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温泉ツーリング同好会へようこそ 2nd  作者: 秋山如雪
第1章 小さなレーサー
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5湯目 アクシデント

 結局、4月中は誰一人として、この「温泉ツーリング同好会」に入部する、いや入会する生徒は現れなかった。


 そして、残る有望株の1年生、夜叉神花音だけが、「希望の星」になる中、彼女を実際に見た私とまどか先輩が、部室で残りの2人に説明すると。


「それは、楽しみだネ! 速そうな子ネ!」

 自分と同じような、「スピード狂」に近い人材が入ってくるであろうことに期待を寄せて、喜びを体現するフィオに対し、


「わたしとは、合わなそうだわ」

 交通法規の鬼でもあり、警察官の娘でもある琴葉先輩は、早くも不穏な空気を漂わせていた。


 だが、まどか先輩は、

「まあ、入るかどうかは、ある意味、瑠美次第だろう」

 と私に振ってくる。


「私次第って言われても……」

 困惑するも、まどか先輩は相変わらずだった。


「まあ、なるようになるだろ」

 放任主義というか、適当というか、大雑把すぎる。


 そして、ゴールデンウィークを過ぎて、1週間ほど経った5月中旬。

―免許を取って、納車もしました―


 彼女、花音ちゃんから私宛てにLINEが来た。わざわざ律儀な子だと思った。こんな口約束なんて、別に破ってもおかしくはないはずなのに、わざわざ報告してくるとは。まあ、「悪い子」ではなさそうだと思いつつ、すぐにまどか先輩に報告。


 放課後、早速彼女を部室に呼んで、開口一番、まどか先輩は、

「じゃあ、次の日曜日。草津に行くぞ」

 と一方的に決めてしまう。ちなみに、その日も琴葉先輩とフィオは不在だった。


「いきなりですね。まあ、いいですけど」

 渋々ながらも頷く彼女に、


「ところで、バイクは何を選んだんだ?」

 まどか先輩は、そっちの方が気になるらしい。


「ホンダ CBR250RRですけど」

「おお、CBRか! いいチョイスだな!」


「はあ、まあ」

 どうも、大袈裟なリアクションをするまどか先輩とは正反対に、冷静な1年生は戸惑っている様子だった。


 そして、あっという間に日曜日。

 あいにく、天気は曇り空。雨が降りそうな天候だった。


 朝の7時に、塩山駅前のコンビニで待ち合わせ。

 私は、いつものように、ライダースジャケットを着て、KTM 390 デュークに乗って行ったが。


 いかにも速そうな、レーシングスタイルのカウルのついた、小型バイクがすでにコンビニ駐車場に停まっていた。


 全身の上部分が赤、下部分が白を基調としたデザイン。カウル下に「CBR」、エンジンの下に大きく「HONDA」と書かれてある。

 リアキャリアなどは装備しておらず、無駄を排した徹底的にレーシーなスタイル。

 その傍らに、ショートボブの少女が立って、左手にプラスチックのカフェラテのドリンクを持っていた。


「おはようございます」

 軽く会釈をして、挨拶をするが、相変わらず表情が変わらない、不愛想な子だと私は思うのだが。


「おはよう」

 軽く挨拶をして、世間話をしているうちに、まどか先輩が、SR400に乗ってやって来た。


「おお、CBRか! こいつ、最高出力は?」

「42PSですね」


「250ccなのにすげえな。瑠美のデュークと変わらないんじゃないか?」

「私のは44PSです」


 この辺りの排気量だの、最高出力だのに、私自身は全然こだわりがないのだが、花音ちゃんやまどか先輩は違うらしい。


 ちなみに、よく聞いてみると、4月5日が誕生日の花音ちゃんは、誕生日後すぐに原付免許を取得し、その前から自動車教習所に通って普通二輪免許を4月中に取得し、もう納車されたという。


 筋金入りのバイク好きだった。


 なお、琴葉先輩はその日、塾の模擬テストを受けており不在。フィオは急きょ、家の手伝いで、やはり不在だった。


「んじゃ、目的地は草津のこの日帰り温泉だ。金がないから、基本下道でな。今回は、各自で進め」

 まどか先輩は、携帯の地図アプリから目的地を指で示しただけだった。


 珍しい組み合わせで連れ立つ割には、今回は「勝手に行け」というルールだった。

 そして、このルールが、私には不利になる。


―グォオオーン!―


 いざ出発から、いきなり高回転で回し、一気に加速していたのは、新入生の花音ちゃんだった。

 白いフルフェイスヘルメットがあっという間に視界の外に離れていく。


 それを慌てて追うように続く、まどか先輩だったが、排気量では勝っていても、出力が違いすぎて全然追いつけていない。


 というか、あれは本当に250ccのバイクか、というくらいにCBR250RRは速かった。後で知ったことだがらCBR250RRは、250ccの割には、13000回転まで回るらしい。


(追いつけない!)

 一応、私が乗るKTM390 デュークも、出力指数では負けてないはず。というより同程度のはずだが、私の技量不足というのもあり、全然追いつけていなかった。


 ルートとしては、下道で山梨県甲州市から、群馬県の草津温泉なので、甲州街道(国道20号)を走り、国道141号で山を越えて、長野県佐久地方に入り、軽井沢経由で、国道146号、国道292号というコースで、それでも4時間以上はかかる。


 私は、いつも通り、のんびり行くつもりだったが。


 あまりにも引き離されるのが何だか悔しくて、ついつい、いつも以上にペースを上げて走っていた。

 出発から1時間半くらい。国道141号を走っていた時だ。


 いつもとは違うペースの私が、交差点を駆け抜けようとして、向かって右側の田舎の農道から出てきた軽トラックと、接触しそうになり、慌ててハンドルを左に切ったら。


 その勢いでバランスを崩して転倒していた。


―いたたっ―

 

 転倒した際に足をぶつけており、左足のくるぶし付近から鈍い痛みが走っていた。


 幸い、交通量は少なく、二次被害を及ぼすことはなかったが、バイク自体は左車線の真ん中で転倒していた。


「大丈夫ですか!」

 咄嗟に、その軽トラに乗っていた50代くらいのおじさんが、車から出てきて、バイクを起こすのを手伝ってくれた。


「ありがとうございます。大丈夫です。勝手に転倒しただけで、接触はしてません」

 向こうもそれはわかっているだろうが、一応告げるも、


「でも、君。足をぶつけたでしょ。病院に行った方がいいよ」

 おじさんは、鋭く私の左足に着目していた。


 ちゃんと見ていたらしい。

 この辺りは、さすがというべきか。


 だが、ツーリング途中で、待ち合わせのこともあるため、私はお礼を言って、そのまま先を急ぐことにした。


 バイク自体の損傷はわずかで、足の痛みは最初のうちは、それほど大したことはなかったが、徐々に増していった。

 仕方がないので、休みながら目的地を目指し、途中で、


―すみません。立ちゴケしました―

 と、まどか先輩にLINEを送ると、


―マジか! 無理はするな、瑠美。帰ってもいいんだぞ―

 と、さすがに心配されたが、


―いえ、行きます―

 せっかくここまで来たんだ。


 骨までは行ってないことは、自分でも予想できたため、私は途中のドラッグストアで湿布を買って、貼った後、再び群馬県を目指した。


 結果的には、アクシデントと寄り道で、時間がかかり、草津温泉の日帰り温泉施設に着いた時には、もう午後を回っている時間だった。


 まどか先輩と、花音ちゃんが待っていた。

 一方は心配そうに、一方は呆れ気味な表情で。

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