トイレの花子さん
どこの学校でもよく聞く都市伝説。
放課後の3階の女子トイレ手前から3番目の個室。
3回ノックをして「はーなーこさーん、あーそびーましょー」というと、
「はーあーいー」と返事が返ってくる。
地域によっては子供と遊ぶ良い幽霊だったり、子供の命を奪う悪い幽霊だったりする。
それが「トイレの花子さん」
「コン、コン、コン」
「はーなーこさーん、あーそびーましょー」
みんな半信半疑で、震えながら声を出す。
「はーあーいー...」
最近学校でトイレの花子さんが有名になっている。
なんでも、あの都市伝説を試した女の子がいたらしい。
3階の女子トイレ手前から3番目の個室にノックをして花子さんを呼ぶと、
個室の中から「はーあーいー」と声が聞こえて来たらしい。
だが、怖くなってすぐ逃げ出したようで、花子さんの姿は見ていないらしい。
その噂は瞬く間に学校中に広まっていた。
中には今日の放課後確かめに行こうという連中も出始めた。
だいたい、花子さんに会えたとして何をやるっていうんだ?
諸説あるみたいだけど大体は個室に引きずり込まれるか死ぬまで追われるかだ。
どちらにせよ死んでしまうからおっかない。
「なあ、ユウスケお前もいくだろ?」
俺達のクラスのガキ大将ケントだ。
「やだよ、本当にいたら殺されちまうんだぞ?」
「んなもん、いるわけねえだろ」
「じゃあ、何のために行くんだよ?」
「だって、入ってみたいだろ?女子便所」
最高にすがすがしい顔をしてきもい良さそうにケントは言い放った。変態だ。
「こういうときしか入られねえだろ?しかも、女子のお誘いだぞ?」
だめだ、完全に興奮してノリノリだ。
「それにいいのか?ミユキちゃんも行くらしいぞ」
「だから何だってんだよ」
こいつは知っていた僕がミユキちゃんを好きだということを。
「もし、ミユキちゃんに何かあったらどうすんだ?」
「わかったよ、行けばいいんだろ行けば」
「よし、じゃあ決まりだな。みんなに言っとくよ」
「事実だけ伝えて余計なことは言うなよ」
ケントは満面の笑みを浮かべて周団の中に戻る。
乗り気ではないが放課後3階の女子トイレに行くことになった。
と、思われた。ホームルームで担任の先生から注意喚起が出る。
「花子さんが出たと噂になっていますが絶対に3階のトイレに行かないように」
「なんでー?」「本当に花子さんいるの?」「独身」「ケチー」「未婚」
「誰よ、言葉の拳で2回も殴ってきたのは!?どうしてもだめです」
担任のユカコ先生は自分への暴言で泣きそうになっている。
事実でも言って良いことと悪いことがある。独身と言ったのは僕だ。
先生は半泣きになりながらも放課後はすぐに帰るように言っている。
ただ、何かを隠しているようにも見える。怪しい...
休み時間に差羽扇会議が行われた。主催者はケントだ。
「怪しい、先生は何かを隠している。俺はそれを確かめようと思う」
先ほどの発言からは考えにくい勘の良さだ。ただの下心かもしれないが。
「僕はパス」「私もバレて宿題増えるの嫌だし」「やめとこう」
みんなおとなしく帰るようだ。僕も辞退しようかな。
「頼む、ミユキちゃんだけでも残ってくれ!」
な、なぜミユキちゃんなんだ?まずい、ミユキちゃんは押しに弱いタイプだ。
「う、うん、私は別にいいけど」
やはり、負けてしまった。だが、よりによってミユキちゃんを誘うとは...
