猫の唄
稚拙な表現ですが、ぜひ最後まで読んでみてください。
カオリさん
私は、また、この町に来ました
いつも潮のにおいがするこの町に帰ってくると、決まってあなたのことを思い出します
本当は思い出したくもないことですが、風が思い出を呼び起こしてしまうのです
カオリさん
あなたの温かな手を今でも思い出します
短く切った小指の爪が少しだけ黄色い色をしていたのを私は今も懐かしく思います
春のほのぼのとした日差しのような、言い換えるならば、秋に食べるふわふわの焼き芋のような、温かさでまた、優しくなでてくれませんか
カオリさん
あなたの手料理がまた食べたいです
少し焦げた焼き魚は、苦いけれども、それがどれだけ高級なレストランの物よりもおいしかったのです
できれば、あなたの作ったサンマを食べたいです
高いのは分かってはいるんです
でも、あなたといると思わず甘えてしまうのです
カオリさん
あなたは私をよく海に連れて行ってくれました
真っ赤なオープンカーに乗って、どこか遠い国の優しいギターの音楽をかけて、よく出かけましたね
もっとも海には入りませんでしたが、沈みゆくオレンジ色の太陽という星を見ていると、胸をきゅっとしめられたような切ない気分になったものです
今はもう車もなく、あの星を見ることができないのです
カオリさん
最後にあなたが私に言った言葉を覚えていますか
あなたはとても強く、崩れやすい言葉を私にくれました
それを知らなかった私は美しい物をみたように感動してしまったのです
そしてあの言葉は今も私の胸をとらえて離してはくれません
「大切に生きろ」
と言ってくれましたよね
カオリさん
あなたはどこに行ってしまったのでしょうか
あなたが最後に海に飛び込んでしまってから私はあなたがどこにいるのか分かりません
あなたが崖から落ちていくのは、石が落ちていくのと同じ雰囲気でした
そう感じてしまった私を許してくれませんか
だからどこに行ったか返事をください
カオリさん
私はあなたを恨んでいます
「大切に生きろ」
そう言ってくれたあなたは大切に生きましたか
そう言ってくれたあなたは笑顔で生きましたか
私にだけ「死」という呪縛を残して消えてしまわないでください
生きていてください
やっぱりあなたのことが世界の何よりも好きなのです
カオリさん
許してください
愛してください
その声を聴かせてください
もう一度
たったもう一度でいいですから
カオリさん
生きていてください
あなたがいること
それが私の生きがいだったのです
カオリさん
それでもやはり私は生きます
大切なあなたを忘れぬために
本当はいつも隣にいてほしいです
支えて、笑って、泣いて、一緒に暮らしてほしいです
生きてほしいんです
だから私は生きます
「大切に生きろ」
あなたに言われ
あなたに言うために
私はこの道を歩いていきます
今度は私がそばにいます
ずっとそばにいます
苦しいことがあっても私がそばにいます
だから
どうか生きてください