6 赤い雨
しばらくして彼女は泣き止んだ。
自分の首を触る。
俺に目を合わせて言った。
「ありがとう。」
彼女が立ち上がる。
時計塔の穴の空いた場所から外を眺めた。
彼女は深呼吸した。
「お願いがあるの。」
そう言って俺の方を振り返る。
「ルルを助けてあげて。
あっルルっていうのは、私と一緒にいたもう一人の子の事。」
「そんなすぐに政府を裏切っていいのか?」
「いいに決まってんじゃん。やっと解放されたんだから。
とことん裏切ってやる。」
「それもそうだな。」
「ルルはADSの中でも最強クラスの戦力。
だからルルが抜けたらADSにとっては致命傷。
ついでにさ、ルルは200年前からADSにいるの。
当時は今と比べ物にならないくらい過酷な訓練だったらしくてさ。」
俺も時計塔の壁に歩み寄る。
「分かった。ルルは助ける。」
時計塔の上をちらりと見た。
「今はクロと攻防中ってとこか。」
「あっそういや。名前聞いてなかったね。君の名前は?」
「レイ。」
「私はメイナよろしくね。」
手を差し出してくる。その手を掴んだ。
「そういえば、そういえばなんだけど、私は君の仲間ってことで問題ない?」
「もちろん。」
カツ、カツ、
階段を登る音が近づいてきた。
所々が包帯で巻かれている男だった。
(赤い目...ADSのやつか。)
「は?なんでお前敵と組んでるんだ?」
男が言う。
「これはー色々あってですねー。」
「なにが色々だ。」
そう言って刀を向けてくる。
「キャーこわーい。」
メイナは俺と手を繋いだ。
男の横を通り抜けていく。
「チッ。」
周りを見回しながら、男はまったく違う方向に進んでった。
(彼女の能力は気配を消す。もしくは透明化ってとこか。
ついでに自分と接触して者にもその効果が現れる。)
時計塔の階段を登っていく。
「あの子は助けなくてよかったのか?」
「あいつは自分からADSに入ったんだよ。悪魔の情報を探す為、らしいね。
だからー助けてっていわれたとき助ければいいんじゃない?」
「そういえば君はずいぶんと情報を持ってるな。」
「記憶力がいいんだー。ADSのメンバーの情報はだいたい持ってるよ。
後、私がADSに入ってからの悪魔の情報もね。」
「悪魔の災厄の情報は?」
「あーあれ?赤い目の者が起こした。っていうのと、
どこからともなく魔物が現れて世界中を血に染め上げたっていうのは聞いた。
確か人口の三分の一が死んだんだっけ?」
「どの悪魔が起こしたとかは分からないのか?」
「その赤い目の者が人間のフリした悪魔なんだよ。
私たちはみーんな悪魔なんだって。」
(政府の嘘だな。
そう言って赤い目の子供を政府に預けさせてるのだろう。
嘘ならもう少しマシな嘘をつけないのか。
悪魔の血は黒色。俺達の血は正真正銘、赤色だ。)
「ところでレイ。君の使ってたシールドって魔法だよね。
剣を操るのは生まれつきの能力だろうけど。なんで使えるの?」
「俺にも分からない。悪魔と戦う中で少しづつ使えるようになったんだ。」
「へえ。初めて聞いた。」
ついに最上階まで辿り着いた。
最上階、戦闘現場。
辺り一面が血に染まり、まるで赤い湖のようだった。
クロは空中を飛びながら攻撃を避けている。
ルルは地面に立ったまま、静かに空のクロを見上げていた。
ルルは体中真っ赤だった。
一歩踏み込もうとした。
「おっとー。それ以上行っちゃだめだよ。」
メイナに止められる。
赤い血が微かに動く。
それはすべて針となりクロを襲った。
逆さに赤い雨が降っているようだ。
「やっぱたいちょー半端ないね。」
彼女の歩みごとに血の波紋が広がる。
何かを感じ取ったかのように俺達の方を振り返った。
鋭い瞳が俺達を貫く。
「あっ、気づかれたかも。」
血の球が周りに浮かび上がる。
メイナの膝裏に蹴りをいれて、しゃがませた。
血の球から無数の針が飛び出す。
メイナから手を離して駆け出す。
足元に血の波紋が広がる。
その波紋から針が現れて、俺を襲う。
クロの方にも針を飛ばしている。
(すごい技術だな。二人同時に狙っているのに、狙いがまったくぶれない。)
「お前を殺す気はない。お前を政府の拘束から解放したいだけだ!」
「必要ない。」
足元の波紋から丸い球体が作られる。
それが俺を飲み込もうとしてきた。
間一髪でその球体から抜け出す。足がヒリヒリする。
血に触れるのはまずいと思い、浮遊した。
そのまま加速して一気に距離を縮める。
クロも上から距離を縮めた。
足元から赤い壁が現れる。
その壁がこちらに倒れてきた。
大きく後ろに下がる。
血の壁が崩れ、視界が開けた瞬間。
ルルの体が横へ弾き飛ばされていた。
(!? クロが飛ばしたのか。分身...)
クロが二人に分裂していた。
ルルの近くまで歩み寄る。
苦しそうだ。
首輪に手を伸ばそうとした瞬間。
赤い血が彼女を覆う。
赤い塊は、夜空へと勢いよく飛び去っていった。




