第32話 真・配下集合!②
「遅れて申し訳ありませんでした」
アルマが雑居ビルのフロアで涼しげにたたずんでいた。
どうしてこんな場所にいるのかボクが困惑していると、彼女が先にたずねてくる。
「なにやら騒がしいですが……。みそらさま、あのモンスターはいったい……?」
「あ、ああ、剥製だよ」
「剥製、ですか……?」
アルマは首をかたげ、ボクとミコトちゃんにそれぞれ視線をやった。
どこまでたずねていいか迷っているようだ。
「……ボクが魔王さまだってミコトちゃんに明かしたよ」
「さようでございますか。……では、あの剥製たちは魔王さまの術によるものなのですね。
新たなトゥでしょうか」
「うん、666の葬送」
「そうですか……わたしのいないところで新たなトゥを。
……わたしのいないところで別のトゥを」
アルマは不満げに目を細めた。
厄介ファンみたいな反応を……。
「じー」
「アルマ?」
「じーーーーーーーー」
アルマは、ボクとミコトちゃんが手を繋いでいたのを気にしたようだ。
瞳は口ほどにものを言うとは本当のようで、『第三夫人確定でございますか』『小学生ですよ?』『しょーーがくっせーーですよ?』とヒシヒシと伝わってくるね……。
大鎌でボクの腕を切り落としかねなかったので、ゆっくりと手を離した。
「ミコトちゃんは、えっと……」
ボクが視線をやると、ミコトちゃんは愛想よく答えた。
「ミコト、トラベラーなのー。おにーさんに力を貸しているんだー」
「トラベラー、ですか? なるほど……」
アルマの中で、ミコトちゃんの能力が利になると考えたようだ。
あるいは魔王が少女を利用しているのと考えたのかもしれない。
「ところで、アルマはどうしてここに?」
「愛の力です」
「いやどうやってここに――」
「愛の力で危機を察して、探しにまいりました」
「……そう。うん。信じていたよ」
スマホのGPS反応でも消えたのかな?
愛の力と言いきるアルマはすごいなあ。
愛がなければできない芸当ではあるし、料理は愛情みたいなものかなあ……。
「探しにきた廃工場では、密売人らしき連中がたむろしているご様子。
侵入経路を調べておりますと、次元の裂け目が近場の森にございました。
もしや廃工場に繋がっているのではと考えて、ダンジョン内から侵入しておりました」
「本当に察しがいいね。どこかに連絡した?」
「管理局への連絡はまだひかえております。必要ですか?」
「まだ必要ないよ」
さっきまでは助けが欲しかったけど、今は事情が変わったしね。
剥製モンスターのターゲットをあの連中に絞っていてよかったよ。まあアルマなら切り抜けられそうだが。
って、剥製たちの援護だ!
奴らに逃げられてしまう!
「アルマ、その森に繋がっている次元の裂け目はどこに?」
「雑居ビルの屋上にございますが、今は向かわないほうがよろしいかと」
なんでとボクがたずねる前に、ズキューンッと光線が放たれるような音がした。
ついでに、男たちの叫びが屋上から聞こえてくる。
「…………もしかして、クスノさんも来ているの?」
「魔王さまの尻尾を掴めないかと、わたしをここ数日尾行していたようですね。
今はあの連中が密売人とわかるやいなや、次元の裂け目で逃げられないよう監視しております。
ふふっ……彼女は光の人間にしてはやりますね」
当たり前のように尾行をする人間は、はたして光の人間なのか。
それでもクスノさんは良い人だ。
基本、良い人なんだ……。
しかし外で彼女が監視しているなら、この恰好で出るわけにもいかないか。
闇魔術でそれっぽく着飾るのは好きじゃないけれど、どーするか。
ボクが頭をかいていると、アルマがすっと近づいた。
「魔王さま、お召しものも持ってきております」
※※※
頭の角に、重厚なローブ。
妖しげな光を放つ、各種アクセサリー。
アルマにここまでの事情を説明しながら、ボクは魔王衣装に着替えた。
まだ化粧はしていなくて、伊達メガネはそのままだが。
「うん、アルマが用意してくれた衣装はやっぱりいいね」
「お褒めにいただき、光栄です」
アルマはうやうやしく頭を下げた。
闇の炎を最低火力で放ち、スキル操作で服っぽく纏うことはできるけれど、ぜんぜん服の質感じゃないんだよなあ。炎の服もありかもしれないが、ボクの魔王像は古き良き魔王スタイルなんだよね。
それに、アルマが用意した衣装はすごくしっくりくるんだ。
