#2 ナニココ!?ちょーアガるじゃん!
お昼ご飯までの間に軽めの病院探索中。
片手にいちごミルク、片手に点滴で歩き回る。いちごミルクうまうま。ただ、歩きながらは行儀が悪いのでベンチで一休み。
ふぅー血糖値スパイク決めちゃった!ほんとはカフェラテとかおしゃんなのを飲みたかったんだけど、カフェインが悪さしそうな気がして自主断念。
歩き回ると言っても1階は外来なので、飲み物買って即退散。普通の格好の人が多い中、パジャマみたいな格好の自分が恥ずかしいので却下、盛れてないし。
自分がお世話になっている3階の主要な設備(通話できる談話室、シャワー室等)を探しながら、働いている白衣の天使様で目の保養をする。
いやータイトめのスカートで白いタイツは反則ですね、ベージュも捨てがたいけどね。院長先生は良い趣味してらっしゃる。
とゲスい顔をしていると、何やら気になる内容の話が聞こえてきた。
「"711"はいつ見てもすごいよね〜。入院生活長いとは言えあそこまで病室変えちゃうとは…。才能と行動力がすごいですよね」
「確かにすごいんだけど、あれは流石にダメじゃない?上の許可は降りてるのかしらね?」
「それが、親がお金持ちらしくて院長も頭上がらないらしいです。私は毎日見に行くのが楽しみだから賛成ですけど。…といっても遠くから眺める程度ですけどね。
日に日に進化してるし、患者さんが前向きに過ごせてるなら良いんじゃないかなって」
「あんたはほんと適当だよねぇ〜。他の患者さんと対応に差があるのが良くないと思うんだけどね…」
「えー、近くの病室の方たちも楽しんでますよ。あそこはほら、《・》特別だから。あれを楽しみに頑張れるって言ってる人たちも多いらしいですし。
それに、先輩もこの前写真撮って…あ、これ言っちゃダメだって言われてたような…」
「ちょっ!誰がそんなこと言ってたのよ!!!」
「あー!守秘義務です!コンプラには違反できません。きゃー、203のナースコールが私を呼んでいる〜」
看護師同士ってもっとギスギスしてるかと思ってたけど、なんか友達みたいな人達。おっと、そんなことより…
「"711"ね…写真撮影と聞いたら黙ってられないね」
女子学生と言えばスマホで写真を撮ってSNSにアップする生き物であり、私も例に漏れずシャッターチャンスには本能が逆らえない。いつもの活動とは趣向が違うと思うが、まぁいいでしょう!
さてさて、7階を目的地と定めてエレベーターへレッツゴー。
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7階に到着して驚いたのは、うるさくはないが雰囲気が柔らかいこと。患者同士が結構仲良く話しており、医者や看護師も混じって談笑していたりする。
何やら病院っぽくない雰囲気に驚きながらキョロキョロ歩いていると…
「あれ?初めて見る顔だけど…新入り?」
声をかけてきたのは12、3歳ぐらいの人懐っこい男の子。一見元気そうだが、ニット帽を被っており、顔色は青白くあまりよろしくなさそうに見える。
「新入りと言えば新入りかな?この階じゃないけどね…。ちょっと探してる場所があって探検中」
「あ〜そうなんだ?長期じゃない人か!面会以外でこの階に辿り着くなんて珍しいね」
「そう?別の階の看護師さんが頻繁に来てるって言ってたけど…もしかして関係者以外立ち入り禁止だったり?」
「立ち入り禁止ではないよ。面会の人も結構くるし。ただ、普通の人はあんまり近寄らない場所ではあると思うけどね」
帽子の位置を直しつつ、男の子は少しバツが悪そうな笑みを浮かべた。
「ちなみになんだけど、君は"711"って聞いたら心当たりある?」
未菜の言葉を聞いた途端、男の子は一瞬目を輝かせ前のめりになった。
「え!霧島さんを探してるってこと!?あそこにたどり着くとは中々見どころがあるねぇ」
「キリシマサン…っていうか分からないけど、下の階で看護師さん達が話してるの聞いちゃって。何だか"711"はめちゃくちゃ凄くて、映えスポット…みたいな?」
「あははははははは!凄いね、他の階でも噂になってるんだっ!直接みたらビックリするよ、きっと。
僕もそんなに仲良いってわけじゃないんだけど、霧島さんの場所は知ってるから案内してあげるよ。お姉さん、お名前は?」
「寧々森未菜。学校のみんなには"ねねまる"とか"みなっち"って呼ばれてるよ〜」
「…どっちもハードル高いね。寧々森さんで良いかな?僕は緒方俊。よろしくね」
「"おがっち"ね!案内よろしくっ!」
