アルフィアの森
―翌日早朝
3番隊の上位の隊員たちは、軍が所有する車やバイクが保管してあるところに集まった。
5人乗りの車を2台にバイク3台でアルフィアの森に向かった。
先頭の車はリオルが操作しており、助手席にリリア、後ろにネロとクロルが乗っている。
後続の車はルイスが操作しており、助手席には、Yシャツに銀鼠色のネール・ジャケット、鈍色のスキニー・パンツにコンバット・ブーツ姿の、白銅色の髪に若緑の瞳をした 、No.6のベルシオ・ロロイズ、後ろには、Yシャツに紅海老茶色のカラマニョール、消炭色のスカンツにグラニー・ブーツ姿の、猩々緋色の髪に朱殷の瞳ををした 、No.9のレトア・ラティスとヒメリアが乗っている。
バイクに乗っているのはエリスとスノールと、Yシャツにインディゴのサドル・ジャケット、フォグブルーで膝丈のルーミー・パンツにジャンプ・ブーツ姿の、青藍色の髪に瑠璃紺色の瞳をした 、No.7のルカ・ラナイルだ。
3番隊の面々は1時間程でアルフィアの森に着いた。森は生き物が全くいないかのように静かで不気味だ。時折吹く風の木の葉を揺らす音が森から聞こえるだけだ。
「森の中には歩いて行く。警戒は怠るなよ」
リリアは車から降りながら忠告した。
リリアは、車から降りてすぐに森を見ているネロに声をかけた。
「ネロ、何か見えたか?」
「今のところは特に、、、、。生き物がいるとは思えないほどです」
「そうか」
リリアの問いにネロは静かに答える。
ネロの能力は『五感・身体強化』。名前の通りで、プロセフィによって五感と身体能力を強化することができる。視覚に至っては、生物以外を透視することができ、『強化』という域を超えているが、、、、。そのため、索敵にはとても優れており、ネロに隠し事は不可能と言われるほどである。
「中に入るぞ」
「はーい」
リリアが声をかけ、皆で中に入って行く。
森に入って十数分後、ネロが呟いた。
「いた」
直後、リリア達を囲う様に約20m先にギャルルの群れが現れた。その数は100を優に超えている。
「能力で隠されてたのか?かなり強力な能力を持ってる奴がいるっぽいな」
いきなり現れたギャルルの群れに皆が臨戦態勢になっているのに対し、リオルはそんなことを呑気に呟いている。
ギャルルが約10m先にまで迫ってきたとき、リオルは自身の武器の一つである拳銃を懐から取り出し、ギャルルへ銃口を向けると、一発発砲した。
そして、その弾が複数のギャルルを貫いて地面に着弾すると大爆発を起こし、約20匹のギャルルが死んだ。爆発に巻き込まれたギャルルもいるが、吹き飛ばされた体が再生し始めている。
リオルの能力は『爆発』。プロセフィを込めたものを任意のタイミングで爆発させることができる。しかし、爆発の範囲はプロセフィを込めた量に比例するため、微調整が難しい上に殺傷能力が高い。そのため、仲間の近くに着弾したりしないように注意が必要だ。
「・・・・まぁいい。皆も生き残ったギャルルの討伐を始めろ」
リリアがそう言っている間もリオルは次弾を装填して、もう一度ギャルルへ発砲していた。
リリアはリオルの行動に呆れ気味だが、ギャルルを殲滅する為に声を掛けた。
「「「はい」」」
皆が散開してギャルルに向かって行く。
「雷装」
エリスの能力は『雷』。プロセフィで雷を生み出し、自在に操ることが可能だ。
エリスは自分の剣と自身に雷を纏い、本物の雷のような速さで次々と斬っていく。
ギャルルはまともに反応できない。
エリスの斬撃は、雷のような軌跡を残して奥へ進んで行った。
エリスが先程までいた所から東に数十m離れた所では、スノールがギャルルと対峙していた。
「本当に面倒ね。それに、雑魚でも群れると多少は厄介な存在になるって事が分かったわ」
そんなことを言いながらスノールはレイピアを抜き、構えながら詠唱した。
「凍結世界」
スノールの能力は『冷気』。プロセフィで自身を中心に冷気を漂わせ、それに触れたものを全て凍らせるのだ。この能力はリオルの能力と同じで微調整が難しく、仲間も凍らせる可能性が高い。能力を使う時は仲間との距離に注意が必要だ。さらに言えば、一度凍ると溶かすのが大変なのである。
