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散文

冷静な憤怒

作者: 永井晴

青春のロマンスは本物である。また、腸が煮えくり返りそうなほどのこの熱情を、阿呆面に手放すことが大人になるということである。本物と贋物を見間違う決意をした哀れな生き物が、大人である。彼らの誇り高き冷淡で穿った物の見方は、「現実的」ではない。現実的な物の見方はもっと主観的な、経験的な裁量の踏み入れる余地が有り余るものである。転じて、彼らには心がなかった。その癖偽物の心で涙腺を無理やり押しつぶすことを好むから面白い。私は何も無鉄砲にそう言うのでは無い。かの偉大なる本物の芸術家達は私に囁き、それを聞けるのは私が心を持っているからだった。彼らはそれを才能とか、努力とかの言葉を以て突き放す。(月並みな言い草にもそろそろ飽きてきた)はなから理解を諦めた彼らには聞けるはずがなかろう。君たちの目や耳や口の悪いのはやはり時代のせいではない。私も彼らを諦めた。可哀想な人達だと心底思う。

そう言えば、この時代、大人というのはやけに増えたなあ。この熱情を見間違うように唆された幼子は殆どが大人に成り下がった。空を飛ぶ鳥を見て、本来の美しさに気づける慧眼は、酷く歪んだレンズをかけられた。実は大人でない我々の方が遥かに打たれ強く、広い世界を持っている。まあ、大人はそんなことを聞く耳も塞がっているだろうが。

厨二病という言葉の発明者はよく考えたものだ。我々を易々と異常者扱いしてしまった。文学がつまらない?ああ、それは、我々、所謂厨二病の特権であるのだ。若気の至りという言葉もきっと彼らの世界では表彰ものだろう。大人になった彼らは、それまでの自己を全て否定して、不器用に醜い体を作り始めた。そして勝手に、「世界」を定義し、「広さ」まで決めた。おっと、我々心を持つ者たちにはどれも際限なしさ。

大人になれ。ーー君の熱情を、本物の熱情を捨てろ。それが古びた民主主義をチラつかせたマジョリティの姿であった。

おや、今度は統合失調症だってさあ。なんてザマだ。厄介なセラピストに机上の空論を施されちまう。しかしそんなことで我々の世界は壊れない。熱情だって、本物なのだ。

我々は何処までも自由な詩人である。詩を歌う人が全て詩人なのでは無い。詩というのは、本当は詩人の吐息なのである。わざわざ在り来りな情景歌って気取る奴も、詩人では無い。それはもっぱら、大人である。我々は自由だった。それは生や死も飛び越えてしまうほどに。

ははなから自死は悪だと言い張る大人。我々の体は何処までも漂うことだろう。そろそろ彼らの言葉も届かぬ、遠い所まで行ってしまおうか。ああ、これが救いであるのか。どうだい、私は無宗教、正気の沙汰。しかし大人は救いを信じない。戯言はどちらであるのか、我々の哄笑に彼らは間抜け面をするのみである。怪しげなセラピストも救いやら神を信じない。ええい、何が療法だ。何が科学的根拠だ。今風に言うならば、それも立派な「価値観の押しつけ」であった。彼らの騒ぎ立てていることだろう?我々は思わず苦笑。彼らは心を持たぬから、閉じ込められた鏡の壁に吠えているだけである。鬱結した重苦しさを吹き飛ばすのは薬では無く、救いである。それが、自然体なのである。

決して、熱情を絶やさぬように。子供心とは、生ぬるい優しさでは無い。実際の子供は、もっと本気で恐ろしく、もっと本気で優しいのだ。それは愛である。しかし、優しさは悪魔であった。結局我々を傷つける。いつも何かに迎合するふうな、酷く怪しげな装いなのであった。

さあ、そんなものに気を配らずに。救いは必ず来るものだから。


……おっと、やはり熱情の力強さは頼もしい。しかしはて、この文章が何人に分かるだろうか。一体、いま君は青春の中にいるか?


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