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祝言の夜

 祝言の夜。

 小雪は、蒼空の待つ寝所へ入り三つ指をついた。

ふすまに背を向け横たわる蒼空は、背後の気配に微動だにせず無言を貫いた。

 小雪は、横たわる蒼空の背に添い寝し、その広く逞しい背に触れた。

 蒼空は、思いもしない小雪の行動にピクリと反応し、素早く起き上がり離れると言い放った。

「僕は君に邪な感情を抱いていない。だから君も無理しなくていい。今後それぞれ別の部屋で休もう」

 そうきっぱりと言い残し、部屋を後にした。

 

 更けゆく夜澄み渡る空をのぞめば、青月が愛しき者を想起させる。

 離れるほど募りゆく恋しさ・・・・・・。深まる闇に寂しさは増すばかり・・・・・・。

 蒼空の心にはいつだって美月姫しかいない。蒼空の瞳には美月姫しか映っていないのだ。 

 今はただ、心赴くまま美月姫を求めた。



 トン、トン――――。

 深夜、家の戸口を叩く音がする。

 警戒した美月姫は、護身用の棒を手にし戸口に恐る恐る近寄ると身構えた。

「美月姫、僕だ」

「蒼空!?」

「家をこっそり抜け出してきたんだ。美月姫と話がしたくて・・・・・・。少し話さないか」

「どうしたの?こんな夜更けに・・・・・・しかも、祝言の夜にこんなところを誰かに見られでもしたら・・・・・・!今すぐ帰って」

 美月姫は、戸を開けることなく蒼空を返した。 

 それからというもの、蒼空は、毎晩のように深夜になるとやってきて戸口に佇み、話を聴いて欲しいと懇願した。

 だが、美月姫は、蒼空と家族のためを想い会うことを拒み続けた。


 

 その日の夜も、蒼空は、灯りを持たず月明りを頼りに暗い夜道を慣れた足取りで歩いていく。

 小雪と婚姻を結んだ蒼空が、深夜に美月姫の家を訪れる行動は、不貞行為を疑われる恐れがあった。

 それでも蒼空は、火中に身を投じるような危険を冒してまで美月姫に会いたかったのだ。

 今宵も閉ざされた戸をじっと見つめる蒼空。 

 それは、美月姫の心のようにも感じられ、虚しさや寂しさがこみ上げるばかり。

 それでも蒼空は、美月姫に拒まれ続けようとも、来る日も来る日も通い続けた。


 

 いつものように、胸躍らせながら木戸に向かってその名を囁くと、中からすぐに返事が返ってくる。  

 対面を拒む美月姫だが、こうして戸口で待っていてくれるのだ。

 その鈴のような声音に、蒼空の心は癒される。

 今となっては、人目を憚ることでしか会うことが叶わない二人。

 運命の悪戯に抗うように、二人は心通わせた。 

  

 

 翌朝、蒼空は、朝餉の膳で小雪に睨み付けられたが、言葉を交わすことなくやり過ごした。



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