スノールを囲うように襲いかかってきたギャルルは、冷気によって次々と氷像へと変わっていった。そして、次々とスノールに心臓部をレイピアで破壊されていく。
スノールがギャルルの心臓部を破壊する為に移動するたびに、別のギャルルが次々と凍っていき、ギャルルの攻撃がスノールに届くことはなかった。
スノールから南に約40m程離れた所では、不気味で異形の花々がギャルルを切り刻んだり、絞ったりしていた。そして、その花々の中心にはヒメリアがいた。
ヒメリアの能力は『花』。自身のプロセフィを地面に薄く広げることで、自由自在に花を咲かせられるのだ。花の種類は多種多様で、かつての花とは完全に別物であり、凶暴・凶悪で見た目も悍ましい。綺麗な花を咲かせられないわけではないが、、、。
「も〜、たくさんいすぎです〜。うぅー、こうなったら、もっと花を咲かせましょう!大地を彩る花々よ、害となるものどもを滅しなさい!」
ヒメリアがそう詠唱すると、新たに花々が咲き誇り、ギャルル達を葉で刻んだり、蔦で絞ったりした。えげつない。
ヒメリアから少し離れた所では勝手にギャルルが勝手に死んでいく現象が起こっている。いや、よく見るとレトアが薙刀で心臓部を破壊している。
レトアの能力は『気配遮断』。自身のプロセフィを自分や近くの仲間達、武器に纏わせる事で、自分や自分の近くにいる仲間達の気配を完全に消したり、痕跡や匂いを消したりすることができるのだ。『気配遮断』というよりは『認識不可の状態にする』と言った方が分かり易いかもしれない。ただ、レトアは能力を使ってなくとも、存在を認識されることが少ない。
「はぁ、面倒くさっ」
レトアはそう言いつつ、次々とギャルルの心臓部を的確に破壊していく。面倒くさがりのレトアにしてみれば、次々と湧いてくるギャルルの相手をするのは、強敵を一体倒すのよりも面倒臭いことなのだ。
ギャルルは一度もレトアを認識できず、不可思議な現象を前に何も出来ずに死んでいった。
エリスから北に数十m離れた所では、クロルとルカが互いに文句を言い合いながらギャルルを討伐していた。
「おい、そっちに行ったぞ」
「うるせぇな!言わなくてもわかってるんだよ!・・・・ってか、なんでテメェもこっちに来たんだよ!」
クロルとルカは、幼馴染な上に同じ隊に配属され、明確に序列ができたことで、かなり仲が悪い(それ以前もさほど仲は良くなかったが)。故に、会ったら必ずと言っていいほど喧嘩を始める。
クロルがルカの気に障る様なこと言って喧嘩に、というのがいつものパターンだ。
クロルの能力『影』。影に潜ったり、影から影へと移動することができるのだ。影に潜っている間は匂いが消えるため、匂いを辿って追いかけることはできない。
ルカの能力は『翼』。プロセフィで背中に真っ黒な翼を生やし、自由自在に飛び回ることができる。翼は漆黒で、主に秒速25m前後で飛び回っている。
クロルは影に潜ってギャルルの不意を突いて両手に持つクナイで、ルカは飛び回ってギャルルを翻弄しながら両手に持つ短剣で、次々と心臓部を破壊していった。
「はぁ、特に強い奴はいないみたいだな」
「ルカ、喋る暇があるならギャルルを殺れ」
「はぁ!?殺ってるんだけど!お前こそ喋ってないで殺れよっ」
・・・・二人はギャルルを討伐している間ずっとこの調子だった。
「うぜぇな。殺っても殺っても次々と湧いてきやがる。だりぃな」
クロル達から西に30m程離れた所ではルイスがギャルルの討伐をしていた。
ルイスの能力は『攻撃予知』。自身へ攻撃してくる方向や狙ってる箇所、どのような攻撃かを事前に知ることができるのだ。ただし、自身を攻撃するもの以外の攻撃は予知できない。
「リーダーっぽいのとかいねぇ割に、結構統率は取れてんだよなぁ。どうなってんだ?」
ルイスは、ギャルル達の仲間割れが起きていないことが不思議だった。ギャルル達の生態として、仲間割れが起きないことは異常なのだ。それに、一人当たりに向かって行くギャルルの数がほぼ同じことも不思議だった。
