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9 兄様なんか、キライと口にします

 エリカちゃん、十五歳。

 一年間やり通した歌劇の神殿巡業は、大成功となりました。


 これまで何をしているか分からなかった聖女の活動。貴族のご令嬢の社会奉仕なんて言われても、ピンと来ないよね。最寄りの孤児院での催事ならまだしも、神殿の儀式は、これまで非公開だったもんね。



 演技や歌は、本職の舞台役者と比べたらまだまだレベルが低いとは思うけど、貴族のお嬢様方がお国のために頑張る姿が可愛らしいとか、応援することで自分も国の役に立てるという理由でたくさんの方が来てくれるようになって、楽しんで貰えるようになれてよかったよ。

 

 初披露のオリジナル曲も覚えやすいもの、物語も単純明確、芸術性よりもわかり易さをトコトン追求してきたからね。


 一言で言えば、悪い魔物をやっつけてみんなで大事な結界守るんだー!な内容。超簡単でしょう?


 まずは、結界の役目を知って貰いたかったんだ。

 平民の間では、神殿はデッカイ役所、有り難い場所、エライ人が寄合やってる所ぐらいの、遠い場所だったからね。


 感情エネルギーは身分に拘らず徴収出来るので、貴族席だけでなく平民の方にも席を用意できて、本当に良かったよ。

 平民の間での結界の認知も、だいぶ進んだと思うし、娯楽の少ない彼らに全力で楽しんで貰って、その様子に釣られた貴族の方たちからも、喜んで魔力の提供にご協力頂けたからね。


 だけど、健康には全く影響が無い範囲のエネルギー徴収のはずが、たまに失神者まで出てしまうのは、何故なんだろう……。


 物販の姿絵も、有難いことに、すごい売れ行き。


 困ったことにキャサリン先輩のサイン入りのものは、オークションへの高額転売までされてしまった。


 ちくしょうっ!!どこにでもいる転売ヤーめっ!


 気持ちは分かるけど、奴らに振り回されては駄目だよ。

 ちゃんと抽選会に参加して、当たるのを楽しみにして待っていて、欲しいんだ。


 お姉さんと、みんなとの、大切なお約束だからね!!

  


◇◇◇◇



 人気の上昇に伴って、握手会も大盛況になったのは本当に有り難いのだけど……、メンバーがたった十一人とは言え、信者の皆様の待機列に、差が出来てきてしまった。    

 

 アイドルと言えば、定番の流れだよね。


 分かっていたこととはいえ、正直頭が痛い……。

 圧倒的エースのキャサリン先輩に、信者の数で並ぼうなんて気はサラサラないのだが、わたしの所には、握手を望む人が、明らかに少ないのだ。哀しいことに。



「に、兄様のバカぁー!兄様なんかキライよっ」

 

 ポカポカ、ポカ


 ねぇ、どうして……。

 どうして、わたしだけ()()()じゃなくて()()()なんですか……。


 胸元をポカポカしてくれとか、胸ぐらを掴んでくれとか、頬を平手打ちしてくれなどの、特殊な希望をお持ちの方しか来られないのは、どうしてなんでしょう…………。


 慕っている姉騎士に素直に慣れない妹魔術師役が、一部の人の性癖に、ぶっ刺さってしまったようで……。


「う、うるさいっ!姉様のバカー!!」

「ね、姉様なんてキライよっ!」

「姉様なんて、もう、知らないんだからねっ!」

 

 こんな台詞を再現してくれと、言われましてね……。


 わたしの所だけは、自称姉、自称兄を名乗る信者さん(ファン)たち、通称『保護者会』の発生を招いてしまった。

 

