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闇に染まった世界に光を灯す  作者: 夜宵 煌
3/6

地下の出会いは

 レーヴェンから降りた3番隊の面々は、目の前の光景に目を疑った。目の前に“街”が広がっていたのだ。比喩などではない。家があり、店があり、街灯があり、車道・歩道があり、正真正銘の“街”があった。


 「街・・・・ですね〜」


 「地下に街・・・・」


 「何故街が・・・・?」

 ヒメリア、スノール、ルカがそう呟いた。


 「地下は約1000年前の人類が、負の感情に飲まれた生き物から身を守るために逃げ込んだ場所。地上にまた人類が出てきたのは約300年前。つまり、約700年間人類は地下で過ごした。街を形成してようが不思議はないだろう?」

 リリアが皆に説明するようにそう言った。


 「本に書かれていたので知っていましたが、これ程とは思いませんでした。地上とほぼ同じですね」

 エリスはそう言いながら辺りを観察し、実際に触ったりしている。


 他の隊員達も興味深そうに手前にあった建物に入ったり、壁に触れたりしている。


 「お前達、地下に街があるのが興味深いのは分かるが、仕事をするぞ」

 完全に仕事のことを忘れていそうな隊員達にリリアが注意する。


 「まぁ、そんなに急がなくても良いんじゃない?ねぇ、リリア」

 突然、リリアの耳元で男の人の声がした。


 驚いたリリアは、その場から飛び退き、炎の弓矢を構える。


 隊員達も武器を構え、戦闘体制に入った。


 「おぉ、流石リリアの部下達かな。戦闘体制に入るまでのスピードもそうだけど、俺の存在を認識してから凄い殺気だ」

 男はリリア達が武器を構えても落ち着いた様子だ。まるで、お前達など敵ではないとでも言っているかの様な態度だ。それに、男の格好も変だ。ボロボロの服にボサボサ金茶色の髪に萱草(かんぞう)色の瞳。ボロボロの服の隙間からは肌が見えるが、顔や手以外は斑らに人の肌とは思えない黒さをしている。


 「テメェ誰だ?敵ってことでいいんだよなぁ?」

 男の態度にリオルはイラつき、低い声でそう問う。さらには、さっきまでの呑気な様子が嘘の様に凄まじい殺気を放っている。


 「俺かぁ?俺はな、”ヨウガ・ディートラ“って言うんだ。お前達の敵って認識で問題ないよ」

 ヨウガは相変わらず呑気な様子だが、目だけは周りを舐めるように観察している。


 「ヨウガと言ったな。貴様には問いたい事がある。何故貴様は私の名前を知っている?貴様と私は初対面のはずだが?」

 リリアもヨウガに最初に声を掛けられた時から疑問に思っていたことを問う。


 「・・・・初対面?まさか、リリアは覚えてないのか?俺はずっと昔からリリアのことを知っているのに!会話だってした。なのに覚えていない?何故だ?何故だ?何故っ!」

 リリアの問いにヨウガは頭を抑え、理解出来ないというように小声で呟いている。


 「いつまでブツブツと喋っているつもりだ?私の問いに答えろ。」


 「いい加減何か言いやがれっ!」


 「うるせぇなぁ。お前に用はねぇんだよっ!リリアと喋ってる最中だろうが⁉︎」

 ヨウガはいきなり声を荒げた。


 情緒不安定だ。


 (・・・・黒い肌?ということは・・・・此奴、負の感情に飲まれかけてる人間か!)