「まぁ、今頃ネロと隊長が原因を探ってるんだろうが」
ルイスは原因の手掛かりを見つけるのは完全にリリアと(主に)ネロに丸投げして、ギャルルの討伐に専念した。
リオルが最初にギャルルへ発砲した場所から西へ数百m離れた所では、ベルシオがギャルル達を細切れにしていた。
地面には無数のギャルルの死骸が、木々の間を縫う道のように連なっていた。
ベルシオの能力は『糸』。ベルシオが扱う糸は鋼鉄でできており、自身のプロセフィを纏わせることで強度や長さは自由に変えられる。ベルシオは常に五、六個の予備を持っている。
(皆とかなり離れてしまった・・・・。まぁ、もう終わったし、すぐ戻れば問題ないか)
ベルシオは糸を自身の体と周りの樹に巻きつけて浮き、自分が細切れにしたギャルルの死骸を辿って、最初の場所へと戻っていった。
―少し時を遡り
最初にギャルルと対峙した所では、リリアとネロが残って原因を探しつつギャルルを討伐していた。
因みにリオルは二発発砲した後、両手に拳銃を持ってギャルルの討伐に南東へ走って行った。
「ネロ、ギャルル以外に何かいないか?」
リリアはネロの援護とギャルルの討伐を同時に行いながら、ネロはギャルルの討伐を並行して、原因となるものを探していた。
因みにネロの戦闘スタイルは、自身の運動能力を活かした剣術と体術を合わせたものだ。
「今のところ何もいません。透明になれるギャルルとかもいません。
ネロはギャルルをロングソードで斬ったり、蹴り飛ばしたりしながらリリアの問いに答えた。
「透明化は時間が経てば勝手に切れるのか、何かが解除した直後に逃亡したのか、のどちらかの可能性が高そうだな」
「そうですね。・・・・後者の場合、僕が気付けなかったということになるので、後者でないことを祈りますが」
リリア達がそんな会話をしている間にもギャルルの数はどんどんと減っていき、遂にギャルルは見える範囲にはいなくなった。
「終わったな。皆が戻ってくるのを待つか」
「そうですね。・・・・迷子になってないといいですが」
そんなことを話していると直ぐにスノールとヒメリアが戻ってきた。次にクロルとルカが、その次にエリスが戻ってきた。暫くしてリオルとルイス、レトアは別々の方向からほぼ同じタイミングで戻ってきた。
「あと戻ってきてないのはベルシオか。あいつ何処まで行ったんだ?」
リオルが呟く。
既にリオル達が戻ってきてから数分経ったがベルシオはまだ戻ってきていないのだ。
「ベルシオさん遅いですね〜。ベルシオさんの所にはまだギャルルが残ってるんですかね~」
「それはないと思うわ、ヒメリア。ベルシオがギャルルごときに後れを取るとは思えないし、ベルシオが戻ってくるのが遅いのはいつものことよ。彼奴はかなりマイペースだから。」
「まぁ、確かにベルシオさんはマイペースですよね~。スノールはベルシオさんのことを結構知っているようですけど、一緒に仕事をしたことがあるんですか~?」
「何度かあるわ。途中で別れることがあると合流出来るのが数分遅れるから、ベルシオと一緒に仕事をする際は常に本を持ち歩くようにしているわ。ヒメリアは今日が初めてなの?」
「はい~」
ヒメリアとスノールが会話をしていても、ベルシオは戻ってこない。
(それにしても遅いわね。いつもならもう戻ってきていてもおかしくないのに)
スノールがそう思うほどにベルシオはなかなか戻ってこない。
「・・・・お前たちは何か怪しいものとかは見なかったか?」
リリアはなかなかベルシオが戻ってこないので、今いるメンバーに先に質問することにした。
「ネロは何も見なかったのか?お前が見つけてると思ったんだけどなぁ。俺は見てないぞ」
リリアの質問に真っ先に答えたのはルイスだ。
「俺も見てな~い。まぁ、あったとしても爆発で吹き飛ばしてるだろうけど」
リオルの本末転倒な答えに一瞬皆が固まった。が、皆スルーして報告を続ける。
「私も特には」
「私も見なかったわ」
