#3 総員、戦闘準備だッ!
「緩和?穏やかな死?」
霧島の口から出てきたワードにキョトンとする未菜。病院なのに死を待つ?治療をするためにいるんじゃないの?
それを見た霧島はため息をつきながらくるっと回転させ、
「貴方のような人には無縁の場所ということよ。分かったら元の世界におかえりなさい」
と言い、作業机に向かっての作業を再開する。
「寧々森さん、僕の説明不足でごめんね。もうスグお昼になるし、少し話しながら戻ろっか」
「う、うんっ…さえっピ、何も知らないのに失礼なこと言ったみたいでごめんね…。また来るから」
そう言いながら未菜と緒方が部屋から退室すると、霧島は背中を椅子に預け、髪をかきあげながら天井を仰いだ。
「失礼なのはどちらなのかしらね…久しぶりにこんな場所にいないはずの人を見て、感情を抑えられず八つ当たりなんかして…」
ペンを手に取り、制作する予定の画像を見ながら図面を書き起こす作業を再会する。
紙の端っこには"ネネモリ""ネネ森?ネネ盛?"と書いてあった。
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「ごめんね、寧々森さん。霧島さんも悪い人じゃないんだけど、初対面の人にはいつもあんな感じなんだ。壁を作るっていうか…まぁ僕には今でもあんな感じだけどね!」
「いやぁ〜こちらこそ何も知らずに怒らせるようなこと言っちゃったから…ところで、さえっピが言ってた緩和とかの話は、おがっち教えてくれるの?」
「あの雰囲気の中、あだ名ぶっ込むメンタルはさすがだったよ、ひやっとしちゃった。あ〜それで、僕も含めたこの階の患者さんのことだよね?」
「そうそう!穏やかな死を〜とか言ってたけど、ここ病院だしそんなわ…」
「霧島さんの言うことで間違いないよ。この階の患者さんはね、遠くない死を受け入れる準備をしているよ。状況は様々だし、残された期間もみんなマチマチだけどね」
あっけらかんと語る緒方に対し、未菜が目を見開く。
「だってみんな楽しそうに談笑してるじゃん。おがっちも顔色は悪いかもだけど、普通にしてるよね?」
「うん、そうだね。残された期間をなるべく明るく過ごすのがこの階のスローガンなんだ。大人の人だと入院せずに旅に出る人もいたりするんだけど…通院するのが大変だったり、家庭の事情なんで子供は入院する人が多いみたい」
そう言いながら緒方は服の裾を捲り上げ、左肘あたりを見せてくる。そこには包帯が巻かれていたが、異常な腫れと少し赤黒いシミが見えた。
「僕の場合は骨肉腫っていって骨の癌なんだ。転移がなければある程度治療ができたらしいんだけど、肩とか肺にも転移が進んじゃっててね。何度か治療は試したんだけど、あんまり良くならなかったんだ。
腕を切断してもリスクしか増えないってことで、治療はそこでストップしてここの階にきたってわけさ」
緒方の告白に対して未菜はなんと言って良いのか分からず、床を見ながら少しの間沈黙した。
「…おがっちは、今は痛かったりしないの?」
「うん、治療をやめてから少しずつ腫れは大きくなったけど、断然ラク!薬の副作用が辛くて辛くて…これでも余命半年って言われてから8ヶ月は経ってるんだけど、まだ歩けるぐらいには元気なんだ」
「そっか…じゃあ霧島さんも何かの病気なんだ…?」
「ん〜そうだと思うんだけど、正直わかんないだよね。ここではお互いの病気のこと聞くのが少しタブーっぽい風潮あるからさ。それに、霧島さんは結構長くいるみたいで、噂によると…」
その時、何やら周囲が慌ただしく動き始めた。
「あ、いけない。もうお昼の時間だね。ご飯自体はそんなに不味くないんだけど、冷めるとデバフがかかるから!寧々森さんも急いで戻った方がいいよ」
シリアスな話から急にお昼ご飯の話になり、話の緩急で未菜は吹き出してします。それを見て緒方もにっこりと笑った。
「寧々森さん、さっき霧島さんに『また』って言ってたよね。それって今の話を聞いてもまた来ようって気持ちは無くなってない?」
その言葉を聞いて、未菜自身も自分がまたあの空間に行くと当然に思ってることに気付いた。
「うん!あんなに凄い景色があるなら何度だって見に来たいよ?今日お昼ご飯食べてシャワー済ませたらまた来るって普通に思ってたんだけど、もしかしてもしかしたら立ち入り禁止だったりする!?面会制限あったりしちゃったり…?」
「…ふふ。そうなんだそうなんだ、あははははは」
「?なぜに爆笑…?…あははははは」
未菜の回答を聞いたとたん緒方は大爆笑を始めたので、よく分からないが未菜も爆笑しておいた。
なにこの空間、と周囲の人はびっくりした顔を一瞬見せ、怪訝な顔をしつつ過ぎていく。
「そっかそっか、寧々森さんはそういう人なんだね。…てか、なんで笑ってるの?」
