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[全三話] 嘗て死神と呼ばれた少年は死を偽装して隠匿の日々を望む  作者: 安ころもっち


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嘗て死神と呼ばれた少年 前編


――― 死神と呼ばれた少年


 小さな田舎町で幼少期を過ごしたアイン。


 彼はその即死スキルという強力な力のせいで、「死神」と呼ばれ周囲から忌み嫌われ、不遇な幼少期を過ごしていた。


 その発端はアインが5歳の時。

 村を襲った盗賊達おおよそ30人を、初めて発動した即死スキルにより全滅させていた。その様子を見た村の人達はアインに恐怖し、目隠しをして自室に閉じ込められ、孤独な毎日を送っていた。


 村人が恐怖した対象であるアインは、誰よりも心優しき少年だった。

 こんな自分に恐怖の感情を向けるのは仕方のない事なのだろう。そう思って現状を受け入れていた。


 目隠しをされた程度では、自身のスキルを発動することに何ら障害がなかったことを隠して……。


 村から迫害を続けられていたのは両親も一緒だった。


 仕事に従事することを禁じられ、最低限の食料を供給されるだけの生活。そんなことが10年程続いた春、食料を届けに来た村人により、アインの両親は手を取り合うようにして床に倒れていた姿が発見された。


 親無しとなってしまったアイン。

 村長はその報告を受け激しく悩んでいた。


 誰がアインの世話をするのか?

 誰がアインを殺すのか……。


 アインという名のあの死神を、今後どう扱うべきかと……。


 結局アインは村を追い出されることになった。

 外に連れ出され目隠しを外されたアイン。10年ぶりの光にまぶしさを感じ目を擦る。その後、アインの目に映ったのは、村人一同が地面に頭を擦り付け謝罪する姿であった。


「食料とお金はこれが限界なのだ。すまない。本当にすまない……」

 そう言う村長。


 アインの目の前にはアインがなんとか持ち上げられる程度の袋があった。

 その中に収穫され備蓄されていたであろう野菜や干し肉が詰まっているのを確認したアイン。その横に置いてある小袋を開くと、そこには銅貨が多数入っており、何枚かの銀貨も混じっている。


 アインはその中から銀貨を一枚だけ取り出すと地面に戻していた。

 お金の価値など知らぬアインは、この綺麗な方が高価なのだろうと感じ、それを一枚だけならと思って取り出したのだ。


 重そうに食料の入った袋を担ぐと、アインは軽く頭を下げ村人達に背中を向け歩き出していた。


 銀貨一枚では宿に泊まり食事を頂けば、2~3日で無くなってしまう程度の価値しか無いのだが、そんなことはつゆ知らず旅立ったアイン。そんなアインに村人達からは謝罪の言葉が繰り返されていた。


 その言葉は届いていたのかいないのか……。

 アインの孤独な旅が始まった。


 村を出たアインは味のしない生野菜を口にしながら、3日程歩いたアインは隣町に到着する。


 自らの即死スキルを封印し、その正体を隠しながら冒険者となることを決意した。

 その誓いを胸に冒険者登録をしたアインは、薬草採取や店番などの簡単な依頼をこなしながらなんとか生活を成り立たせていた。


 背が低く見るからに子供なアインは他の冒険者達に邪険にされながらも、日々の平穏を守るため必死で笑顔を作り暮らしていた。


 だがそんな日常は一変する。


 平和な王国の象徴である第一王女殿下であるクリストファが誘拐されるという事件が発生。誘拐を実行した『月夜の番人』という反王家の組織との交渉は難航していた。

 『月夜の番人』からの要求は王家の退陣、民主化して自分達を主とした国家を作ることという、到底叶えることのできない要求であった。


 国王陛下も、"国"と"娘の命"、どちらを取るのかという究極の選択に頭を悩ませていた。


 王家が必死に交渉を続ける中、人々の絶望と悲痛な叫びを聞いたアイン。

 内に秘めた即死スキルを開放することを決意した。


 単身アジトに忍び込んだアインは、クリストファを攫った者達をスキルで即死させてゆく。視線だけで相手を殺せるアインに取って、クリストファに危害を加えることなく救出することは難しくはなかった。


