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4 義弟は、本当に悪魔でした……。

 何というか……、てっきり冗談だと思ってた。 

 あんなに無邪気なマー君が本当に、悪魔だったなんて…………。



◇◇◇◇


 

 夏休みを終えて、お屋敷へと戻った。


 父と異母姉は、一応和解出来たようだ。


 両親とわたしとマー君は、正式に別邸に住めるようになった。

 父が実家の子爵家の持つ男爵位をもらい受け、正式に母と籍を入れたので、母は男爵夫人に、わたしも男爵令嬢となった。

 

 これでわたしも平民から貴族の一員になれたのだが、正直あまり実感がない。


 父の爵位は領地無しの肩書だけ、未成年の姉の後見に相応しい様に、お借りしているようなものなのだ。

 子爵家の現当主は伯父なので、異母姉の後見の父を、兄として彼が後見することで、姉の支持者の存在を明確に示す意味があるのだそう。

  

 同時に母とわたしの立場を確立させることも意図しているらしい。


 伯爵家一族の血を一滴も引いていない居候、こちらの貴族籍に所属していないわたしと母とが、父方の方の貴族籍に、配偶者と実子として、正式に記載されたことで、どこの馬の骨かも分からない不審な平民ではなくなったんだって。

 こうして正式な形になったことで、姉も私たちも、足元を固められるのだそう。


 うーん、よく分からないけど、不審者扱いからの脱却は果たしたものの、わたしと母とが、アンジェラお嬢様のおうちの、居候の身であることには、何の変わりもないんだよね? 


 ちゃんと貴族籍に記載して貰えたからと言って、偉そうな顔なんて、出来る訳がない。


 わたしと母が別館を使うのも、父の仕事の報酬のうちと認められたみたいだけど、相変わらず、肩身が狭いのは変わらないよね。


 これからも家族で暮らすためには、文句なんて、言えないんだけどさ……。


 父の実家は、王宮で文官として実績を積んだ伯父様のおかげで持ち直したんだそうだ。


 伯父様は、若かりし頃の己の力が及ばず、既に結婚していた弟と伯爵家との間の政略を、止められなかったことで発生した私たちの複雑な家庭環境に、同情して下さっているらしい。


 お気持ちは大変に有り難いのだが、その善意に調子に乗らないようにしないと。


 小説だとありがちなのが、こういう状況で、わたしみたいな立場の娘が、勘違いしちゃうパターンだからね。


 自分が男爵令嬢なことを忘れ、貴族のマナーも常識も全く知らないくせに、アンジェラお嬢様と同じ伯爵令嬢になったのだと思い込んじゃうんだよ。


 貴族籍に加わっただけで増長して、自分も姉のように、いやむしろ、これからは姉以上に優遇されるべきと「お姉様ばかりズルいわっ」って、人のものを羨んで、自分にも与えられて当然だと、略奪に走るのだ。

 

 定番だけれど、わたしは絶対にやらないよっ!


 せっかく「異母姉とは籍の上からも別なのですっ(キリッ)」と言い切れるようになったんだから。


 ともあれ、男爵令嬢になったことで、わたしも十六歳から、貴族の学園に通えることになった。


 実感があろうとなかろうと、貴族の仲間入りをしたい以上、無知のままではいられない。

 

 青い血統を誇るお貴族様たちの中では、庶子の娘ってだけで、見下されるんだから。 

 あちらの常識や教養、マナーを最低限身につけて、野生のお猿扱いされないようにしないと。


 これまで、教会の学び舎で、平民向けの極々基礎的なことは学んできたけど、もっと高度な内容を、家庭教師をつけて、教えて貰えるそうだ。


 残念なことに、前の人は勉強は苦手だったので、あまり充てにはならない。

 お兄ちゃんと同じ大学行くんだからって、頑張ってたみたいなんだけど……、試験には受からなかったからね。


 怪しい異世界の記憶には頼らず、自分の力で頑張ろうっと。

 良い成績を取ると、就職に有利なのは、同じようだしね。

 

 ちなみに姉の成人後、わたしたちがどうなるのかは、まだ聞いていない。


 親子三人とマー君の、四人家族で暮らせるのか、母とわたしだけが、この屋敷から追い出されるのか…………。


 とにかく、良い就職先が、見つかるように努力しないと。


 無知で礼儀知らずな平民上がりのワガママ妹や、自分は何もできず全力で男にすがる系のピンク頭女になんて、なってたまるのもんか!



