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11 姉が信者を怒らせました

 学園入学前に一度、伯爵家の別宅に帰宅した。


 外では両親とも度々会ってたけど、久々にゆっくり過ごせて嬉しい。


「エリカの好きな桶プリンもあるぞ」

「やったー!! マー君半分こしようね」


 今回の帰省では、アンジェラからの晩ごはんミッションは出題されなかったので、別宅で家族四人、久々にゆっくりとした食事が出来た。

 

 お貴族様の贅沢ごはんじゃない、我が家のみんなが大好きなご馳走だ。

 フィッシュアンドチップスや、マッシュルームフライ、ミートパイにローストビーフまである!!

 

 うちのローストビーフのソースはもうもう、本当に最高なんだよ。

 フライのタルタルもピクルスの食感が溜まらなくて、これだけでもたらふく食べてしまう。

 フライはタルタル乗せ専用スティックと断言してもいいぐらいのおいしさなんだから。


 子供時舌とか言わないで。むしろ今日のわたしは正々堂々とお子様を自称してやろう。

「あー、ちょっと。お母さん!!サラダに生玉ねぎは入れないでって、いつも言ってるじゃんか!」


 母も社交を熟して頑張っている。「エリカの活動のお陰で好意的な声もたくさん頂けて、助かっているわ」と言ってくれたけど、キャサリン先輩のこともあるから、本当は賛美両論なのだとは思う。

 

 聖女じゃない、セイガメンバーは、わたしだけだしね。

 聖女じゃない子が加わること自体は別に問題ないのだが、エネルギーの柱を掴む役目なので、微魔力メンバーばかりが増えても困るのである。


 かと言って高魔力保持者絶対主義に固執しての、担い手不足も困るので、この辺りは教会も本当に悩んでいるらしい。


 わたしのように、行き場のないけど、やる気のある子がいたら、迎えいれることには問題ないのだが、特に困ってはいないけど、このブームで活動への憧れがある微魔力の子が、ただ今、急増中でして……。


 現実的に、厳しい訓練についていけるかってことも、重要なんだけど、その子たちをどんどこ受け入れても、拒んでも、それによって編成の偏りが出れば、不満が募っていくことになる。

 

 貴族社会の柵、はいろいろと厄介だからね。怖い怖い。

 

 今年度は一旦高魔力の子女のみの加入となったのも、その辺りの微妙な兼ね合いだ。


 コネ採用というか同情枠のわたしとしては、内部の複雑な事情に、絶対に余計な口は、挟みたくない。


 ヤブヘビ展開だけは、もう勘弁してくれよ。


 伯爵家では、年の近いわたしがいなくなったことで、アンジェラお嬢様もだいぶ落ちついたらしく、入学後に屋敷や学園で目立ったトラブルは起こしていないらしい。


 それって当たり前のことでは?とも思うけど、そういう当たり前が出来るようになることこそが、一番だからね……。


 素行に問題は無く、成績も優秀。

 だけど。友達や婚約者候補がいるのかなどの日々の様子は、全く共有されていないので、両親は不安らしい。


 直接関わる必要はないが、入学後、それとなく周囲から話を伺って欲しいと、頼まれてしまったんだ。


「あなたにはいつも苦労を掛けて、ごめんね。でも二人には、それぞれ幸せになって欲しいの……」


「大人の事情に巻き込んでばかりで、すまないな。当時は、こんなにも子供たちに負担を強いる結果に繋がるとは思ってもいなかったんだ。今更謝って済むことじゃないが、浅はかな父さんたちのせいで本当にすまない」


 父と母から抱きしめられたら泣けてきた。

 もうっ、本当に、いつもいつも、ズルいんだから!!


 離れていても大好きだし、時間を作っては外で会ってくれていたの、ちゃんと、わかってるんだからね。

 

 入学後の別館でのわたしとマー君の滞在について、アンジェラからの御意見は表明されていない。


 週末はミニ公演や長稽古があるので難しいが、せめて平日の半分ぐらいは、ここに滞在できるよう、父から提案してもらおうかな……。

 

 タイミングを計っての提案になるだろうけれど、アンジェラのテリトリーである本館になんて、絶対に寄り付かないから、お願いだよ。

 

