2 偽りの体温
「俺は情報収集のために街に行く。フードに隠れてくれ。」
(見たこともない生物が空中を飛んでたら大事件になりかねないからな。)
「その必要はないよ。」
クロの体の、あの柔らかい毛が皮膚の内側へ吸い込まれる。
膨らむようにして、不自然な音を立てながら肉が人間を形作っていく。
そののっぺらぼうの体に、レイが見覚えのある顔と服が浮かび上がった。
「リ...ツ.?何でお前がその顔を...」
俺の親友、リツと同じ。
金髪に赤い目。センター分けの前髪に、鋭い目つき。
「あーこれ。レイが喜ぶと思ったんだ。」
声が少しずつ、リツに似ていく。
「この顔が好きだろ?なぁレイ?」
直感的にこいつは得体のしれないものだと分かった。
だが親友の見た目で言われてしまって手が出せなかった。
瞬きを一切せずに俺を見つめる。
「そんなに驚かなくったっていいじゃねえか。久しぶりの再会だろ?」
俺に向かって手が伸びる。
振り払えない。
俺はこんなに孤独を感じていたのかと痛感した。
「リ..ツ..。」
(こいつは、リツじゃない。リツじゃないんだ。)
パチンッ。
触れた感覚はほとんどなかった。反射で払いのけたのだ。
「お前何でその姿を知ってる?俺の親友の姿を。」
「人の好きなものを読むくらい簡単だよ!変身するのもね。ニーストラの中では常識なんだ。」
声が元に戻った。
さっきまでの不気味さは一切嘘だったかのような笑顔で言った。
(ニーストラはそういう種族なんだろう。
千年以上出くわさなかったのも変身能力があったからなら納得だ。
そうだよ。そういう種族なんだ...)
「そうか..そうなのか...」
「わぁぁ納得してくれて嬉しい。これからも仲良くしてね!レイ。」
そう言って俺に抱きついてくる。
ああ、また振りほどけない。
彼の体温が俺を動けなくした。
「レ...イ」リツが赤い手で俺に手を伸ばす。その手はぬるくて粘り気があった。
「レイ。街ついたよ!」
俺の手を握りながら無邪気に言う。
太陽は空に昇りきっていた。
青空、リーリアの希望だった光が俺にとっては残酷なほどにまで眩しくて苦しい。
フードを深く被るって下を向く。
「情報収集っていってたよね?なら冒険者協会かな?」
クロに連れられるままに冒険者協会の旗へ向かった。
人々の足音が遠ざかる。
「___見てはいけません」と言う親子の声が聞こえた。
協会の扉を開ける。
「すみませーん。悪魔の情報知りませんか?」
皆こちらを向く。
酒を飲む音が止まり、椅子の引かれる嫌な音が響いた。
何十もの濁った視線が俺達に突き刺さった。
大男が俺達に近づいてきた。
(しまった。忘れていた。)
先程の出来事のせいで冷静さを欠いていた。
フードを深く被る。
大男が言う。
「お前赤い目なのに首輪はめてねえのかよ。」
俺はクロの首根っこを掴む。
バンッ。扉を開けて外に飛び出す。
人混みを切り裂くように走り抜ける。
後ろの方がざわつく。
(もう噂になっているのか。)
なんとか路地裏に逃げ込んだ。
息を整える
...ここなら追ってこないだろう。
「あの人すごい怒ってたねぇー」
「リツ....いや、クロ。
姿変えれるんだろ?今すぐ目の色変えろ。この世界じゃ赤い目は差別の対象なんだ。」
「何だっけーなんか思い出せそうだなー。あっ!悪魔の災厄かー。あの時に始まったんじゃなかった?」
「そうだ。赤い目の者が起こした災厄。
だから赤い目の者は悪魔だと言って差別されている。
悪魔を浄化した象徴が首輪なんだ。」
「皆馬鹿だねぇ。人はここまで愚かになれるもんなんだ。」
(ずいぶんと呑気だな。確かに政府が愚かっていうのには共感するが...)
「今日は少し目立ち過ぎた。本格的な行動は明日からにするぞ。」
「りょーかい」
緑に染まった瞳で俺に言った。
こいつはやっぱり、リツじゃない。そう思った。
その日は街外れの宿に泊まった。
「レイはなんだか昼より夜の方が生き生きとしてるね。」
「青空より夜空の方が安心するんだ。それよりもう寝たらどうだ?」
「そうだね。月ももう高いし。レイは?」
「俺はまだ夜風にあたっとく。」
宿の屋上からの星空は綺麗だった。
ヒュオーッと風が吹き抜けた。
その風は俺の心を落ち着かせた。
今回は早めに書き終わりました!
次からは21時前後投稿を目標にしようと思います。
見てくれてありがとうございます。