 無事にクリストファを救いだしたアイン。

 だが、すでにアジトに忍び込んでいた王国の隠密がその一部始終を見ていたことを、アインが知るのはまだ先のことだった。


 隠密からの報告を受けた国王陛下はアインの得体のしれない力に恐怖した。それは周りにいた者達も同様に感じていたことだ。


「死神……」

 誰かがそう呟いたのは、ある意味当然のことだったかもしれない。


 国王陛下はそのアインという名の死神を、国にとっても危険すぎる力と結論付けた。だがアインには娘を、そして国を救った恩がある。

 悩んだ陛下は城に呼びつけたアインに対し、王国からの追放を伝え頭を下げた。報酬として金貨をぎっしり詰め込んだ袋を送り、もう一度頭を下げた。


 アインは金貨の袋をしっかりと両手で握り、陛下に頭を下げ城を後にした。

 冒険者として生活を始めたアインにはすでにお金の大事さは身に染みていた為、今回は遠慮することはない。ましてはこの国をでるのならお金が必要なものであったから。


 城にいた者達は何事もなくこの場を去ったアインに、安堵し胸をなでおろしていた。


 もしこの待遇に機嫌を損ねてしまったら……。

 それを考えただけで冷たい汗が流れ出てしまうほど、アインの力を恐れていた。


 だが、アインにより助け出されたクリストファだけがこの処分に苛立ちを覚えたのは当然のことだろう。確かに救出された直後はその光景に恐怖し震えが止まらなかったが、彼は私に不安そうな顔を向け気遣ってくれた。


 そのアインの差し出した手を思わず避けてしまった弱い自分。数日たった今でも悔しくてたまらないクリストファ。

 そんな自分に我慢ができないクリストファは、強くなろうと決意し、日々の修練にのめり込んでいった。



――― 偽りの平和と迷宮の惨劇


 馬車を乗り継ぎ、隣国であるロシアン帝国へと向かったアイン。


 あと一歩で帝国という場所で野盗に襲われてしまう。

 野盗が襲ってきたのは皆が寝静まった夜。明日にも帝国へ入る為の最後の夜営地での夜だった。


 アインに用意されたテントにこっそりと忍び込んだその野盗。

 王国貴族が用意した暗殺者であった。


 その暗殺技術は高く、今回も依頼もアインが寝ている間に全てが終わっている……、はずだった。


 幸か不幸か不安から眠りの浅くなっていたアインは、僅かな振動で目を覚まし、目の前に迫ってきていたナイフを転がり躱していた。


 そのままテントから飛び出たアインは身構える。

 だが強力なスキルを持つ反面、動きは素人同然のアイン。暗殺者の凶刃により何度も切り付けられ、体のしびれを感じ地面を転がった。


 その刃には毒がたっぷりと塗り付けられている。

 恐怖に顔を歪ませながらも暗殺者の様子を伺うアイン。


 暗殺者はその視線に恐怖しその身を引いた。

 当然である。視線だけで殺せるスキルを持った少年の殺害。それが今回の依頼内容であり、懇意にしている子爵家から通常の数十倍の金を受け取った上で個人的に受けた依頼だ。


 暗がりからアインの様子を伺う暗殺者。

 後は待つだけで良い。あれだけ何度も切り付けたのだ。全身に毒が回り息絶えるのを見守れば良い。そう思いながらも、自分が理解できぬまま死ぬのでは?そんな恐怖に背筋が寒くなっていた。


 それから数十秒後、顔を上げ辺りを窺っていたアインが顔を下げ動かなくなった。もう大丈夫。そう思って安堵の息をはく。まだ震えが残った体に喝を入れながら、報告をする為に王都へと戻って行った。



 数分後。

 ゆっくりと顔を上げるアイン。


 毒により動けなくなったアインは顔を地面に付けながら、脳内で自身の体を視ていた。

 体内に侵入してきた毒を可能な限り感知したアインは、その毒素の死を願って即死スキルを発動させた。


 体が軽くなる。だがまだしびれは残っている。

 土の匂いを感じながらゆっくりと深呼吸を繰り返すアインは、全身に力が戻ってくるのを感じるまで体を休めていたのだ。


「もう、いないよね?」

 そんなことをつぶやき辺りを確認する。


 他のテントで寝ていたはずの御者が、テントの中からこちらを窺っている。

 視線が合ったことで慌てて隠れた御者に、どうしたら良いかを考えていた。


 他のテントの中を覗き込むように視線を送る。

 うっすらと見えるそれぞれのテントの中で、体を起こしていたのは御者だけであった。


 アインはその能力により布地などの障害はすり抜けて視ることのできる。それが即死スキルが目隠し程度では防げないという理由でもあった。

 アインがそう望めば、テント越しにでもターゲットの動きを確認し、ひっそりと暗殺を終えることができる。そんな凶悪なスキルであり、そのことが知っていたとしたら、王国もアインの命を終わらせることに躊躇はしなかっただろう。


 アイン自身が清廉であったとしても、それを悪用しようとするものは必ず出てくるのだから。


 アインは意を決し御者のテントに近づいた。


「な、なんの御用でしょうか?」

 アインの足音を聞きテントから顔だけ出した御者の顔色は悪い。


「お願いがあります。これで……、他のお客さんへの口止めと、王国に戻ったら僕は寝ている間にここで死んでいて、仕方なく川へ投げ込んだということにしてくれませんか?……、きっと深く追求されないと思いますから……」