 わたしも伯父様のように、手堅く王宮で働けたら、良いんだけどなあ……。



◇◇◇◇



 夕食だけは、本館でアンジェラと一緒に取ることになったのだが、異母姉は「勉強の続きが」とか、「楽器のお稽古が」「読みたい本が」と半分以上は欠席している……。


 これ、毎日となりの晩ごはん集りにいってるだけじゃないの?すっごく、気まずいんだけど……。


 アンジェラが来ないのなら、行く意味なんてなくない?


 まあ、たまに出てきても、嫌味を言われるだけなんだけどね。


 絶対、口にはしないけど、アイツがいないほうがまだマシかな。


 「このダダ飯ぐらいがっ!」って、言われてもなぁ……。


 せめて、ごはんの時に、唾を飛ばさないで欲しいよ。

 かわいくない妹からの、お願いだ!

 冷たいし、汚いし、本当に最悪なんだよ。

 

 普通に考えて、伯爵家の御令嬢のすることじゃないよね……。


 あー、もう本当に、毎回毎回、思春期丸だしむき出し、好き勝手しやがって。


 本当に……アンジェラは、ズルいっ!!

 コッチがやり返せないってこと、分かっててやってるんだろう。


 アイツは絶対にそれを知った上で、虐めてきているんだ……。


 あー、もう、腹立つ。あの卑怯者めっ!


◇◇◇◇



「お姉さん、どうしたの? 元気ないね?」


「わたしって、タダメシ喰らいかなぁ……」


 身に着けるものが、男爵令嬢らしい涼しげな、サマードレス(既製品)へとレベルアップしたことは素直に喜ばしい。

 サラサラと肌触りの良い服たちは、素晴らしいもなのだよ。

 こんな服が着れるのは、お貴族様になれたから。

 今年のわたしは、汗疹も無い快適素肌美人なご令嬢なのだよ。フフン。


 だけど、ギスギス空気でのごはんタイムは、毎回豪華ではあるものの「人の金で食べるメシは美味いぜ!」と開き直る気には、なれないもので……。


 母も貴族夫人として、社交をしなければならず勉強中だ。


 内職で繕いものをしていた程度の平民主婦だったので、大変なのだろう。

 最近は手紙の書き方や裏のない褒め言葉などに頭を悩ませている。


 元商家の娘なので、お付き合いのあった低位貴族の御婦人方に挨拶周りをするところから、始めるらしい。

 「筋を通して立場を辧えれば、なんとかなるわよっ」て笑っていたけれど、無理はしないで欲しいな。


 こういう無害ですよアピールみたいなものが、わたしたちには、必要みたいだね。

 未成年のアンジェラお嬢様の関係者が、胡散臭い平民の愛人親娘呼ばわりされていては、困るからさ。


 両親の選んだ道とはいえ、なんとも世知辛いなぁ……。


 そんなわけで、私と母は貴族になるためのお勉強をしているのだが……。

 まだ何ももたらしてはいないという状態な訳で。


 男爵令嬢(見習い)のわたしが、伯爵令嬢で時期当主のアンジェラお嬢様に反論など出来る訳がないが、責められる理由があること自体が悔しいのだよ。……というかお嬢様が、唾を飛ばすなっ!