「…まぁいっか、ついてきて!」
少し顔を引き攣らせながら、距離感バグってね?と言う小声と共に、緒方は案内を開始した。
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「え、なにここッ!ちょーアガるじゃんッ!」
案内の途中、廊下から既に変化があった。廊下の両サイドにはガラスのショーケースが並び、その中には電車のミニチュア模型がズラッと並んでいた。
「おがっち、なにここッ!ちょーアガるじゃんッ!」
「えぇ…興奮しすぎて同じこと2回言ってるよ…」
「ここって病院だよね?なんでこんなことになってんの?」
「ふふふ、それは"711"に行けばわかるよ。あ、作品に直接触ったり、あんまり騒がれるのは好きじゃない…って聞いてる?」
未菜は興奮か隠せない様子で端から舐めるように見回っており、呪文のように何か言っている。
「江ノ電なんて、江ノ電鎌倉高校前駅踏切から電車がセットであるし…黒部峡谷鉄道も…広島駅は路面電車も完備…幸福駅は走ってないのにわざわざ作ったってこと?…キャー!200系新幹線もあるとかスキがなさすぎて好きぃ〜。ここは天国なのかな?」
「いやいや、病院で天国は不謹慎じゃないかな…寧々森さーん、聞いてますかぁー?」
「なんだかんだ山手線結構デザイン好み…ん?おがっちいたの忘れてた。ゴメンメン、もうちょっと待って、2時間は欲しい」
「いやいや、もうお昼前だからそんな時間ないでしょ。それに、霧島さんのところは行かなくていいのかな?」
「ん?キリシマサンは後でもいいかも!私ここにもうちょっと居たい」
「噂の"711"の霧島さんがこれらの作品を作った張本人って言ったら?」
「え、うそ!?患者さんがこれらを作ってる神様がここに…?」
「そうさ。あんまり大きい声では言えないらしいんだけど、先生方にもファンが多いらしい。」
「多いらしい?」
「霧島さんの作品が増え始めた頃、注意した看護師さんがいたんだって。そしたら霧島さんが作品を作っては壊してを繰り返したらしくて…」
『人の部屋の前で何を騒いでいるのかしら。用があるなら入ってきなさい』
緒方の話を聞いていたら、部屋の中から少し低めだがよく通る声が聞こえた。ふと部屋の入り口を見ると"711 霧島冴子"と書かれたプレート。
「おっと、今日は少し機嫌が良さそうかな。悪い時は向こうから声がかかることなんて…」
そう言いながら緒方が部屋に入ろうとすると、何かが緒方顔に飛んできて顔面を覆った。
「私のことを分かったように言わないで、虫唾が走るわ。用がないなら帰ってくれるかしら」
「ごめんごめん、用があるのは僕じゃないだ。こちら寧々森未菜さん。僕もさっき会ったばかりの初対面なんだ」
背もたれのないタイプの椅子に腰掛け、緒方と軽いやりとりをする女性。多分年齢は私と同じぐらいだが、少しウェーブのかかった黒髪ショート、肌は色白で全体的に線は細い。
しかし、弱さを感じさせないのは、少し切長で力の強い目のせいだろうか。部屋の外で聞こえた声の通りの印象を受ける。
「…ッハ!初対面の人に対して馴れ馴れしい…軽率な男ね」
「人が良いって言ってよね。寧々森さん、こちらがこの病院で知る人ぞ知る有名人の霧島冴子さん。あなたが探していた"711"の真相だよ」
「知る人ぞ知る?知らない人が多いってだけじゃない、馬鹿らしい」
そう言いながら霧島はこちらに背を向け、俯いた状態で動かなくなった。よく見ると窓際にはベットとは別に横に長い木の机があり、その机の上で何かを書いているようだ。病室に作業机?しかもめちゃくちゃ道具とかもあり、ほんとに病室なのか疑わしいレベルである。
「それで、寧々森さんとやらはどうしてこんな場所に来てしまったの?何か探し物かしら?」
「初めまして、いきなり病室にお邪魔しちゃってごめんなさい。看護師さん達が噂してるのが聞こえちゃって、少し調査をしておこうと思って…」
「あら、そうなの。口の軽い看護師がいたものね。
残念だけど、ここには面白いものなんてないわ。早く元の場所に帰りなさい」
「えー!こんな凄いのがたくさんあるじゃん!立派な映えスポット!」
そういった瞬間、一瞬の沈黙があり霧島の背中からは呆れるような雰囲気を感じた。隣の緒方を見ると少しバツが悪そうな苦笑を浮かべている。
「あなたここがどこか分かってて来たの?映えスポット?笑わせないで」
未菜と霧島の目線が初めて交錯した。
「ここは緩和ケアの階よ。治療を諦め、穏やかな死を受け入れた人だけがいる場所よ」




