終.ある作家の独白
作家・影浦陽介は、近所の公園の二人掛けのベンチに腰掛けていた。隣には、誰も座っていない。
しかし、今日の作業はなかなかに捗ったのではないか。影浦は満足げに振り返った。
次回作はミステリーで行こう。そう決めて、事件の大枠までは固めたものの、真相につながる証言や探偵役のキャラ設定は、まだまったく見えていなかった。
煮詰まった影浦は気分転換に散歩に出かけ、誰もいない公園のベンチで、ぼんやりと作品の構想を練っていたのだ。
影浦は先ほどまで脳内で語り合っていた探偵の姿を思い浮かべる。
証言のわずかな言葉の違和感から真相を見抜く探偵――このアイデアは、実によかった。
冷静に淡々と語りながらも、言葉の端々にはユーモアがある。怒りっぽい探偵をなだめる助手役を添えれば、小気味よいテンポの掛け合いが期待できる。
なかなか魅力的なキャラクターではないか。思わず自画自賛してしまう。
そして、問題のトリックだ。あれこれ試行錯誤しているうちに、思わぬ方向へと転がっていった。
地の文やキャラの台詞でついつい語らせすぎてしまうのは、影浦の作家としての明確な弱点だった。
だが、今回ばかりはそれが良い方向に転がった。
「犯人はJASHメンバーではなくマネージャー」までは想定していたが、まさか他の三人まで絡んでくるとは思わなかった。
自分の頭の中から生まれた話だが、思いがけない方向に物語が転がっていくのは、作家としては日常茶飯事だった。
これなら、いい作品に仕上がりそうだ。
影浦はベンチから立ち上がると、晴れやかな表情でゆっくり歩き出した。来たときよりもずっと澄み渡った空が、やけに美しく見えた。