「つまり、お金がほしいんだね。なら、僕がた~くさん持ってるよ!」


 じゃらじゃらじゃらーと、お金や金塊が大量にばら撒かれる。


 「待って! マー君。それ、今どこから出したの?」


 どこからともなく大量のお金を出せるマー君は、本当に悪魔だった……。



 マジかよ…。お姉さん、そこは四次元ポケットかマジックバッグって言って欲しかったなぁ。

 魔法世界のお約束ってヤツの方が、嬉しかったなぁ…………。


 邪悪な女神の話が本当だったとは、世の中は、本当世知辛いね……。


 アンジェラなんかを贔屓するなんて、駄女神は視野が狭いってだけでなく、目の付け所まで悪いんだね。


 まぁ、こんなにかわいいマー君が、悪な訳がないので、そこは気にしないことにしよう。


 いわゆる『僕、悪いスライムじゃないよっ』てヤツだよ。


 悪魔だからって偏見は良くないっ!


 大丈夫だよ!お姉さんは、かわいいかわいいマー君のこと、信じているからねっ!!


 全然大丈夫だから、気にしないでね。

 悪い女神になんて負けないからねっ!


 さて、安易なお金の貸し借りは良くないことと、前の人も言っていたんだけど、稼げる当てなど、どこにも全く存在すらしなくて……。

  

 わたしは、小さな男の子にお金を借りて、彼の言うがまま、投資をすることになった。


 だって、母のしていたハンドメイド系の内職では、晩ごはん代や家庭教師代にも程遠いんだよ!

 おまけにわたしではいくら頑張っても、低クオリティ……。


 見た目は子供、財力は大人なマー君に、すがるしかなかったんだっ!


「なら、どうするの? 内臓か貞操でも売るの? お姉さんは僕のなのに……勝手に売っちゃうの……?」

 

 やめてー! わたしをそんな目で見ないでっー!! 


 お姉さんは、子供のトレカのレアカードを取り上げて、オクで売り払うような、クソ親じゃないのっ!!


 無垢な目をした義弟に目をうるませて、そうせがまれては、他に選択肢なんて、なかったんだよ……。



◇◇◇◇



「僕ね、すっごいお金持ちなんだよ!! だからお金の力で、なんでもできるんだよ!!」


 「それって……、どうなのかな……」


 無邪気に金持ちアピールをしてくるマー君には、思わず白目をむきそうになるが、彼はとってもお金持ちで、お金が大好きなのだ。


 そして、立派なお姉さんになるなら、お姉さんもお金持ちになるべきだと勧めてくる。


 マネーゲームはデイリーミッションらしい。

 重い財布は心を軽くするんだって。


 聖女となるアンジェラよりも、地位を作るためにも金の力が重要だと。


 そういえば、わたしマー君のためにも、成り上がりにならなきゃいけないもんね……。えへへっ。


 うーん、今のところ、アンジェラお嬢様と張り合う気まではないのだが、いずれここを出ていくにしろ、アイツに潰されないように、しておいた方がいいよね。


 何かと敵意を向けてくるアンジェラのことだ。


 わたしの結婚や就職に、圧力をかけてくるとか、確実にありえそうだよ。


 よき友は買わなければならないが、敵はタダでもできるって、マー君も言ってたもん。

 

 男爵令嬢(仮)の地位なんて、紙切れのような物でしかないからね。


 それなら、選択肢を増やすしかないよね。


 よし、まずは、投資とお勉強を頑張ろう!


 マー君には、虫さんや鳥さんのお友達がたくさんいるらしく、情報を集めてくれるんだって。 

 それで投資も上手く行くみたい。

 なにそれ、デビルイヤー? 早耳って奴かな。


 すごいなぁ、マー君は。

 さすがは悪魔っこだね。


 ……うん、投資は人任せになっちゃうから、お姉さんは貴族のお勉強のほうを、頑張るよっ!!



◇◇◇◇



 家庭教師の先生にも、マー君と一緒に教わる。


 「今の僕は9歳だよ」っていうから、わたしより四歳も下なのに、とっても頭がいい。

本当に、すごい子良い子立派な子だね。


 貴族の子供って、男女で覚える所作や、マナーに違う所もいろいろとあるんだけど、一緒にお勉強させて貰っている。


 エスコートや受け答えも併せて学べるから、実践的な授業になって、とっても学びやすいね。


 間違えても、いつもそっと指摘してくれるから、お姉さん、助かっちゃうなぁ……。


 いつもおんぶにだっこで、マー君に養われてるだけとか気づいたら泣けてくるから、全力で目を背けよう…………。


 寄生先がアンジェラからマー君に変わっただけ、とか絶対に違うんだからねっ!!


