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温泉ツーリング同好会へようこそ 2nd  作者: 秋山如雪
第6章 美人の湯
28/43

28湯目 山の中の温泉宿

 愛知県で想像を絶する猛暑により、熱中症の一歩手前まで追い込まれた私は、伊勢湾フェリーの船内で、ひたすら横になっていた。


 そのまま1時間あまり。


「着いたわよ、大田さん。起きれる?」

 優しい声で目が醒めると、心配そうに顔を覗き込んでいる琴葉先輩がいた。


「大丈夫です。ありがとうございます」

 その優しさに感謝しつつ起き上がる。


 実際、クーラーが効いた涼しい船内でしばらく横になっていたら、頭痛は止んできており、体調は回復していた。


 改めて熱中症の恐ろしさを知ることになった。


 船を降りてからは、やたらと鳥居の道路標識が増えるようになる。そう、ここは「伊勢国(三重県)」。「お伊勢参り」で有名な伊勢神宮の看板があちこちにある。


 もっとも、私たちはこれからさらに南下して、和歌山県の山の中にある温泉宿を目指すため、立ち寄っている余裕がなかった。


 目指す温泉宿は、和歌山県新宮市にあり、ここから下道で、約3時間15分。距離にして160キロ強はあった。


 フィオや花音ちゃんは「高速道路を使いたい」と主張したが、まだ昼過ぎだったこともあり、節約のため、私たちは下道で南下した。


 途中、適当に昼休憩を取ったが。

 私たちの誰もがこの「三重県」に来たのは初めてかと思いきや、意外にも最年少の花音ちゃんだけは来たことがあるという。


 その話を、ちょうど昼休憩の時に立ち寄った、うどん屋の店内で聞くことになったが。

「鈴鹿サーキットだけですよ」

 彼女の言葉は、短いが、わかりやすかった。


 つまり、彼女の父であるレーサーの桐人さんが「鈴鹿8耐」、鈴鹿8時間耐久レースに出場したことがあり、その関係で娘である彼女は、この三重県に来たことがあるという。


 そして、彼女のオススメという、伊勢うどんを食べることになったのだ。

 初めて食べるそのうどんは、少し変わっていた。


 汁がほとんどないのだ。

 通常、麺類には「汁」が欠かせないし、ラーメンもそばもうどんも、汁があるのが当たり前という常識を覆す代物だった。


 だが、醤油に鰹節といりこ、昆布等の出汁を加えた濃厚な黒いつゆを、太い麺にからめて食べると、非常に柔らかくて、もちもちしている麺が特徴的で、独特の食感を持つものだった。


 関東は、どちらかというと「そば文化」が主流だからわからないが、この食感は、うどんが盛んな「うどん文化」の本場であり、「うどんにはコシが大事」と考える讃岐うどんや五島うどんには受け入れられないと言われるそうだ。


 私としては、十分美味しいと感じるものだった。


 食後、さらに下道を南下する。


 最初は国道260号を走るが、やがて、無料区間の紀勢自動車道や、熊野尾鷲(おわせ)道路を走るため、下道でも実質的に高速道路のようなもので、道中は快適だった。


 いつの間にか、三重県から和歌山県に入っていた。


 そこから、国道42号に入ると、生活道路になり、ダラダラと長い渋滞が続いたが、午後になり、陽射しが傾いてくると、暑さが和らぎ、ようやく走りやすくなる。


 夕方。宿には何もないことを聞いていたので、新宮市中心部のスーパーマーケットで食材を買い込み、私たちは宿へ向かった。


 その宿がまたすごいところにあった。


 完全に「山の中」だった。

 新宮市中心部から熊野川を遡るようにして、山奥に分け入って行き、県道を通る。すでに辺りは暗くなってきていた。


 まるで、人家の灯りがないような山の中を進むと、山の中にぽっかり開けた土地と、数件の民家が見えてきて、その間に、2階建ての小さな建物が見えてきた。


 それが目的の温泉宿だった。


 暗くてよく見えなかったが、私たちはバイクを車の駐車場に停めて、中に入る。


 チェックインを済まして、それぞれの部屋に向かう。

 ここでは、2組に分かれた。


 まどか先輩、琴葉先輩、フィオ。

 そして私と花音ちゃんだ。


 単純に、同級生とそれ以外で分けただけだったようだが、花音ちゃんは、何だか私と一緒で不服そうに見えた。フィオと一緒が良かったと思っているのかもしれない。

「花音ちゃん。一緒の部屋だね」

 しかし私が喜色を浮かべて、彼女に微笑むと、そっぽを向いて、


「そうですね」

 と相変わらず素っ気なかった。こういうところが、猫っぽくて、かえって可愛いと思ってしまうのだが。


 各自、部屋で準備をした後、風呂に入る。


 1階に大浴場があった。


 なお、メンバーの中で、誰もここには来たことがなかったが。

 ここの温泉は素晴らしかった。


 乳白色の色が特徴的で、内湯の他に露天風呂と、薬草風呂まであった。

 泉質はアルカリ性単純泉で、効能は筋肉痛、冷え性、疲労回復など。


 しかも山の中にあるから、都会ではできない、満天の星空を眺めながら、入浴が出来る。


 私たちは、全員で露天風呂に浸かりながら、空を見上げていた。

「綺麗な星空」


Bene(ベーネ)! めちゃくちゃ綺麗な空ネ!」

 私の一言に対し、フィオは相変わらず大袈裟なくらいに、喜びを表現しており、両手を広げて、空に掲げていた。


「ああ。いいところだな。酒でも飲みたくなるぜ」

「飲まないでよ。未成年でしょ」


「わかってらあ」

「まったく」

 まどか先輩と琴葉先輩のやり取りが面白い。というか、まどか先輩が完全に「おっさん」だった。


「……」

 花音ちゃんだけは静かだった。


 気になって私が近づいて声をかける。

「どうしたの? つまらない?」

 しかし、彼女は首を振って、頭に溜め込んでいたような言葉を弾き出すように、発した。


「明日、走るコースについて考えてました」

 この時、元々、この旅の発起人でもある花音ちゃんに、ツーリングコースのほとんどが任されていたからだ。

 ただし、琴葉先輩によって、「龍神温泉」に立ち寄ることだけは厳命されていたが。


「明日は、どこに行くの?」

「山です」


 アバウトすぎる回答に、私は苦笑していた。

「そりゃ、山だろうよ。この辺、山しかねえもんな」

 まどか先輩が突っ込みを入れていた。


「高野龍神スカイラインがメインですが、そこに行くまでに、多くの山を通ります。もっとも、この時期は、暑い下を走るより、山に行った方が快適ですが」

「だろうな。いいんじゃねーか。もうお前に任せるぜ」

 まどか先輩は、相変わらず適当なところがある。


 琴葉先輩は、「美人の湯」と言われる龍神温泉だけは、絶対に行きたいと主張していたが。


 その夜は、夕食後に再び風呂に入り、充実した時を過ごし、長距離を走ったことも相まって、熟眠することが出来るのだった。


 やはりツーリングによる、適度な疲労というのは、睡眠にいい作用に働くものだ、と私は再認識していた。

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