8 踏み込む前に
宿についたときには空が色づき始めていた。
部屋の扉を開ける。
メイナとクロが、壁にもたれたまま座って眠っていた。
俺の気配に、メイナが跳ねるように目を覚ます。
次の瞬間、
彼女は俺に飛びついてきた。
「もう!心配したじゃん。
せっかく仲良くなったのに、即行で絶交とかありえないんだからね!
ほんとに!もう。」
クロがメイナを引き剥がした。
「レイから離れろ。」
メイナは軽々と放り投げられ、部屋の奥の壁にぶつかった。
ドンッと音が響いた。
「いたたー。」
(ニーストラの価値観はこんなにも人と違うのか...)
「クロ。疑う気持ちは分かるが、やりすぎだ。」
「...」
俺の言葉に、クロはメイナの元まで行き、手を伸ばした。
「悪かった。」
メイナは手をとって起き上がる。
メイナは少し驚いたような表情だった。
メイナが立ち上がるのを確認すると、クロはすぐに俺の元へ戻ってきた。
そして俺の手を取ると、そのまま部屋を出ようとする。
「宿は後少しで宿泊期限が切れるから早くでるぞ。」
俺は歩きながら振り返り、メイナに言った。
メイナはフードを持って、俺達の後をすぐについてきた。
宿を出てすぐ、大通りには向かわずに路地裏に入った。
さっきまでクロが手を引いていたが今度は俺が手を引いている。
「レーイどこ向かってるの?」
後ろからメイナの声が聞こえた。
「対悪魔部隊のこの街の支部だ。
ルルを助けてほしいんだろ?」
メイナが駆け寄ってくる。
「いやいやいやいや、乗り込むなんて無理ゲーだよ?
能力者何人いると思ってんの?」
「首輪の構造を知れたら、もう少し楽に政府から解放してやれるだろ。」
「そりゃそうだけどさー。なんか作戦でもあるわけ?」
「記憶いいんだろ?建物を案内してくれ。」
「ほぼ作戦ないに等しいじゃん!!
私に丸投げ?そこまで過大評価してんの?」
「メイナの能力を信頼してるんだ。」
「もう!そんな事言われたら断れないじゃん!もうっ」
メイナは顔を赤くして、乱暴にフードを深く被り直した。
俺の隣を歩くクロが、不機嫌そうに俺の手を握る力を強めた。
対悪魔部隊の支部。
少し遠くから眺める。軍の基地のような大きな建物。
正面には武装した兵士が立ち、門の上には監視塔まである。
周りも高い柵で囲われている。
「メイナ。」
「はいはい。私の出番ね。」
そう言って、地面に何か書き出した。
みるみるうちに複雑な模様に変わっていく。
完成したそれは、支部の構造図のようだった。
「えーと、ここはこれで、ここはこれだから....」
メイナが構造図とにらめっこをする。
少しして口を開いた。
「首輪の情報があるとしたら、
2階のここか、
一番上の階かな。
でも正直、一番上の階の情報は全くないと言っていいから、罠とあったら詰むね。」
「大丈夫だ。だいたいの罠は地面に触れたら発動する。
浮遊して動けばいい。」
「え..?レイ。私浮遊できないよ?」
「じゃあお前は5階まで僕たちを案内して、2階を調べればいいんじゃないか?」
クロが話に割り込んだ。
「ええ...もし何かあったらどうするの?
潜入にバレたら殺される可能性があるんだよ?」
「僕たちの方は強いから問題ない。お前はここに詳しいからいけるだろ?」
クロはそう言うが、メイナの顔は強ばっている。
「クロ。メイナはADSを抜けたばかりなんだ。
抜けたばかりのとこで一人いるのは寂しいだろ?」
「そ、そういうわけじゃないんだけどー。
五階は誰がいて、何があるのか、何もかもが不明だから...
フェニーさんがいる可能性もあるし...噂だけど、」
「そのフェニーっていうのは誰だ?」
「フェニーさん自体が強いわけじゃないんだけど...
フェニーさんは武器作成する専門の人で、
その人のつくる武器がマジでチョー強いわけ。
私の武器もその人が作ったらしいし..」
「問題ない。」
そう言ってクロは俺の手を引く。
「ふと、気になったんだが。
メイナ、
その首輪は生まれた頃から変わってないのか?」
「確かに一回も外されたことなかったな。」
(メイナの首輪には鍵があった。それに、小さな頃からずっと同じ首輪なら今頃、首は締め付けられていただろう。でもそこまで窮屈じゃなかった。知らない内に付け替えられていたのだろうか。)
メイナが後ろから俺の手を握ってくる。
「こうしないと、能力使えないでしょ?分かってね。クロ。」
クロはメイナを冷たい眼差しで見つめる。
メイナの能力で、裏口からあっさり侵入できた。
裏口でもずいぶんと人が多い。
兵士以外の人も大勢いた。
食材や悪魔の情報を輸送してきたのだろうか。
メイナがいきなり止まる。
....「どうした?メイナ。」
「あっごめんごめん。
ここの先で能力使ったら首輪から電気が流れる仕組みがあったなって思って。気にしないで。」
不安を隠すように、彼女は少し大袈裟に笑ってみせた。