 ううぅ……。

 幼児にタカる自分のズルさに、凹むわ……。


「元気出して、お姉さん!お姉さんはバカでもヒモでも、僕の大事なお姉さんだよ!」 


「マー君、もう少し言葉を包んで…ぶぎゃあっ! ちょっ……ぶぎゃあああ! いきなり何すんの?」

 

 マー君。札束ビンダとか、やめてー!!

 しかも往復! 


 鬼かっ! 悪魔かっ! あ、小悪魔ちゃんだったわ……。


「元気が出るようにお札()包んであげようかと思ったのに……」


「お札は人()包むものじゃありませんっ!」 


いくら子悪魔ちゃんだからって、そんな経済的・肉体的DVなんて、悪い子のすることだよ!めっ!!


「なんで? 包んであげたり袋に入れたりポッケに入れたりすると、みんな喜んで元気になるんだよ?」


 その言い方には、()()()より()()の匂いしかしないのは、何故なんだ……。


「……いい? マー君。お札はね、()()包むものであって、()()包むものではないのですよ」


「いつもなら、喜ばれるんだけどなあ……分かったよ。お姉さんはコレ好きじゃないなら、僕もうしないよ」


「……分かってくれたのなら、いいの」


 ……あんまり分かってない感じだけど、理解しても納得するまで時間がかかるものらしいから、深くは触れないことにしましょう。そうしましょう。


 「じゃ、代わりにお姉さんの好きなことしよっ? お姉さんの元気出るようなことして、遊ぼうよ!」


「分かったわ、マー君!!」


 やっぱり、マー君は良い子だね……。

 お姉さん、嬉しいよっ!


「じゃあお姉さん、四つん這いになってよ!」

「……えっと、何をするのかな?」

「お馬さんごっこだよ」

「え?」


それ、わたしの好きなこと……かな?


「ほら、早く! 僕のお馬さん!」


 ニコニコ笑顔を崩したくなくて……、疑問を感じながらも言われるがまま、膝と足を地につける。

 サマードレスのまま尻を突き出し這いつくばるなんて、みっともないが、ここは我慢だ。

 下町にいた頃ならばこんな風に小さな子供をあやして遊んでいても、おかしくないはずだ。

 

 そう、たまには気取らずに、子供目線も大切だ。


「ヨシヨシ、良い子だね。エリカ」


 頭を撫でられ、背に乗られる。

 程よい重さと背中の温もり……。


「ゴー! さぁ動いて!」


 脚で身体の脇を締められ軽く蹴られ、お尻を打たれ……あぁ、わたしは今、この子に使われている。


「わぁ! すごい、はやいはやい!!」


 マー君のいつもは膝下のハーフパンツが、今日に限って膝上丈で、ハイソックスと組み合わせてるから、しなやかな太股の感触が、はっきりと伝わってくる。

 無垢なスベスベ感が……、ほのかなぬくもりが……。


「あははっ! たのしー! ……どうお姉さんも楽しい? 元気出た?」


 ――お姉さん、確かになんだか楽しくなっちゃったけど、これで楽しくなったり、元気出しちゃ駄目だと思うのっ!


 マー君の綺麗な脚になんて、絶対に負けないんだからねっ!!

 

 やめてっー!! その柔らかいふくらはぎを押しつけたり、締め付けたりするのは、やめてー!


 ふう、危なかった……。


 まだまだ弱いわたしだけど、立派なお姉さんになって見せるんだからねっ!!

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一話完結、異世界あるあるブラック大喜利!!
「黄薔薇姫と悪魔執事 世界よ、もっとわたくしに嫉妬しなさいっ!!」
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