「いや、おがっちが笑うから…ノリで?」
「まぁよく分からないけど…さっきの話にもあった通り、ここの人達に残されてる時間は少ないからさ、基本的に面会はいつでもオッケーだし、出入りも比較的緩いんだよね。だから、短い期間かもだけどよろしくね」
「うわー、それ聞けてめちゃ安心した。そんじゃまた後でお邪魔しまーす!ばいばいきん」
「そんな去り際の人実在するんだ…」
緒方は上機嫌にさっていく未菜の後ろ姿を呆然と見送るのだった。
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「もう!寧々森さん、勝手にどこ行ってたんですか。みんな心配してたんですよ」
「まさかそんな大掛かりな捜索活動がされていたなんて…脱獄的な?」
「昨夜倒れて運ばれてきた人が勝手にウロウロしないでください!…どっかで倒れてても知らないんですからねっ!ふんっ!」
「ほんとすみません…後お昼ご飯は何処に…?」
「脱走兵に飯が出るとお思いですか?反省してください」
「え…私昨日の夜も抜いてるので、正直お腹ぺこりーぬなんですけど。それで死んじゃうかも…病院での不当な扱いで餓死ぴえん。#〇〇病院の実態、#患者虐待…っと。はい、投稿完了」
「!?SNS怖いんだからやめてよッ!病院名とか買いてない!?」
そう言いながら自分の名札をきっちりガードしているようだが…すまないね、あなたの名前が既に記憶済なのだよ。なんて、わざわざそんなこと書かないけどね、特定されるリスクの方が怖い。
意外とノリが軽い看護師さんとやり取りし、何とかごはんを取り返すことには成功した。やったね!
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さて、シャワー前の看護師による軽めの検査。その結果、意外と病状が悪くないということで、シャワーの際に点滴を外し、その後は飲み薬で様子を見ていくらしい。
あれ?柏木とかいうお医者様は見てないけどいいの?まぁ私としては身軽になるからモーマンタイ。
さてさてさて、母上に連絡してパトラッシュを持ってきてもらおう。ぽちぽちぽちっと、はい完了。
ひとまず着替えの準備をしつつ、私が今すぐやるべきことを考える。
Instagramの新規アカウント作成しておいてっと。ブログも開設しようかしら。後は環境を整えるべく、追加で備品を購入しよう。
ふふふふ、戦闘準備開始だッ!…誰と?
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さて、シャワー前の看護師による軽めの検査。その結果、意外と病状が悪くないということで、シャワーの際に点滴を外し、その後は飲み薬で様子を見ていくらしい。
あれ?柏木とかいうお医者様は見てないけどいいの?まぁ私としては身軽になるからモーマンタイ。
さてさてさて、母上に連絡してパトラッシュを持ってきてもらおう。ぽちぽちぽちっと、はい完了。
ひとまず着替えの準備をしつつ、私が今すぐやるべきことを考える。
Instagramの新規アカウント作成しておいてっと。ブログも開設しようかしら。後は環境を整えるべく、追加で備品を購入しよう。
ふふふふ、戦闘準備開始だッ!…誰と?
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シャワーが終わったタイミングぐらいで母上様が黒い肩掛けバックを持って現れた。
「未菜ちゃん、パトラッシュを持ってきてってどうしたの…?いくら暇だからって、ここじゃ使うことないでしょ」
「母上、ありがとう。ここでの入院生活だからこそ、この子が必要なの」
「へ…?だってそれ、電車を撮るために買ってあげたカメラじゃない。ここでは流石に使えないでしょ」
そう、母上様々にお願いしたのは私の撮り鉄専用カメラセットちゃんなのだ。ガチじゃないから一眼レフとかではないが、休日は乗り鉄しながらいろんな角度で撮影し、vlog風に編集してちょっとSNSにアップしていたり………友達にも言ってないんだから、秘密の趣味なんだから内緒だぞッ!
「この病院に入院できてよかったし、ここでの生活でしか見つけられない素敵な景色を見つけたの。私を産んでくれてありがとう」
「そんな結婚式でしか聞かないようなコメントを残すシーンではないと思うのだけれど…まぁ元気そうで良かったわ。あまり無理はしないでね、病人なんだからね」
それじゃまたくるね、と言いながら母は飲み物とおやつも置いて帰ってくれた。
正直、今はこの入院生活がなるべく長くなってほしいと思ってしまっているが、心配してくれてる母にそんなこと言えない。
ウン、ハヤクタイイン、シタイ。
さてさて…では、早速向かいましょうか。いくよパトラッシュ。




