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温泉ツーリング同好会へようこそ 2nd  作者: 秋山如雪
第1章 小さなレーサー
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6湯目 カノン砲

 無事に、草津温泉の日帰り温泉には着いたが。


「大丈夫か、瑠美。随分遅かったが」

 心配そうに声をかけるまどか先輩に、私は立ちゴケしたことと、湿布を買ってきたため、送れた旨を説明。


 しかし、花音ちゃんは、

「立ちゴケとは、情けないですね。しかも先輩、そんなめっちゃ速そうなバイクに乗ってるのに、『宝の持ち腐れ』じゃないですか」

 無愛想な表情のまま、シニカルに、突っ込みを入れてきた。


 さすがにまどか先輩が、

「おい、そんな言い方はないだろ」

 と注意しにかかるが、私が手で制していた。


「いいんですよ、まどか先輩」

「しかしな」


 手で制した上で、私は改めて小さな後輩を見た。彼女に少し興味が湧いていたからだ。

「花音ちゃんは、速いね。やっぱり小さい頃から、ポケバイやってたからかな」

「まあ。でも、実は公道で走るのはちょっと苦手なんですけどね」


「そうなの? 意外」

「ええ。だって、普段はレース場で走ってますからね。当然、信号機なんてないんです。信号機もあり、人も車も飛び出してくるかもしれない。下道は特に苦手ですね」

 日帰り温泉施設に入って、風呂場に行く道すがら、私は彼女と並んで会話を続けた。


「それに、公道で違反したら、レース出場にも影響が出ます」

 そう言ってる割には、彼女は公道でかなりのスピードを出していたが。


 ただ、きっと、花音ちゃんは、「不器用な」だけで、そう悪い子ではない。そういう思いが私の中で、浮かんできたし、彼女を改めて勧誘したいと思い始めていた。


 まどか先輩は、そんな私に、特に何も言おうとはしなかったが。


 日帰り温泉施設は、ラウンジカフェやレストラン、広い無料休憩所まである、オシャレで綺麗な施設だった。


 早速、その温泉に入ってみる。脱衣所から外に出ると。


 不思議なことに、小さな浴槽が4つ並んでいた。


 ここ、草津温泉では、古くから「合わせ湯」という伝統的な入浴方法が伝わっているらしい。


 つまり、温泉の豊かな成分を水で薄めることなく、自然冷却して適温になるように、源泉が浴槽を順々に巡っているため、その順番に入って行くというものだ。


 ぬる湯から少しずつ体を慣らすという意味もあるらしい。


 一通り、この合わせ湯を終えて、大浴場、そして露天風呂に出る。


 この日、温泉博士の琴葉先輩はいなかったが、私にもわかるほど、ここの温泉は特徴的だった。


 恐らく酸性が強いのだろう。少し肌がピリピリするようなお湯で、しかもなかなかの熱さを持っている。


 3人で並びながらも、まどか先輩は、私の左足のことを心配してくれたが。

「大丈夫ですよ。骨までは行ってません。帰った後に、念のために、病院に行きますよ」

 私は軽く流しつつ、まどか先輩に彼女のことを聞いてみる。


「それで、まどか先輩、花音ちゃんはどうでしたか?」

「どうって?」


「走りとか、バイクに対する情熱とか?」

「ああ。まあ、確かにこいつは速いな。今まで、ウチの同好会にはいなかったタイプだ。『カノン砲』ってところだろう」


「カノン砲?」

「知らんのか。大砲の一種だよ。長射程で、初速が速いと言われている。つまり、長距離走れて、加速が速いこいつにはピッタリのあだ名だろ?」


「いや、変なあだ名つけないで下さい」

 さすがに、女の子に「大砲」のあだ名はないだろう。花音ちゃんは、明らかに嫌そうな顔をしていた。

 同時に、まどか先輩は相変わらず男の子みたいに、妙にミリタリーに詳しい。


「それで、花音ちゃんは? 楽しかった? 温泉ツーリング同好会、どうかなぁ?」

 私は、出来るだけ優しい声で、彼女を試すように質問を投げかけたが。


 一拍置いて、少し考え込んでいた彼女が、おもむろに口を開いた。

「まあ、温泉はともかく、色んなところに行けるってのは面白いかもですね。それに、一応、間接的とはいえ、私が先輩の立ちゴケの原因にもなったみたいですし……」

 なるほど。律儀にも責任を感じているらしい。


 とっつきにくそうな子だが、そこまで性格が悪いわけでもなさそうで、私は安心していた。

「じゃあ」

「仕方ないですね。体験入部ということで、仮で入ります」


「ホントに! 良かった!」

「よし、さすがカノン砲!」

「だから、カノン砲はやめて下さいって!」


「あはは!」

 露天風呂に三人の笑い声が満ちていた。

 一見すると、どこかとっつきにくそうな、シニカルな子だが、少しでも距離は縮めたい。


 そう思った私は、

「先輩、じゃ誰かわからないから名前で呼んで」

 と要求すると、


「じゃあ。えーと。る、瑠美先輩」

 照れながら、伏し目がちに申し訳なさそうに告げる彼女が、少し可愛らしく見えた。こういうのに慣れていないところが、初々しい。


 さらに、帰り際、石段で猫を見つけた彼女が、その猫に気を取られ、おもむろに猫の方に歩いて、しゃがみ込み、ゆっくりと手を伸ばしていた。

 しかも、その猫はおびえるどころか、彼女になついてしまう。その猫の頭を撫でる彼女が、今まで見たことがないくらいの満面の笑みを浮かべていた。


「猫、好きなの?」

 少しだけ意外な一面だった。


「ええ、まあ」

 照れ笑いを浮かべる小さな花音ちゃんは、可愛らしかった。動物好きに悪い人間はいないという。


 一見すると、とっつきにくいし、不愛想で、交通ルールも守らないところがある。

 おそらく、真面目な琴葉先輩辺りは嫌がりそうだけど、フィオあたりは喜びそうだ。

 ただ、この子は、シニカルだけど、根は優しいというか、素直な部分もある。

 何より、この小さくて、可愛らしい、猫のような小動物系の容姿が、私の感性を刺激していた。


 こうして、ポケバイ経験者のレーサー志望、小さな「カノン砲」こと、夜叉神花音が加入する。

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