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第7話 変な名前つけられたなぁ

「おにぃ!」


 クール君は背の高い男性を連れて戻ってきた。少し長めの黒髪とまつ毛たっぷりの切れ長の目で、他のノームがかっこよく成長したらこんな顔になりそうだ。文句のつけどころのない美青年である。


「やぁ、君が太陽君ですね。私はここでギルド長を務めさせていただいているものです」


 長い手足を優雅に動かし、スマートなお辞儀をされる。


「会わせたい人ってこの人?」

「うん。この国で一番頼りになる人」


 そっと陽葵に耳打ちをすると、嬉しそうに答えてくれる。「この国」という規模がどのくらいなのか分からないが、周りの冒険者が羨望のまなざしを向けるくらいにはすごい人の様だ。


「ここで立ち話もなんですし、奥でお話ししましょう。どうぞ」


 そういうと、カウンター越しにいたはずのギルド長がいつの間にか隣に移動していた。そのまま奥の部屋へと案内される。


「で、太陽だっけ?」


 ギルド長の部屋に通され扉が閉まったとたん、優雅だった美青年の柄が悪くなった。ふかふかのソファに座らされ、フードを脱がされあごクイされて、両頬を鷲塚まれ、頭をぐしゃぐしゃに撫でられ、何故かくすぐられ、不躾に観察される。扱いが雑だ……。


「どう?おにぃ」

「うんうん、これはあれだな」


 満足したのか、向かいの椅子にドカッと座った。最初の挨拶が嘘かのような豪快な座り方だ。二重人格だろうか。


「異世界人だわ」

「やっぱり……」

「はぁはぁ、な、なんで……」


 今の観察のどこに断定するものがあったのだろうか。


「そりゃぁ、角は無いし髪も瞳も黒い。魔具は反応しないが魔力はある。それだけで十分だろ。あ、ちなみに、角無し黒髪だからってノームじゃねぇぞ、絶対に」


 はっと鼻で笑われ、昨日の陽葵の言葉を思い出す。


『会った後で名乗れそうなら名乗ってみたらいいよ』

 

 先程の同じ可愛い顔をした子たちがノームと言われれば、同類と名乗れる図太い神経ではない。


「根拠がそれだけなら、なんでさっきあんな……」

「なんとなく」

「あ、はい……。それで、異世界人は珍しくないんですか?」

「今は珍しくないかもな?」

「「え!?」」


 何故か陽葵も驚いていた。


「異世界人なんて、童話の中でしか聞いたことないよ。太陽の事だって半信半疑というか」

「他にも僕みたいな人がいるんですか?」


 自分よりも先に来ている人がいる。その人たちと仲間にならないといけないんだよな。


「追々わかるさ。精霊様の情報網は凄いんだって事だけ覚えとけ。ところで」


 ギルド長はずいっと身を乗り出し、僕のポケットを指さす。


「それ、見たいんだけど」

「先輩、出て来ても大丈夫だよ」

「ぴ!」


 陽葵が声をかけると、もぞもぞと顔を出した。机の上に飛び乗ると、で固まった体をほぐすように伸びをする。


「はは、まじでブラックプーカだな。先輩って変な名前つけられたなぁ」


 先輩の様子を窺うように手を出し、近くに来たところを指先で優しく撫でた。表情も声色も穏やかだ。自分に対する扱いと違い過ぎることと、先輩が自分以外に気持ち良さそうに撫でられていることが複雑で口先がとがってしまう。


「こいつに感謝しろよ~」

「はい、先輩には行く先々で助けてもらって」

「そうじゃなくて」

「え」

「こいつがいなかったら出会った瞬間、陽葵に仕留められてたぞ」

「えぇ……」


 僕の顔を見た時の陽葵は確かに険しい表情をしていた。


「人を猛獣みたいに言わないでよ!そう教えられてきたんだから仕方ないじゃん」


 ここには異世界人は抹殺せよ的な教育があるんですか……。


「この世界の最大の敵である魔王が、異世界人って説が濃厚だからな」

「え、魔王ってあのふぶふぁ」


 「あの復活するっていう」と言おうとしたが、顔面に飛んできたクッションに阻まれた。


「あぁ、すまん。手が滑った」


 そんなわけ。


「まぁ聞けよ。昔々、人を滅ぼそうって悪いやつが突如現れてな」


 淡々と語られる昔話を聞きながら、白スーツの男が言っていたことを思い出した。


『この世界では異世界人は魔王の手先と思われ命を狙われます』

 

 言ってた。確かに言ってた。なんでこんな大切な事を忘れてたんだ……。

 