 わたしだって、両親と過ごしたいんだ。 

 無理して大人になんて、なりたくないの。

 もう少しだけ、子供に戻れる時間を、ちょうだい。


◇◇◇◇



 はい、案の定、そうはいきませんでしたよ。

 毎回毎回……、アンジェラお嬢様は、わたしの夢や希望を打ち砕くのが、本当に得意なんだね。



「聖女気取りもいい加減にして! あんたなんか所詮わたくしの劣化した代用品じゃない!! 偽聖女の分際で、勘違いも、いい加減になさいっ!」


 入学早々、さっそくいちゃもんをつけられてしまいました……。


「なんだとっ!! 勘違いはそちらのほうだ」

「そうだ。エリカ様は聖女ではありませんぞ」

「しかり、エリカ様と言えば『ツンデレ妹』に決まっているではないか」


 保護者の皆さんや、周囲のセイガ信者の方々が、擁護してくれます。


「えっ何⁈ ツン、デル?この女が終わってるってことではなくて? 全く意味が分からないわ。何言ってんのよ、あんたたち、馬鹿なんじゃないの? どうせ、そのニセモノに、騙されてるだけなんじゃないの?」

 

 信者の皆さんたちの常識は、アンジェラには通用しなかった。

 

 相変わらず、ナチュラルに煽りちらす人だな……。

 虚飾を嫌い、物事の本質を突いちゃうタイプだけど、健気で清らかとは言えない、絶対に主人公にはなれない感じの、困ったお嬢様だなあ…………。


 貴族令嬢が、そこまで言わんでも委員会が、結成されてしまう。



「なんだと? さては、きさまニワカだな」

「いいや、ヤツはアンチだ!」

「なんと、あれが噂によく聞くアンチにござるか」

「セイガアンチとは、汚らわしい神敵めっ!!」


 あぁー、保護者会と信者の皆さんが、ついにガチ切れしてしまった。

 感情的になっている集団に囲まれて、流石の姉も顔色が悪くなってきた……。


「あの、みなさん、止めてく……」


「みんなぁー、そんなにプンプンしないでぇ!」


「おぉ、キャサリン様だ!」

「見よっ、生キャシー様の降臨ぞっ!!」

「者ども、控えおろう」

「ひれ伏すのじゃー」


「いつも応援ありがとっ!!……残念だけど、こんなふうにセイガメンバーの身内にも、活動への理解がない方もいるんだよぉ。悲しいけど、おウチの事情ってヤツ、みんなも分かるよね……。デリケートな問題だから、エリリンのことそっとしといてあげて欲しいなぁ。キャシーからのお願い!聞いてくれる?」


「「「モチロンさー」」」


「キャシたん、まぢ聖女!」

 

そして巻き起こる、大喝采からのキャシたんコール。

  

 キャサリン先輩はまぢ聖女だし、メンタルもぐう聖で、聖女役でも大人気な不動のセンター様なのだ。


 一年生の時は苦労されたが、「出る杭は打たれても、出過ぎた柱は折れはしない」をモットーに、敢えて目立つよう、あざとさ全開で、頑張ってる烈女でもあらせられる。

 

 王族絡みのトラブルも、お国のために奉仕活動に励む乙女たちへの、激励の御言葉を批判した方が、悪いという形で、無事終了した。

 

 内々で調整中だったため、発表はされていなかったことだが、殿下は既に、あの頃には、卒業後の近隣国へ婿入りが決まっていたらしい。


 つまり王族との婚姻レースで、下位貴族のキャサリン先輩が、知名度を武器に周囲を出し抜いたのではないと、ご理解頂けたことで、収まったのだ。


 高魔力保持者たちが、聖女認定をお断りしまくってたのも、そこが原因だからね…………。

 時間を無駄にせずに、学内での王族とお近づきになれるチャンスを生かそうと思っていたのに、己が蹴った話に飛びついた(先輩のアンチ全員が聖女候補でもないと思うが)卑しい下位貴族如きが、殿下に近づこうとするなんて、許せないという方々からの、やっかみも、多かったんだろうね。

 

 だけど、殿下のちょっとしたミーハー心からの軽口が、愛人疑惑騒動に発展しては、外交戦略までもが、おじゃんになってしまうからね…………。


 その後も二人っきりでお話しされるだとか、浮気を疑われるような振る舞いや、王族特権での優遇も一切無かったので、むしろ健全な愛国心からのお戯れを、騒ぎ立てたほうが国賊なのでは? というアンチさんたちへの、オーバーキル気味な空気で終幕となった。


 炎上経験者の先輩は、さすがの火消で、皆様の毒気を抜いて、わたしを連れ出してくれた。


 感謝感激雨あられ、さすがです。

 キャサリン先輩、まぢ聖女!!



