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UNJASH  作者: 城太郎
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1.事件概要

 初夏のある日、男は人通りの少ない公園をゆっくりと歩いていた。日差しが強く、男の額にはじんわりと汗がにじんでいる。ちょうど木陰になっているベンチを見つけ、男は腰を下ろして一息ついた。


 そこへ、一人の男が通りかかった。とくに知り合いではなかったが、男はふと思い立って、声をかけてみることにした。


「こんにちは」


「こんにちは、今日は暑いですね」


 男はベンチの左隣を、トントンと軽く指先で叩いて示した。


「こちらで休んでいかれては?」


「……そうですね、そうすることにします」


 二人はベンチに並んで腰掛けた。遠くで子どもたちの遊ぶ声がかすかに聞こえるが、近くに人の姿はなく、静かなものだった。


「どうして、呼び止めたんですか?」


「え?」


 唐突な問いに、男は固まった。どうして呼び止めたのか――その理由が、男自身さえも分かっていなかったからだ。とっさにいい返答が思いつかず、思わず黙ってしまった。


「知り合いでもない私を隣に誘うなんて、何か話したいことがあったのではないですか?」


「……確かにそう、かもしれませんね」


 男は図星を突かれ、ため息をついた。「そう言われてしまっては、話さないわけにはいかない」――そんな顔をしていた。


「実は、なかなかに複雑な事件がありまして。真相が分からず、ずっと悩んでいたのです」


「事件……ですか。もしや、刑事さんとか、そういったご職業ですか?」


 男は苦笑し、いやいやと手を振って否定した。


「そんな立派な者じゃありませんよ。私ごとき、そうですね……"K"、とでもお呼びください」


 そう言うと、Kは恥ずかしそうに笑った。


「Kさん、ですか。では、私は……そうですね、"真実を追い求める者" とでもいいますか」


 隣の男の意味深な言葉に、Kは俄然興味をそそられた。


「探偵みたいなものですか?」


「……ええ、あまり意識したことはなかったですが、ここでは探偵、ということにしておきましょうか」


 探偵の持って回った言い方に引っかかりを覚えたが、自分もまた素性を明かしていないことに気づき、Kはそれ以上追及はしなかった。


 探偵はそんな Kの横顔をじっと見つめると、軽く微笑んだ。


「Kさん、あなたの悩んでいる事件……もしかしたら私が解決できるかもしれません」


「ほ、本当ですか?」


「はい。なぜなら、私は探偵ですから」


 そう語る探偵は、とくに自信ありげな様子もなく、無表情で、声のトーンも淡々としていた。


 しかし Kは、こんな探偵こそが自分の抱える難問を解いてくれるのではないか――そんな予感がした。


「分かりました。では、私の知る事件の概要をお話ししてみたいと思います」





 事件は、とある音楽スタジオで起こった。


 人気音楽グループ「JASH」のメンバーの一人、淳が殺されたのだ。


 JASHは、淳・篤志・慎也・宏斗の四人で構成された大人気バンドグループだ。デビュー当初から、歌唱力とビジュアルの両面で高い評価を受けていた。


 ドラマ主題歌への抜擢もあり、テレビへの露出も日に日に増え、順風満帆かと思われた。


 しかし、デビューから二年が経つと、JASHも勢いに陰りが見え始めた。流行の移り変わりというのは早いものだ。


 さらに追い打ちをかけるように、ボーカルの淳による暴力事件と交通事故が立て続けに起こった。淳は謹慎処分となり、JASHも活動休止に追い込まれた。


 それから半年が経ち、久々にメンバー全員が顔をそろえた練習日に、事件は起きた。


 被害者の名前は、相沢淳(あいざわじゅん)。JASHのボーカルであり、人気ナンバーワンの中心人物だった。一方で、活動休止の原因となった人物でもある。


 交際相手の女性に暴力を振るっているところを週刊誌に撮られ、その一週間後には、自らの運転する車で物損事故を起こし、大きな話題となっていた。


 スタジオでの練習が再開されたこの日、メンバーの間には多少の緊張感が漂っていたという。淳の言動が原因で活動が止まっていた以上、それも無理はない。


 そんな中、「疲れた」と言って控室に移動した淳が、なかなか戻ってこなかった。心配した他のメンバーが様子を見に行ったところ――すでに、淳は息絶えていた。


 その場は騒然となり、すぐに警察が駆け付けた。


 死因は、首を絞められての窒息死。首元にはロープの跡がくっきりと残っていた。


 そのほか目立った外傷としては、左頬に大きなアザがあった。検死の結果、このアザは死後できたものであると断定されたが、その原因は分からずじまいだった。


 被害者のズボンのポケットからは、遺書が発見された。「死をもって償いたい」――そう書かれた遺書は印刷されたもので、本人が作成したものかどうかは定かではない。


 さらに、遺体からは睡眠薬も検出された。その後の捜査で、睡眠薬が入っていたと思われるウーロン茶のペットボトルが、スタジオ入口付近の自動販売機のごみ箱から発見された。


 凶器と思われるロープは、メンバーの一人・宏斗の鞄の中から発見された。そのロープは、同じくメンバーの慎也が一週間前に近くのホームセンターで購入していたことが分かっている。





「随分と、文学的な語り口だな」


 Kの説明を最後まで聞き終えると、探偵はボソリとそうこぼした。


「いやあ、そういう性分なもので」


 Kは照れくさそうに、ぼりぼりと頭をかいた。


「分かりにくかったですか?」


「いや、状況が手に取るように分かった。この調子で頼む」


 探偵の言葉に Kはふと違和感を覚え、不思議そうに首をかしげた。


「先ほどとは、口調が変わっていますね」


「探偵、というならこういう口調の方が "らしい" と思ったんだが」


「確かに、おっしゃる通りです。その調子でお願いします」


 探偵の言葉に、Kは合点がいったとばかりにニヤリと笑った。


 探偵はKの様子をちらりと見やり、わずかに息を吐くと冷静な口調で続けた。


「一つ聞いておきたいのだが、遺書があったとなれば、自殺の線は?」


「警察も最初は自殺を疑いましたが、すぐに他殺と断定しました。理由は、首に残されたロープの跡です」


「ロープの跡?」


 探偵は顎に手を当て、考え込むような仕草を見せた。


「ええ。首吊り自殺の場合、上から下に向かって、斜めに跡が残るんだそうです。ですが、今回の遺体には水平方向に跡が残っていました」


「なるほど。後ろから誰かがロープで首を絞めた、つまり他殺ということだな」


 探偵がうんうんと何度も頷くのを見て、Kもどこか嬉しそうに頷き返した。


「では、他殺として話を進めよう。次は容疑者の情報を教えてくれるかな」


「はい。それでは容疑者たちの情報とその証言について、お話しします」


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