 リオルやリリアがヨウガと問答をしている間、ヨウガを観察していたエリスは、ヨウガの正体について考え込んでいた。そして、その正体に冷や汗をかいた。


 「それにしても酷いなぁ、リリア。俺のことを忘れちまったのか」


 「忘れたも何も、貴様とは初対面だと言ったはずだが?」


 「あぁ、そうだったなぁ。あぁ、あああああああああぁ!もう良い、それならここで死んでいけ!」

 ヨウガがそう声を荒げた瞬間、ヨウガを囲う様にいた3番隊の面々を囲う様に、負の感情に飲まれた多種多様な生き物達が現れた。


 「なっ、何時から居やがった!」

 リオルが驚いたように叫ぶ。


 「此奴がギャルルが100匹以上群れた原因って考えて問題なさそうだな」


 「つまり、此奴を殺れば解決ってことだな」

 リリアが負の感情に飲まれた生き物達が向かってくる中、そう冷静に呟くと、ルイスがヨウガに突っ込んで行く。


 「ルイス、其奴は多分負の感情に飲まれかかっていm-」


 「っ!」

 エリスがルイスに警告を最後まで言う前に、ルイスは勢いよく止まって背後に飛び退いた。次の瞬間には、ルイスがさっきまで居た位置から何かが突き出て砂埃が上がった。


 「っぶねぇ、攻撃予知があって良かった」


 「ルイス先輩、大丈夫ですか〜」


 「あぁ、平気だ。・・・・何が出て来たんだ?」

 ルイスはヒメリアに返事をしつつ、さっきまで自分が居たところを睨んだ。


 砂埃が晴れた先には、人の大きさを優に超える爪の鋭い獣の手が突き出ていた。避けていなかったら爪で串刺しになっていただろう。


 その手は暫くすると一度地面に潜り、今度は両手を出すと穴を広げて顔を出した。


 「グズモスか」


 グズモス:モグラが負の感情に飲まれた姿。巨大な体と鋭い爪が特徴的。地中を掘り進めるスピードは秒速25m。体が巨大な為、必然的に穴も大きくなり、建物の下を掘られると建物が傾く。穴への落下や地中の空洞に埋まるなどの危険が伴う為討伐の難易度も高い。だが、他の負の感情に飲まれた生き物達に比べると戦闘能力は低い方だ。


 「今のを避けるとはねぇ。リリアの部下は優秀みたいだねぇ」

 ヨウガは残念そうに、それでいて面白そうにそう言った。


 「まぁいいや。今日はもう帰らせてもらうから」

 ヨウガはそう言って指笛を吹いた。すると、巨大な鳥がヨウガの前に止まり、ヨウガはそれに乗った。


 「バラヴァスもいるのかよ」


 バラヴァス:隼が負の感情に飲まれた姿。飛ぶ速さは最速で秒速200m。だが、一度その速さで飛ぶと次にその速さを出すのにインターバルが必要があり、インターバルは個体差が大きい。それでも討伐難易度は高い。


 「じゃあ。まぁ、直ぐに会うことになる気がするけど」

 ヨウガはバラヴァスに乗って去って行こうとした。


 「待ちやがれっ!」

 ルカはそう言って翼を広げてヨウガを追うように飛んだが、直後に起きた爆発によって吹き飛ばされかけた。


 「おぉ、やっぱリリアの部下は凄いなぁ」

 ヨウガも目の前で起きた爆発で一度足を止める。


 「簡単に逃げられるとでも思ってたのか?」

 リオルはそう言って硝煙が上がっている拳銃をヨウガに向ける。リオルの額には青筋が浮かび上がり、キレているのがよくわかる。


 「はぁ、折角集めた奴らがこうも役に立たないとは思わなかったよ。それに、君の能力も凄いなぁ。リリアより強いかも」

 ヨウガはため息を吐いて、リオルの背後に目を向ける。


 リオルの背後には、ヨウガが用意した負の感情に飲まれた生き物達が無惨に転がっている。なんなら街の一部も吹き飛ばされている。他の所にも目を向けるが、他の隊員達が苦戦している様にも見えない。おまけにリリアは炎の弓を手にはしているが、矢を放った様子もなく、ずっとこちらを観察している。


