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UNJASH  作者: 城太郎
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2.慎也の証言

 容疑者は、その場に居合わせた JASHのメンバー三人だった。メンバー同士の相談を防ぐため、警察による取り調べは別々に行われた。


「なるほど。口裏合わせはできなかったということだな」


「はい。共犯の可能性もありますから」


「つまり、各自が見たこと、知っていることだけが証言に含まれている――そう考えていいのだな」


「状況の整理を、ありがとうございます」


 Kは素直に感謝の言葉を口にしたが、探偵は眉間に皺を寄せ、不満げにため息をついた。


「本来、このような前提条件の説明は、君がするべきではないのか? 私に役目を押し付けないでくれたまえ」


 探偵は Kに向かってわざとらしく肩をすくめてみせた。


「申し訳ありません。でも、一見冷静なあなたが、そんなふうにプンスカしているというのも、なかなか味があっていいですよ」


「おちょくっているのか?」


「いえいえ」


 探偵は怒ったような口調ではあったが、目はどこか愉快そうで、このやり取りを楽しんでいるようにも見えた。Kも思わずクスリと笑う。


「話を戻しますと、事件当時、三人はスタジオにいました。殺された淳さんがいたのは、同じ建物内にある控室です。歩いて 30秒ほどの距離ですが、角を曲がった先にあるため、スタジオからは控室が見えない位置にあります」


「つまり、スタジオから誰が、どのタイミングで控室に行ったか? そこが争点となるわけだな」


「さすがです。話が早くて何よりです」


 Kはニッコリと笑い、懐から取り出した手帳をパラパラとめくっていく。


「一人目の容疑者は、石森慎也(いしもりしんや)。JASHのギター担当で、リーダーを務める最年長メンバーです」


「凶器のロープの持ち主だな」


「はい。警察の調べによると、淳さんが暴力を振るった交際相手は、なんと慎也さんの妹だったそうです。そして、その妹さんは事件の後、淳さんのファンからの誹謗中傷を受け、自殺をしていたことが判明したとか……」


 Kがページをめくる音が響く。探偵の目つきが鋭さを増した。


「動機は十分、ということか」


「そうなります。それでは、取調室での証言をご紹介しますね」





――遺体発見当時の現場の様子はどうだったか


「控室ですか? 普段は荷物置き場として使っている部屋で、真ん中には大きなテーブルがあります。部屋の右奥には掃除用具入れのロッカーがあって、これがまた傷だらけで錆びついてて……人が一人くらいは余裕で入れそうなくらい大きいんですよ。そのすぐ横には、これまた大きなハンガーラックがありました。もう夏ですから、何もかかってないハンガーがいくつかぶら下がっていましたね。あと、テーブルの下にウーロン茶のペットボトルが転がってました。ラベルが剥がれかけていて、中身は三分の一くらい残っていたと思います」


――遺体の様子は


「控室に入って右側のソファの横に、淳が倒れていました。最初はただ寝てるだけかと思ったんですけど、篤志が血相を変えていたので、俺が近づいて確認したら、もう死んでいました」


――発見までどこにいたか


「スタジオにいました。みんなで一緒にいましたよ」


――遺体が発見されるまでの間に、スタジオを出入りした者は


「最初は淳も含めて四人で練習してました。その後、淳が『疲れた』とか言って一度控室に戻って。それで全然戻ってこないんで、俺が様子を見に行ったんです。ぐっすり寝てて、揺らしても全然起きない。それで俺はスタジオに戻りました。戻ったときには、他のみんなは全員スタジオにいましたね。俺は淳が戻ってこなくても練習再開しよう、って言ったんですけど、宏斗が『電話をする』とか言って出て行って、少ししてから戻ってきましたね」


――篤志さんが遺体を発見したときの状況は


「淳が全然戻ってこないんで、どうしようかと思っていたら、宏斗が飲み物を倒したんです。やばいやばいとなって、そういえば控室に掃除用具があったな、と思い出して。それで篤志が取りに行くことになって、そしたら大声が聞こえて。駆け付けたら、倒れてる淳を見つけたってわけです」


――怪しい動きをしていた者はいなかったか


「どうですかね……正直、みんなのことを疑って見ていたわけじゃないんで。でも、今思えば、電話をすると言って出て行った宏斗と、あとはやっぱり第一発見者の篤志。この二人はちょっと怪しいかもしれませんね」


――購入したロープについて


「確かに俺が買いました。でも、あれはライブの演出で使うつもりだったんです。まさか、勝手に持ち出されて、凶器として使われるなんて……本当に許せませんよ」


――淳についてどう思っているか


「そりゃあ、不満はありますよ。活動休止のこともそうですし、刑事さんなら知ってるでしょうけど……妹の件もです。許せない気持ちはありますけど、殺したりなんて――そんな大それたこと、さすがにしませんよ」





「ずいぶんと、説明的だな。現場の様子は、手に取るように分かるが」


「いやあ、そういう性分なもので」


「待て。これは証言なのだから、慎也さんが話した内容そのままのはずだろう?」


「え? ああ、まあ、そうですね。私が変に誇張したりとか、そういうことはないですよ」


 慌てたように補足した Kを、探偵はギロリと睨んだ。


「どうだかな。今までの話を聞いていると、君はその場の判断で説明を削ることがあるように見受けられる」


「そ、そんなことはないですよ。ただ、ちょっと忘れちゃったりすることもあるかなー、とね」


「すべてを余さず伝えるのが君の役目だ。そうでないと、 "フェア" でない。そうは思わないか?」


「ご、ごもっともです。以後、気を付けます……」


 Kはしゅんと肩を落としたが、一方で探偵は満足げな表情を浮かべている。


「ところで、証言に出てきた "ロッカー" や "ハンガーラック" 、 "ペットボトル" は、実際に現場の控室にあったのだろうか?」


「え、えーと……ロッカーとハンガーラックはありました。でも、ペットボトルはありませんでした」


「ほう。ペットボトルだけはない、と」


 探偵の目が一瞬、鋭く光った。だが、今はそれ以上口にしようとはしなかった。


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