「要するに、魔族やら魔獣と同じ扱いで討伐対象ってことだな、お前は」

「じゃぁ、なんで今平然と受け入れてくれてるんですか」

「だーかーら、感謝しろっつってんだろ。先輩様に」

「ぴー?」


 先輩様は分かっていない様子だ。


「ブラックプーカは伝説のモンスターなんだよ」


 伝説のモンスター。あまりに先輩に似つかわしくない肩書だ。そんなにすごいんだろうか。


「この国の魔女様の使いとして伝えられてきたけど、この千年、誰も見たことは無いんだよ」

「俺も初めましてだな」

「すっごい強いとか?」


 イノシシとの戦闘では本当に助けられたけど、先輩の戦闘力はお目にかかっていない。


「さぁ?」

「魔女様譲りの綺麗な黒毛に金目としか記されてなくて、能力については未知数なの。ブラックプーカは、魔女様へ幸運を運ぶ存在とも言われているから、契約を結べている時点で太陽はこの世界に歓迎されていることになる」

「そうなんだ……。ありがとう、先輩」


 よく分からないが、自分が思っていた以上に助けてもらっていたようだ。自分で稼げるようになったら、美味しいもの沢山食べてもらおう。


 コンコンコン


「ギルド長、そろそろお時間です」


 ノックの後に入ってきたのは三つ編みのノーム。


「おおっと、そんな時間か。悪い、そろそろ仕事をしないとなんだが、今日の目的がまだだったな」


 ギルド長は立ち上がり、自分の机を探し始めた。ほいっとこちらに投げられた二枚のカードを受け取る。

 一つは僕の顔写真付き、もう一つは真っ黒なだけのカード。写真なんていつ撮ったんだ。


「それ、身分証とお財布代わりのカードな」

「ありがとうございます。って、何ですかこの、種族:ノーム(亜種)って……」

「先輩様が付いてるとはいえ、異世界人が街を闊歩したら大騒ぎだ。そもそも、ブラックプーカはあんまり知られてねぇ。とりあえず、俺が発行した身分証があればなんとかなるし、ノームの亜種なら見目は気にされんだろう、色んな意味で」


 ノーム要素の毛色と象徴なし部分と、ノームとは思えない顔面部分を言っているんだろう。ありがたいが腹が立つ。


「この真っ黒なのは?」

「お前さ、この街のシステム何も使えないだろ」

「蛇口とかですか?はい、水も一人で出せません……」

「魔具って言って、魔力で動く仕組みのものだらけだからな」

「僕も魔力は持ってるんですよね?」

「魔力にも種類があんだよ」


 時間が迫っているのか、出かける支度をしながら質問に答えてくれる。


「この世界は魔女由来の魔力で成り立ってるから、当然魔具も魔女由来の魔力でしか扱えないようになってる。お前は自力生成だろ?」

「え、そうなの⁉」

「うん、スキルに魔力生成があるから、作ってはいるんだろうなぁと。使えないけど」

「そのまんまじゃギルド登録もできないし、買い物もできねぇよ。しばらくはそれ使えばなんとかなるから。じゃ、討伐されないよう気を付けな」


 バタンッ


 不穏なセリフを残して出て行った。


「ギルド長から指示を頂いております」


 時間を知らせに来ていた三つ編みちゃんが、表の受付の代わりに手続きをしてくれることになった。

 冒険者ギルドの仕組みはこうだ。

 

 まずステータスから戦闘時の役割になる職業を選択。(これはいつでも変えられる)

 登録が済んだら、自身のランクを上げるためにひたすらクエストをこなす。

 ランクは全部で八つ。S級~G級までで、実績により昇級していく。

 冒険者はランクに応じたクエストを受注・達成することで、クエスト報酬とモンスターの素材等を手に入れて収入とする。

 受注したクエストは個々のクエスト欄に追加されていく。


 さて、これを僕の場合に置き換えてみる。


 まず、職業適性が判別不能のため、普通は子供が体験として登録する冒険者見習いとして登録。

 見習いでランクが無いので正攻法ではクエストが受けられない。けど、ギルド長権限でクエストを紙で対応してもらえることに。要するにアナログ受注。

 見習いで以下略。ギルド長に認めてもらえれば、「相当」扱いにしてくれるらしい。

 クエスト報酬も素材の換金も、個々の持つメニューに送付する形で行われるため、送付するための魔具が反応しない僕は利用できない。

 そこで、ギルド長からもらった黒いカードの出番。

 本来メニューに送付するべきお金や素材を、このカードにすることが出来るのだ。使う時は、相手に中身を抜いてもらわないといけないのが怖いが、不正は出来ないようになっているらしい。よく分からない。

 実は見習い登録をする時も使ったので、大抵の事は何とかしてくれそうなカードである。残念ながら、これを使っても蛇口から水が出てくることは無かったが。

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