あとは化粧だけかと思っていたら、彼女は仮面を差しだしてきた。
「仮面……?」
「本来であればこの仮面は祭典で使うものでしたが……。
化粧をほどこす時間を考慮しまして……ご用いたしました」
表情を隠してしまう冷たい仮面は、どこか見覚えがある。
ボクがつかむと、仮面がおどろくほど手に吸いついた。
そう、錯覚した。
「……魔王さまのここしばらくの状況を考えれば、早くお渡しするべきだったのですが」
「いや、渡さなくてよかったよ」
「よかったのですか?」
「こだわりは大事だ」
魔王になりきるからにはなりきりをこだわる。
一人でコソコソ遊んでいたときから、それは変わらない。
ヴァレンシア戦時の【666の軍勢】だって、よほどがなければ唱えようとはしなかったぐらいだし。
とまあ仮面は緊急用かな。
伊達メガネを外して、顔につける。
「……そういえば、アルマはボクが標準世界で魔術を使ったのに驚かないね」
「魔王さまですから。それがなにか?」
アルマは、いずれこの日がくるとわかりきっていたかのように答える。
前世信奉もここまでくると筋金入りだ。
いやそもそも『この世界ではまだ力が使えない』と言ったのはボクか。
「ううん、なにも」
仮面のおかげで視界が狭まった。
世界と自分を大きく隔てたような感覚に、思考が冴えわたってくる。
剥製モンスターたちを援護してもよいが、それで終わらせるのもな。
どうせなら魔王らしくやってみるか?
……たしかトラベラーが仲間を引きつれて、ダンジョンから他のダンジョンに移動する動画を見たことがある。
あれもたしか、情報共有系スキルを使っていたか。
仲間内で視界を共有すれば、可能な芸当なのだろう。
「うむ……面白い余興を思いついたぞ」
いかにも魔王っぽい台詞にほくそ笑む。
アルマは実に配下らしく、ボクの言葉を静かに待っていた。
と、その前にミコトちゃんに視線をやる。
「……いーよ。おにーさんのためにミコトがんばるー」
これから火遊びをするかもしれないのに、少女はなにも聞かずクスクスと悪戯めいて笑う。
このへんの性格は治らないだろうし、治さなくてもいいと思う。
「ありがとう、それじゃあこれで姿を隠しておいて」
闇の炎を最低火力に、そしてスキル【正体隠し】の効果を付与しておく。
帽子付きの大きなケープとして、ミコトちゃんにフワリとかぶせてあげた。
「ちょっと温いし、あくまで疑似だから着心地は悪いと思うけれど……」
ボクが申し訳なさそうに言うと、ミコトちゃんは微笑んだ。
「……みそらおにーさんの温もりを感じるー」
よかった大丈夫みたいだ。
いや本当に大丈夫なのか????
大人びた表情をする少女だけれど、いつもの現実をはりつけたような乾いた表情じゃなくて、小学生らしからぬ妖艶な表情をしていない??????
大丈夫……か?
ま、まあ、大丈夫。大丈夫さ。
コホンッと咳払いして、アルマに伝える。
「アルマ。園井田クスノに回線を繋げ。そのあとで配信をはじめるぞ」
「――かしこまりました、魔王ガイデルさま」
アルマはステータス画面をひらく。
すぐに回線チャンネルからクスノさんが繋げてきた。
『甘城アルマーー‼‼‼ いい加減、管理局に連絡はすんだでしょう⁉
早くこっちを手伝いなさいって……あーーーーー! その服は、魔王ーーーーーー!』
ぷりぷりと怒り顔のクスノさんが画面に映っていた。
『やっぱり、この騒動は魔王のしわざなのね!
自分の縄張りを荒らす密売人が邪魔だから片付けに来た! そうなのでしょ‼‼‼』
「否定はせぬ」
『おのれ魔王ーーー! 今度はあたしになにをやらせるつもりなの⁉⁉⁉』
「お前にとっても悪い話ではないがな。園井田クスノ――」
ボクは面白い余興をクスノさんに伝える。
別になにも残酷なことをしようって話ではない。
魔王さまの名をちょっーーーとばかし世間に轟かせるだけだ。
『――あたしに魔王の片棒を担げと?』
「お前は我の配下だ。それを忘れるでない」
『くっ……おのれ魔王ガイデル‼‼‼
ぜったいに、ぜーーーったいに、あなたの尻尾を掴んでみせるわ!』
なおもプリプリ怒っているクスノさん。
ですが、クスノさん。
あなた今、うっすらと暗黒めいて笑っていませんか…………?
…………考えたくないことは考えないでおこう。
さあ、魔王軍の行進のはじまりだ。
魔王軍は配下たちがのびのびしすぎている、アットホームな軍です。