 アンジェリカは、本当に相変わらずな残念お嬢様っぷりだが、セイガが、学園生にも認知されてることを、こうして実感できたのは、嬉しい発見だね。


 わたしも、学園での振る舞いには、気をつけなくっちゃ。


 去年入学したアンジェラも、メンバーたちの慕われている姿を、目にしてきたのだろう。

 イロモノ枠のわたしでさえ、入学したら学園内には、保護者会の方々がいる。


  あの性格では、敵ばかり作りそうで、友人もそう多くは無いんだろうな。


 自分より下のはずの異母妹が、新入生のくせに、持てはやされている様子は、彼女の自尊心を、刺激してしまったようだ。

 

 聖女の座を譲ってやったとか、奪われたと主張すればするほど、アンジェラは痛い人扱いをされてしまう……。


 メンバーに入れなかった逆恨みを、募らせているのだと見なされている。

 

 当主になるからって、断ったのは、そっちじゃんか……。


 去年の八人、更に今年の新人十二人、更に通いの研修生の八人と、たくさんの聖女や見習いがいるので、メンバーは、既に足りている。


 二年生のアンジェラだって、魔力量だけをみれば、今からの加入も可能ではあるけれど、今のセイガは結婚するまでしか、在籍が出来ないんだよ。

 

 訓練時間が作れなきゃ、在籍だけしても、舞台には立てないしね。

 

 ここはアンジェラが法となる伯爵家ではない上に、彼女以上の上位貴族や権力のある方々の目もある。

 

 わたしたちの活動に批判的な方だって、彼女のようなタイプとは、さすがに一緒にされたくは、無かろうに。

 

 メンバーが身内だからって、勘違いをしている姉という認知をされた、アンジェラは、すっかり孤立してしまった。


 こんなの両親に、なんて報告すればいいの?

 すごく、言い辛いよ。

 せっかく成績は優秀なのに、本当にもったいないよ……。

 

 学園って社交力も重要なんじゃなかった?

 当主ともなれば、貴族間での交流は欠かせないだろうに。


 キャサリン先輩なんて、学内での営業活動どころか、ガチな狂信者による、新興の一大信仰派閥を築いているというのに。

 

 同じ二年生ならば、彼女とだけは、敵対するべきではないってことぐらい、分かっていただろうに。



◇◇◇◇



 アンジェラのお陰で、今日の入学式は、散々だった。

 訓練所のお部屋で、マー君の薄いお腹にスリスリしたり、へそに息を吹き込んで癒やされなくては、身が持たないよ……。


「お姉さんは、あの人どうにかしたい?」


「フゥー。クールなお姉さんは、既にアレとの対話は諦めているからね。ひたすらに距離を置きたいかな……。フゥー。全くヤレヤレだよ。別宅の両親にだけ会えれば、それでいいや」


「うん、なら僕もそーするよ。別宅は本当に楽しいよね、ポテトやお魚のフライは金色のサックサクで、コインみたいで楽しいから、僕も大好きだよ。たまには遊びに行こうね」


「揚げ物は、おいしいもんね。お姉さんも賛成だよ」


 なるほど、マー君は、ポテトフライは厚切り派なんだね。

 これは重要な情報だ。


 お姉さんは、お腹を捏ね切り回す作業に忙しいけど、こういう大切なことは忘れずに、頭にメモしておかなくては。


「……あそこは玩具もたくさんあるし、しばらくは楽しめそうだしね」


「マー君、お勉強ばっかりしてないで、お姉さんとも遊んでくれる?」


「さっきから、僕を弄んでるのは、お姉さんのほうだよ」


 そんな不健全な言い方、やめてー!

メニューは英国風庶民料理を意識したものの、カスタードプティングではキッズ大歓喜感に掛けるため、プリンとさせて頂きました。料理の味より、ソースが命。

何の味かさえよく分かってないけどおいしいものは良いものだという英国風キッズ感(偏見)です。

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一話完結、異世界あるあるブラック大喜利!!
「黄薔薇姫と悪魔執事 世界よ、もっとわたくしに嫉妬しなさいっ!!」
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