 保護者っていうより、ただの、ソフトMな妹萌えの性癖に、正直過ぎる人達だよね……。


「なんで、なんでなのー?これが格差社会!?」


 わたしは、これでもプライベートでは、お姉さんキャラで通っているというのに……。まったく、なんという偏見だろう。


「大丈夫だよ、お姉さん」


「ううぅ……マー君」


「お姉さんは充分人気者だよ。歌唱力が独創的な割に、握手券の売れ行きは五位なんだよ。スゴイよ。もっと自信をもってよ!!」 


 思わず屈み込んでしまったわたしの頭を、いくらマー君がナデナデしてくれようと、落ち込んだ気分は回復しないのだ。

 お腹に縋り付いて、セーラー襟付シャツの下に隠れているオヘソを、鼻で掘り当ててしまうぐらいには、凹んでしまった。


「なんかわたしだけ明らかにニーズが違う……。完全に誤解されているよ。酷い風評被害。絶対おかしくない?こんなのみんなズルくない?」


「でも、お金がたくさん貰えるんだよ?」


「そういう問題じゃ……」


「じゃあ代わりに僕が握手してあげるよ」


「ぎゃあああ!! マー君、それアイアンクローだから、やめてっー!」


「僕の手のひらを即座にペロペロできるくらい欲望に素直なお姉さんなら、大丈夫だよ!」


「えへへ。マー君のちっちゃなおててが、おいしくて……つい」


 急激な状況変化の影響で、少々心が乱れお騒がせしましたが、かわいいマー君のお陰で、わたしのメンタルは、無事回復致しました。



◇◇◇◇



 四月で新年度になったので、新人さんたちがやってきた。

 といってもわたしと同い年の来年度の入学予定の十五歳の見習い聖女さんたちだ。

 王族と在学時期が被るといっても後一年だけだし、聖女の重要性の周知が進んだのか、一気に七名もメンバーが増えたよ!!


 これまで聖女じゃないわたしも在籍しているので、団体名として『セイント・イレブン・ガールズ』略してセイガと呼ばれておりましたが、十八人となると名前と人数が合わない問題が発生し、緊急会議が開かれました……。


 前の人の知識によれば、グループ名前の数より、多かったり少なかったりするアイドルグループなんて、山のようにいたから、問題なし。

 開始時の人数を記念して、名前は据え置きそのままの方が良いと主張したら、皆様、深く納得されて、ご賛同いただけた。


 そんな訳で今年度の夏の巡業には、十八人で出来る演目を、仕上げなくてはならない。


 配役は変わっても、メンバーカラーまで変えてしまっては、これまで応援してくれていた信者の方も、混乱してしまう。そのため、色は持ち越し。

 新人さんたちにも新しい配色を設定しないと、いけませんね。


 通常だと学園を卒業した元三年生は、寿引退の道を選ぶんだけど、人数がまだ少ないので、最低でも後一年は、活動継続をしてもらうことにも、御了承いただけた。


 活動への認知が広がったことで、良い縁談を貰えたらしい、元三年生の先輩たちにとっても、ここでセイガを卒業して、結界を投げ出す訳にはいかないのだ。

 

 だから活動継続に賛成して頂ける方を、婚約者に選んだんだって。


 自分の大事にしたいことへの理解がある相手かどうかって、重要だよね。


 新三年生の黄色神官チームと合わせて、卒業されてしまうと、メンバーがごっそりと抜けてしまうから、来年の新人さんには、たくさん来て欲しいなぁ。


 寿退職しないで、結婚後も活動を続けたくても、今のアイドルっぽい売りだと、難しいそうだしなあ……。

 


 聖女だけに任せない結界という、新しい発想は、良いんだけど、現状の未婚女学生による、三年入れ替え制度のままでは、入れ替えの激しさには変わりないから、また担い手不足が発生しそうなんだよね。


 この辺りも解消していかないと。


「あまり早くからの訓練所の住み込みはどうかと思うが、エリカ様のように、早めの判定をすることで、通いで稽古に通ってもらうだけでも、違ってくると思うんじゃよ。教会上層部でも、今後について、話し合ってみることにするわい。結婚後の元聖女様たちのグループでの演目なんかも、やれたらよいんじゃがなぁ……」


 貴族家の夫人ともなれば、忙しい上、お住まいも全国各地へと分かれてしまう。


 副業でやるには……、さすがに、厳しいんよね。


 全員が王都住まいとも限らないから、稽古時間の確保自体が、大変だろうし……。


 握手会無しの記念公演みたいなものを、数年に一度神殿で行うとか?


 前世の記憶だと、元国民的アイドルの全盛期メンバーみたいな人たちが、そんな感じのことやっていたような気もするけれど、今のわたしたちの人気が、そこまで拡大継続できるかな?


 目新しい期間限定アイドルだからこそ、受けているところもアリそうなので、参考にするには厳しいけれども、改革案のひとつにはなるよね……。


 舞台経験のある結婚後の聖女様の人数が、ある程度揃ってからの検討になるかな。


 まずは十八人でのフォーメーションを、練習だー!!

 いざ、エブリワン・ダンシング!

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新作コメディがあります!!

一話完結、異世界あるあるブラック大喜利!!
「黄薔薇姫と悪魔執事 世界よ、もっとわたくしに嫉妬しなさいっ!!」
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