず考えてしまう。
とりあえず宙に視線を移せば――――
“一般級”
“兵士級”
“指揮官級”
“騎士級”
“准男爵”
―これより先は別格で
サウザンド(貴族級)と呼ばれており、かつ魔神として区分する―
“男爵”
“子爵”
“伯爵”
“侯爵”
“公爵”
“大公”
と、日本語で書かれている。それをヴラドはしっかりと記憶していく。
エルも今度は真面目に記憶しようとしているようで、真剣な表情で文字に視線を向けていた。
「因みに、お兄様の今のところの階級は――『内なる魂よ、その輝きをそっと私に教えておくれ……魂検』」
何やら、それこそ呪文らしきものを明確に唱えるロザリー。そのまま何やら暫く思案顔をした後、再び口を開く。
「指揮官級と騎士級の間くらいだと思うのよさ」
と、言われてもヴラドにはそれがどれだけ凄いのかよく理解出来なかった。取り敢えず魔神級には未だ遠く及ばないのを理解したくらいだろうか。
『魔神級の力を有するのは未だ遠そうだな』
己に言い聞かせるかのようにヴラドが口にする。やや人間とは違う、少し無理のある音だが、しっかりとその声は口から発せられている。
それも声帯がしっかりと存在するお陰だが、構造が微妙に違うため人のように綺麗な発音は望めないようだ。
「何を言ってるのよさ……スライムは最低階級の一般級なのだわさ。それをたったの数年で騎士級に迫る勢い。環境が特殊であったとは言え、凄まじい成長速度なのだわ。普通、一つの階級をあげるだけでも数年以上。それも階級が増せばより困難になっていくものなのだわさ。私が魔神まで行くのには百年以上掛かったのだわ」
心底呆れた風にロザリーが溜息交じりに口にする。そこでようやく己の歩んだ成長速度が、それこそ異常であったのだと気づく。
側に居たエルは、今でこそヴラドが進化によって実力を再び追い抜いたとはいえ、かつてのヴラドをすら上回る勢いで成長していっていた。
その為自身の成長速度が異常なのだと気づく事が出来なかったのだ。少し考えれば、種自体の潜在能力に差があるのだから当たり前なのだが……
やはり樹海での生活で思考能力が鈍っていたのかもしれない。だが、別段ヴラドが天才だとか、異常な成長効率を誇るだとか言う訳ではない。
ひとえにそれは環境が許したことであり、ヴラドの努力の賜物であった。これより先は、今までのような成長速度は望めないだろう。
ロザリーの言葉からそこまでを理解したヴラドだが、ふと疑問と言うより好奇心が沸き立つ。
『そう言えば、ロザリーの最盛期はどの階級に属していたんだ?』
「ふふ、聞いてくれると思ったのよさ」
ヴラドの質問に背に乗っているのだから、顔は見えないと言うのにまるで悪役のように口元を吊り上げる。
「私の階級は“伯爵”なのよさ。と言っても、別に魂が削られた訳でもないのだから、時間がたてばもとの階級相応の実力は戻るのだわ。まぁ、それこそ百年くらいかかるかもしれないのだけれど……」
最後だけちょっと力なく口したが、その内容にヴラドは素直に驚いていた。今一しっかりとその凄さは分からないが、それでも第四階級と言うのは相当なものであると言うのは理解出来る。
ヴラドの知る由ことではないが、それこそ最盛期のロザリーであれば今のヴラドが百居ようと手傷を負わせられるかどうかであったろう。
一つ下の階級が一つ上の階級を打ち倒すには、階級内で最底辺同士と仮定した場合でも、下の階級の者が十は必要だとこの世界では言われている。
それも状況によって変動するだろうが、少なくとも数倍以上の実力差が能力的に存在しているのだ。
『私がそこまで辿り着くまでどれほどの時を必要とするのだか……軽く頭痛がするな』
その巨体も合わさり、溜息と言うよりは荒い息と称した方が相応しい吐息を零し口にする。
「だいじょうぶだよパパ! エルがさきにそのだいいちかいきゅう? になって、パパにいっぱいたましい? をあげるよ!」
ニコニコと受け取りようによっては物騒なことを口にするエル。それが邪な考えから来ているのではなく、邪気のない純粋な好意から来ているだけにヴラドも苦笑しか顔に出来ない。
そもそも第一階級は無理でも、それ相応を目指すのなら、必然それに伴った犠牲が出るのは必然なのだ。ヴラドもエルに何か言える立場ではなかった。
「まっ、私達には膨大な時間があるのよさ。何をするにしてもゆっくり考えればいいのだわ。あっ、もう先に進んでいいのだわさ」
思い出したように述べたロザリーに従い、再びヴラドが歩き出す。気づけば日は少しずつ沈み始めていた。
もう直ぐ空も茜色に染まることだろう。そこまでいけば後はあっと言う間に夜の帳に覆われるに違いない。
この世界での夜空はそれこそヴラドの生きていた時代、その頃と比べるまでもない程星がよく見える。
天の川らしきものは無論、まるで空が一つの巨大な宝石箱と勘違いしてしまいそうな程だ。
背に感じるほんのりと温かな人の体温を感じつつ、耳にはロザリーの説明を聞き、ヴラドは野営の出来そうな地を目指して広大な草原を突き進む……
後書き
複数の方々に、改行などはこのままでいいと意見をいただきましたので、現状のままで書いていこうと思います。
そして結局一話使って長ったらしく説明……
次からは控えめと言うか、殆ど説明はなくなります。
後は状況に応じて小出しでいきます。面白くもない説明話ばかり、申し訳ありません^^;
それでは、また次の話でお会いしましょう!
あ、一応本作一期の結末はプロット出来ました。
一期と書きましたが、言うなれば中学生三年間の物語の最後と言う感じです。
そのときになって、要望がそれなりにあれば、二期開始(高校生での物語り)みたいな感じで始めれるタイプの終わり方になりそうです。
もし予想出来たら、気軽に何かの感想ついでに書いてみると面白いかもしれません。
一応ドンピシャはないだろうとは思っていますので。