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「まただ…………………。」
人気のない、寂れた商店街のアーケードに少女の声が響いた。
褐色の髪をひとつに結らし、左右に少し揺らしながら失せ物を探している少女がひとり。
まただ、という言葉を発してる途中から自身のポケットを漁ったり、バックの中を探しているのだがお目当ての物は見つからずますますます探す手付きが激しく早くなる。
「どうして、どうしてないの………?」
身体を右往左往させておりその手元や足元をじっと見つめる視線はキョロキョロと頼りなく、忙しない。
制服を着た女生徒…………安藤遥は「ここがなければどこにあるのだろうか」と思いを馳せていた。
「どこに消えたんだろう………。」
意味まさに今来た道筋を思い出しているであろう遥の視線は頼りなく、それに加えぽつりと呟いた彼女の周りを見ることしか出来ない様子はまるで迷い子のようであった。
周りを見渡しながら彼女は「大切なものなのに、」と付け足すように後悔するように、言葉を紡いだ。
「(ここに来る前はコンビニに寄って、それからコンビニに寄る前は学校に居た。でもコンビニの時点で財布を取りだした時にあったから、その時点ではあったはずなのに、)」
ヒューヒューヒューヒュー
『でも、もしかして』という思考を生ぬるいような、肌寒いような風が遥の思考を遮って仕方ない。
そしてそんな風がスカートをはためかせた。
彼女はぶるり、と肩を震わせて商店街のアーケードから見える空に目をやる。
薄紫色と明るい色が混ざったようなそんな色合いをしている空。『個人的には綺麗だと思うけれど、今はそんなことを言ってる情緒も時間の無いのだ』と己を鼓舞してまた下を向く。
未だ4月になると言えど、肌寒い日が続くこの時間帯。ひんやりとした感覚が遥の背筋を這う。
「(もう既に肌寒くなってる………。早く見つけたいところだけど………。)」
日は既に西に傾きかけて普段騒がしいはずの商店街も人がまばらに散っているような現状である。
実際に少女がキョロキョロと忙しなくしていても目を合わせるどころか近づいてくる人影さえ見られない。
いつものことなら周りを目を気にしてあんまりこう言ったあからさまな探し方は安藤遥はしないのだが今の遥にはそれに値する理由があった。
「写真を、見つけないと。お母さんが写ってる写真…………。」
『大切なものだから』
薄暗くなっていくアーケードの商店街の中でぽつりと呟いたが、その言葉は薄暗い空間の中に溶けて消えていった。
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