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温泉ツーリング同好会へようこそ 2nd  作者: 秋山如雪
第5章 伊豆半島と温泉
24/43

24湯目 西伊豆スカイライン

 私と花音ちゃんとの、「不思議な二人旅」は続く。


 道の駅伊豆のへそで、不思議な「ロッシ会話」をした後、彼女が先頭に立って、私を導く。はぐれないように一応、次の目的地は聞いていた。


 西天城(あまぎ)高原 牧場の家という場所らしい。

 ナビを見ると、山道を登って、西伊豆スカイラインを通り、約33キロ、40分くらいだった。それほど遠くはない。


 しかも、その西伊豆スカイラインに着くまでの、国道136号のルートでは、彼女は珍しく、「私に気を遣う」ように、スピードを落として、距離を保っていた。


 ところが、やっぱり「花音ちゃんは花音ちゃん」だった。


 山を登り切った後の、県道411号、ここからは通称「西伊豆スカイライン」と呼ばれる道だ。


―グォオオーン!―


 CBR250RRの特徴的な水冷2気筒の音を轟かせ、あっという間に視界の外に消えていた。

 だが、彼女の気持ちもわからなくもなかった。


 山の稜線を走るようなこの道。

 本当に気持ち良かったからだ。


 所々、木々が邪魔をして風景が見えないこともあるが、ある程度進むと、まるで「雲の上」でも走っているかのような、山の上の快走路で、交通量も少ないので、飛ばし放題だった。


 普段は、あまりスピードを出さない私でさえ、スピードを出したくなるような、あまりにも気持ちのいい道。


 しかも、7月下旬という時期が、これを後押しする。


 地上は、具合が悪くなりそうな猛暑の暑さと湿気に包まれていたが、標高が高い、この山の上は、本当に気持ちがよく、清々しい。


 行ったことはないが、北海道の夏のような物だろう、と思われるくらいに猛烈な暑さからは解放される空間。


 途中には、いくつかの展望台があり、ワインディングやアップダウンを繰り返す道だが、土肥とい峠、風見峠、そして仁科(にしな)峠と越えて、あっという間に目的地にたどり着いていた。


 そこは、不思議な場所で、ログハウス風の三角屋根の山小屋のような場所で、喫茶店でもあるらしく、日曜日のこの日、ライダーを中心に賑わっていた。


 花音ちゃんは、その入口付近にバイクを停めて、柵にもたれかかって、携帯を見つめていた。


「お待たせ」

 私が、ヘルメットを脱いで、向かうと、彼女はもう慣れたのか、文句を言うことなく、


「中に入りましょう」

 と私を促してきた。


 どこか北海道の牧場のようなその建物に入る。


 中は、本当にログハウスのようになっており、木目調の内装が美しく、外のベランダ風のスペースもあった。晴れていたその日は、外で食事を摂る客が多く、ほとんど埋まっていたが。


「いらっしゃいませ」

 そこで、店員と向かい合った彼女は、私が見たことがないような反応を示す。


「これはこれは。またいらして下さったのですね、夜叉神様」

「どうも」

 ここの常連客なのか、彼女は。

 そう思えるくらいに、丁寧な態度の店員に、彼女は、


「席、空いてます? 出来れば外がいいですけど」

 遠慮なく、いつものようにぶっきらぼうな口調で告げていた。


 店内を見回したその店員が、ちょうど席を立った、ベランダ席に座っていた、若いカップルの姿を目に止めていた。

「ええ、大丈夫です」


 彼女は、お礼も言わずに、すたすたと外の席に向かって歩き、私は続いた。

 ちょうど、空いたその席に向かい合って座ると、すぐに先程の店員がやって来て、残ったコーヒーカップを片付けて、ついでに水とメニューをテーブルに置いた。


 ひとまず注文を見ると、コーヒーやソフトクリーム、さらにはカレーやうどんなどもあった。


 店員が一度、去り、私はメニューと睨めっこをして、悩んでいると、

「私はコーヒーだけでいいです」

 と花音ちゃんはメニューも見ずに決めていた。


「オススメは?」

「ソフトクリームですかね」


「じゃあ、それで」

 あっさり決まって、私が店員を呼び、二人分の注文をする。


 ようやく一息ついたところで、

「よく来るの?」

 気になっていたことを彼女に尋ねてみた。


「まあ。正確には私の父が、ここの常連客でして。家族でよく来てました。だから店員にも顔を覚えられてるんですね。私は最近までバイクに乗ってなかったですからね」

「なるほど。花音ちゃんのお父さんは、有名なライダーだもんね」


「まあ。ネットを見れば、写真で顔もわかりますし。有名人の娘ということで、色々と面倒なんですけどね」

 と言って、空を見つめていたが、私にしてみれば、羨ましいくらいだった。


 だが、この時、「空を見ていた」彼女の仕草が、後に重要なポイントとなった。

 彼女はその前に、雨雲レーダーを見ていたのだ。


「瑠美先輩」

「ん?」


「これから、一旦下に降りて、温泉に入りに行きます」

「そうなの? この辺にあるんだ?」


「何を言ってるんですか。伊豆半島なんて、『温泉の宝庫』ですよ」

 言われてみれば、熱海に伊東、修善寺しゅぜんじなど温泉のイメージが強いこの伊豆半島だが、その温泉の場所は、どちらかというと、伊豆半島の「東側」に多いイメージだった。逆にこの西伊豆にはあまり温泉があるというイメージがない。


「何だか、雨が降りそうですからね。ちゃっちゃと入って帰りましょう」

 そう言って、再び空に視線を走らせる彼女につられて、私も空を見上げたが。


 綺麗な入道雲が空一杯にかかり、いかにも夏の空、という感じのよく晴れた、ただの「夏空」にしか見えなかった。

 この状態の一体どこに雨の気配があるのだろうか。


 花音ちゃんは、私に言わせると、どこか「不思議な」ところがある、女の子だった。

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