「私も見てないです~」
「僕らも見てない」
「・・・・・・・・私も」
どうやら誰も見ていないらしい。
「そうか。ベルシオも何も見てないようなら全員で周辺を捜索することになるな」
リリアがそう言った直後、
「きゃー」
ヒメリアが悲鳴を上げた。
ヒメリアの悲鳴で、リリアの方を向いていた隊員達は一斉にヒメリアの方を見た。
敵が出向いてきたのかとヒメリアの方を向いた隊員達が見たのは、ベルシオがヒメリアの左肩に手を置いた姿だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・何かあった?」
長い静寂の後、隊員達の視線がベルシオに集中し、何かを長考したベルシオはポツリとそう言った。
一つ言い忘れていたが、ベルシオもレトア程ではないが、気配がとても薄いため気付かれにくい。
「何かあった?じゃねぇんだよ!お前が戻るのを待ってたんだよ!」
ベルシオの言葉にリオルがキレ気味にツッコんだ。
「そうですよ〜!皆待ってたんです〜!それからいきなり後ろに立たないで下さい〜。私気配を察知するのすごく苦手なんですから〜」
ヒメリアもリオルの言葉に追随して早口に文句を言った。
「・・・・・・・・ごめん」
ベルシオは、どうやら自分が原因だとわかるとリオルとヒメリアに謝った。
「ベルシオ、お前にしては戻るのが遅かったが、それは何故だ?」
リリアは、リオルとヒメリアを一旦放置してベルシオに質問した。
「・・・・・・・・理由は・・・・・・・・・・・・変なもの?があった?・・・・から・・・・・・・・」
ベルシオは長考し、少しずつ答える。断定出来なかったのか疑問形だ。
「何か見つけたのか?」
ベルシオの言葉にリリアを含め、皆が驚いた。
「・・・・うん。・・・・・・・・戻ってくる最中に見つけて・・・・・・・・よくわからなかったから・・・・・どうしようかなって」
「そうか。とりあえずそこに向かう。ベルシオ、案内してくれ」
「うん」
それから3番隊の面々は、ベルシオが見つけたという何かの所に向かって行った。
ベルシオは数分無言で歩き続け、始めの所から約400m程離れた所で立ち止まった。
「これ」
ベルシオが指差した先にあったのは、一辺約80cmの正方形の形ができた地面だ。その正方形がある場所以外は灰色の草が伸びており、遠くから見ただけでは絶対に見つけられないだろう。だが、見つけてしまえば此処に何かありますと主張している様なものだ。
「確かに不自然だな。ここだけ草が生えていないのは」
リリアは不自然に存在する正方形を見て考え込む。ここまで主張されると何かしらの罠がある可能性だってある。
「掘り起こしたら何か出るかもな」
「掘らない方が良いと思いますよ〜、ルカさ〜ん」
「今んところ怪しいのはこれだけだろ?こんなに怪しいのを調べない手はないしな。それに、本当はヒメリアも気になってるだろ?」
「そうですけど〜」
どうやらヒメリアもルカを止めはしたが、本音を言うとかなり気になっていたようだ。
「おい、土の下になんか硬いのがあるぞ。少し土を退かせば何があるか分かんじゃねぇの?」
ルカはいつの間にか拾ってきた木の枝を地面に突き刺してそう言う。
「・・・・単細胞が」
ルカの罠の可能性を考えていない行動にクロルがそう感想を漏らす。
「あ"ぁ?」
それにキレるルカ。
「お前等は少し大人しくしてろっ」
今にも喧嘩を始めそうな2人に、リオルの拳が振り下ろされた。
「・・・・・チッ」/「っ痛」
リオルの拳骨を食らった2人は、思いっきりリオルを睨んだ。だが、リオルは気にしていない。
一方で、リリアとヒメリアはクロルとルカを放置して話していた。
「隊長掘っていいいんですか〜?」
「あぁ。罠のことも考えてお前の花で掘ってくれ」
リリアが許可すると、ヒメリアは花を生み出し、器用に花の葉の部分を使って土を退けた。
しばらくして、全ての土を退かし終わった。
土の下に隠れていたのは、金色の長髪に真っ白な服の少女と、それを囲むように緋色のゼラニウムが咲いている絵が刻まれた“何か”だ。