 そう言って金貨を10枚程取り出したアイン。


 カクカクと首を縦に振っていた御者は、震える手でそれを受け取った。

 アインは一度頭を下げると、帝国に向け走り出していた。


 月明かりがそのアインを照らしている。

 その姿をいつまでも見ていた御者は、翌日の朝、他の客に無言を貫くことを伝え金貨を一枚づつ手渡すと、帝国の最初の街まで送り届けていた。


 数日後に王国に戻った御者がそれを門の兵士には報告した。だが兵士は「そうか」と短く返すだけで済んでしまった。

 何か言われ罰せられるのでは?投獄されて処刑されてしまうかも?そんなことを考えていた御者は、あまりのあっさりとした対応に逆に冷や汗が止まらなかった。



 一方、帝国の小さな町へと無事たどり着いたアイン。


 追放された過去を隠すため、エドという名で冒険者登録をして平穏に暮らしていた。


 王国からもらった金貨はまだあるが、何かがあった時の為に節約は必要だと感じながら、当然のように即死スキルを封印し、定番の薬草採取や荷物運びといった地味な依頼をこなしていた。


 それはアインにとっての束の間の休息、偽りの平和な日々であった。


 だが、アインの穏やかな生活は、ある男爵の家臣との出会いによって壊されることになる。


 薬草採取の依頼を終わらせ、報酬を受け取りギルドから出たアイン。

 道中で真っ直ぐに走ってきた男を避けきれずぶつかってしまう。


「この汚らしいガキが!私を誰だと思っている!」

 そう叫ばれたアインだが、さすがに我慢しきれずに言い返してしまう。


「ぶつかってきたのはそちらでしょう?」

 そんなアインの反論に、怒りを露わにする男。


「お前、私は男爵様に仕える者ぞ!私を侮辱するのであれば、それは男爵様への侮辱でもあることが理解できぬというのか!」

 男のあまりの言い分に、アインはその男が何を言っているのか、意味が理解できていなかった。


 周りを見渡すアインと、目を合わす者は誰もいなかった。

 誰もがこんなトラブルには巻き込まれたくはないのだろう。


 結局、その男の要求に応じやってきた衛兵により、アインはその場で身柄を拘束されることになる。

 抵抗を一切しなかったその様子に気を良くしたその男により、アインはその男の主人である男爵と、奴隷と変わらないような不当な契約を交わすことになった。


 依頼をこなしてはその報酬を男爵に献上する日々。

 そんな中、複数の同じような境遇と思われる覇気のない従者達と一緒に、男爵御一行の護衛として迷宮に同行したアイン。従者が一丸となって魔物から男爵御一行を守るアイン達。

 何とか全員が無事にその目的となる階層へと到達することができた。


 これから地上へ戻って戦利品を換金しよう。

 嬉々とした男爵がそんな話をしている中、家臣の一人が不用意に壁にもたれかかる。だがそれは、壁ではなく扉であった。


 全員が強制的にその部屋へと吸い込まれてゆく。

 その部屋に鎮座していたのは、この迷宮のボスであるアークデーモンという悪魔種の魔物であった。


 その強さは上級冒険者が数人で挑む程の手強い魔物であった。

 本来は予定していなかったその強敵との戦闘に、身動き取れず震えあがって地面にへたり込む男爵御一行。


 次々に切り殺されてゆく従者達。

 絶体絶命の窮地ではあったが正直なところ即死スキルを持つアインの敵ではない。このまま逃げ回り自分以外が死ねば……、一瞬ではあるがそんなことを考えたアインは大きく首を振る。


 憎らしい男爵だが見殺しにすることはできない。そう思ったアインは即死スキルを開放し、迷宮のボスであるをアークデーモンを一瞬で葬り去ったのだ。全員ではないが、従者も命も助かったのだ。


 それでも早く能力を開放しなかったことを悔やむアイン。

 一方、命を助けられた男爵はその畏怖すべき力を目の当たりにし恐怖に震えていた。だが迷宮から出た後、今度はアインを自らの手駒として取り込もうと話を切り出していた。


 高額な報酬、地位や名誉、女、違法薬……、その全てに喰いつかないアインに男爵は苛立ち、ついには奴隷商を呼びつけ、強制的に奴隷紋を刻もうとしていた。


 理不尽さを感じたアイン、その奴隷商を突き飛ばし、追手をも振り切り街から逃げるように出ることとなった。


 全ては即死スキルを持つがゆえの悲しい境遇。このスキルがある限り、安住の地はどこにもないのだと悟ったアインは、旅を続けながらこの力を消し去る方法を探すことを決め、南を目指した。


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