 「はぁ、本っっ当に君達は強いんだなぁ。仕方ないかぁ、使う予定は無かったんだけどなぁ。はぁ、仕方ないよなぁ?状況が悪化するのはなぁ!!!!!」

 ヨウガがそう叫んだ瞬間、さっきのとは比にならない程の負の感情に飲まれた生き物達が現れた。しかも、戦闘能力に秀でた生き物達だらけだ。


 「じゃあな。生きていればまた」

 そう言ってヨウガは今度こそ去って行った。


 「チッ、逃すか」

 リオルはそう言って背中からスナイパーライフルを取り出し、スコープを覗いて猛スピードで去って行くバラヴァスを狙って放つ。


 「躱されたか」

 だが、ヨウガを乗せたバラヴァスは、リオルの攻撃を躱して街の奥へと向かって行った。それをリオルは忌々しそうに見送った。


 「リオル、早く帰りたいので最大威力で撃ってもらえませんか?」

 エリスがそうリオルに要求する。


 「ウゲェ、お前汚いな」

 リオルがエリスの方を向くと、エリスが返り血を滴らせた状態で立っていた。


 エリスの背後の方を見ると他の隊員達が、負の感情に飲まれた生き物生き物達を相手に戦闘を繰り広げられている。どうやらエリスは負の感情に飲まれた生き物達をある程度討伐した後、服の汚れが気になって一時的に下がって来たらしい。


 「だから早く帰りたいんですよ。中のシャツにも染みて気持ち悪いですし、シミになりそうですし。ーそれにとても不愉快です」

 エリスは心底不愉快そうにそう言った。


 「それはその状態のことか?それとも彼奴のリリアへの執着がか?」


 「・・・・想像に任せます」


 (9割後者だろうな)

 そう思ったがリオルは口には出さなかった。


 「リリアー、エリスが最大威力で撃てって言うでやっても良いですか?」


 「構わない。隊員達を下がらせたら撃て」

 リリアは炎の矢を放ちつつ、許可を出した。


 リリアとしても、これ以上時間をかけるのは良くないと思っていた。負傷者はいないものの、大量の負の感情に飲まれた生き物達をさっさと片付け、団長に報告するのが最良の選択だと思っているのだ。


 「了解で〜す」


 「お前達、リオルまで下がれ!」

 リリアがそう隊員達に言った瞬間、隊員達は一斉にリオルまで下がって来た。


 リオルは全員が下がったのを確認すると、引き金に指を掛けた。


 「言い忘れてましたが、ここが地下だということを考えた上での最大威力にして下さいね」

 リオルが引き金を引こうとした瞬間、サラッとエリスがそう言った。


 「お前・・・・それ今言う?」

 エリスの言葉にリオルは固まった。


 完全に周りが地上と同じ様な街だったこともあり、リオルは完全に此処が地下だと言うことを忘れていた。故に、本当に最大威力になる様に弾にプロセフィを込めていた。


 「・・・・・・・・忘れていたんですか?」

 エリスがひきつった顔で聞き返した。


 「あぁ」


 「「・・・・・・・・・・・・」」

 二人は顔を見合わせた。


 「もう直ぐ近くまで迫ってますよ〜!」

 負の感情に飲まれた生き物達が迫ってきてヒメリアが悲鳴を上げる。


 「早く撃て。僕も早く帰りたい」

 クロルが話を聞いていなかったのか、リオルを急かした。


 「クロル、話を聞いていましたか?このまま撃たれたら生き埋めになりますよ、確実に」

 エリスがクロルの発言に思わず聞き返す。


 「話なら聞いていた。その上で言っている」


 「聞いた上で言っているんですか?頭大丈夫ですか?」

 エリスは本気でクロルの発言を疑った。


 確実に生き埋めになると思われる行動を、話を聞いていた上で早くやれと言っているのだから当然だろうが。


 「リオル、早く撃ってくれ。もともと此処は、負の感情に飲まれた生き物達から逃れる為に作られた場所だからそれなりに頑丈だと思うぞ。万が一の場合でもクロルの能力で外に出られる」

 エリスが懸念していることをリリアは否定した。


 「そうですか」


 「じゃあ撃つぞ」

 そう言ってリオルは引き金を引いた。


 リオルが撃った銃弾は、先頭の負の感情に飲まれた生き物の前まで来ると大爆発を起こした。その爆発は周りの建物も吹き飛ばし、壁にもその威力が伝わりヒビが入る。


 「崩れそうだな。プロセフィで多少の身体強化はしたが、耐えられそうにない。それに、酸欠になるだろうな」

 周りの様子を確認してリリアがそう冷静に分析する。


 「運んだほうが良い?」



 「頼む」

 クロルはリリアにそう言われると能力を展開し、全員を一気に外に運んだ。

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