「何だこれ?」
「何なんでしょう〜?リオルさんはわかりますか〜?」
「わかんねぇ」
3人が首を傾げていると、顎に手を当てて考え込んでいたエリスが答えた。
「これは恐らく、地下への扉でしょう。隊長もそう思いませんか?」
「あぁ。聖女が描かれている時点で地下への扉で確定だと思うぞ」
リリアは、どうやらエリスと同じ結論を出していたらしい。
「地下への扉・・・・。何故エリスは地下への扉だと分かったの?」
「そうだな、隊長が分かるのは良いが、お前が分かるのは納得できないな」
スノールが疑問をぶつけると、追随するようにリオルもエリスに失礼な発言をする。
「お前達は相変わらず失礼ですね。以前、アルフィアの森について書かれた本を読んだことがあるんですよ。だから知っているんです。お前達と違ってね」
エリスは額に青筋を浮かべ、殺気を放って言い返した。
エリスの殺気は凄まじく、ヒメリア達No.7以下の者は冷や汗が出ている。ヒメリアに至っては少し震えている。
「全くお前達は・・・・。今は仕事の最中なんだぞ。喧嘩は後にしてくれ」
リリアは額を抑え、呆れている。
「「「・・・・・・・・」」」
3人は顔を見合わせる。
この3人は些細なことで度々口喧嘩を始めるのだ。稀に口喧嘩で収まらず、能力を使った喧嘩になることもあるため、リリアは結構苦労している。3人は歳は離れているが、同期故の気軽さがあるためか、似た者同士故か、訓練校に通っていた頃から3人が揃うと何かと問題を起こすことが多々あったのだ。そんな3人が同じ隊に所属している時点で問題が起きないはずはないんだが、リリアには少し従順な面があり、かなりまともになってきてはいた。一応。
「お前達、さっさと地下に行くぞ」
リオル達3人が黙るのを確認すると、リリアはそう声を掛けた。
「地下に行くと言いますが、どうやって扉を開けるんですか?取手のようなものはありませんよ?」
ネロが言うように、地下への扉には取手などの扉を開けるためのものが一切ないのだ。
「こうして開けるんだ」
そう言うとリリアは、扉に自身のプロセフィを巡らせた。やがて、扉に込められたリリアのプロセフィは、扉に刻まれた緋色のゼラニウムを地面に描き出した。全てが描き終わると、何かが地面から出てきた。出てきたものは一辺8mで縦2.5mの長方形の箱だ。
「えーっと、これはレーヴェンですか?」
そうリリアに聞いてきたのはネロだ。
レーヴェン:プロセフィが利用された秒速30mの速さで動いても、中の人に全く影響が出ないエレベーター。
「そうだ」
リリアは真面目にそう答えた。
「地下への扉ってさっき言いませんでした?」
またネロがリリアに聞く。
「言ったぞ」
リリアはまた真面目にそう答えた。
「扉じゃなくてレーヴェンですよね?」
またネロがリリアに聞く。
「扉でレーヴェンだ」
リリアはまた真面目にそう答えた。
「何故レーヴェンが扉と呼ばれているのですか〜?」
リリアとネロの会話を聞いていたヒメリアがそう聞いてくる。
「昔は地下に入るための扉として存在し、地下へは梯子を降りていくようだったんだが、技術が発展したことで梯子を撤去し、レーヴェンが設置されたからだ」
リリアがそう説明する。
「にしても、元のサイズよりデカいのは何故だ?」
リオルがそう聞く。
確かに、元は一辺80cmの正方形だったものから一辺8mの正方形のものに変われば、誰でも不思議に思うだろう。
「それは確か、扉のサイズが一辺80cmだったのですが、技術の発展により作られたレーヴェンがそれより大きかったからです。それに、レーヴェンを扉がある所に設置しようとすれば、必然的に大きさの問題が出てきます。その解決策として、プロセフィで大きさを自在に変えられ、中にもその影響を与えられる造りにした、ということらしいです」
エリスがそう説明した。
「なるほどねぇ」
「話してばかりいないで、そろそろ地下に行くぞ。」
「「「「はーい」」」」
こうして3番隊の面々は地下へと降りていくのだった。