すると、ケントは俺の方を見てニヤリと笑う。
そういうことか、してやられた。俺を逃がさないつもりだ。
「何よ、私を誘ってくれてもいいじゃない」
「な、なんでお前を誘わなきゃいけねえんだよ」
「嫌だと言われても言ってやるんだから、フンッ!」
アサミちゃんだ。これは、噂だがケントのことが好きらしい。
こいつのどこがいいのかわからんが、よっぽど物好きなのだろう。
そのあと、辞退者は後を絶たず結局4人だけになった。
そして、放課後になる。先生達は追い出すかのように他の生徒たちを帰らせる。
僕たちも途中までは従ったが隙を見て物陰に隠れた。
普段からかくれんぼに使っている場所で今まで1度も見つかったことがない。
「へえ、いつもここに隠れていたのか。俺もここに隠れるようにしよう」
今後、ケントとかくれんぼをやる時はここは使えなさそうだ。
先生たちは残っている生徒がいないか見回りをしているようだ。
暫く待つと、完全下校のアナウンスが流れ先生たちは職員室に戻っていく。
「よし、そろそろトイレに向かうぞ」
「なんだかドキドキするね」
「わ、私は平気よ」
「あまりの怖さにション便ちびっても知らねえぞ」
「あんた、ほんと馬鹿じゃないの!?デリカシーのかけらもない」
「あまり大きな声出すなよ、先生にバレるだろ」
壁に沿って歩いたり、ほふく前進したりして先生に見つからないようにする。
まるでメタル○アソリッドのようだ。
なんだかんだでワクワクしている自分がいる。
好きなこと一緒に特別な経験をしていることに喜びすら感じる。
ようやく3階の女子トイレに着く。見た感じ何もないように思える。
ケントを先頭にトイレの中に入る。
学校のトイレの個室は基本的に扉が閉まっているタイプだ。
一見誰もいないように思えたが、3つ目の扉だけロックがかかっている。
4人とも一瞬固まる。そして、実際にアレを試してみる。
「コン、コン、コン」
「はーなーこさーん、あーそびーましょー」
みんな半信半疑で、震えながら声を出す。
「はーあーいー...」
個室の中から返事が返ってきた。4人とも顔が青ざめ悲鳴を上げる。
ケントはアサミちゃんの手を握り、一目散に逃げだす。
その際後ろの方にいたミユキちゃんを突き飛ばしてしまった。
ケントは「ごめん!」とだけ言って、アサミちゃんと逃げって行った。
僕も逃げるためにミユキちゃんの傍に駆け寄る。
だが、腰を抜かしてしまって立ち上がれないようだ。
「ガチャンッ」
個室のドアのロックが外れる音が聞こえた。
ドアはゆっくりと開いていき、中から女性が出て来る。
花子さんだ!そう思った僕はミユキちゃんを守るように抱きしめる。
そしてその女性が話しかけて来る。
「お二人さんなかなか熱いわね。でも、まだ早いんじゃないかしら?」
そこに立っていたのはユカコ先生だった。
「いやあ、まさか本当に来るとはねえ。待ち伏せして正解だわ」
「なんで先生がここに?」
「それはこっちのセリフです。特にユウスケ君ここは女子トイレよ」
「いや、僕だけじゃなくて...」
そういえば、ケントは逃げ出したからここにはいない
「そういう問題じゃないでしょ」
確かにそうだ。そもそも女子トイレ男子が入ることがおかしい。
「と、言うわけで2人とも明日の宿題追加です」
「えぇー」
僕とミユキちゃんだけ宿題が増えるらしい。
「んーこれでようやく帰れる」
「え?まだ、他にも来るかもしれないじゃん」
「いいのいいの、教頭先生から言われたことは守ったから」
「なんて言われたの?」
「今回の件はあなたが引き起こしたことなんだから、あなたが誤解を解きなさい」
「それってどういう意味?」
「昨日、おなか痛くてトイレに入っていたんだけど
扉の前で誰かが「はーなーこさーん」て言うから脅かそうと思って返事したの。
で、注意しようとしたらもう逃げだしてて誤解を生んじゃったみたい」
「ふーん、じゃあ今回のことは先生が原因なんだ」
「な、なによ、その言い草は」
「先生が原因で男子が女子トイレ忍び込んだってなったら先生大変だよね?」
「!?な、なにが言いたいのかしら?」
「このことは、お互い内緒にしたいよね?」
ユカコ先生は余計なことまで話してしまい焦っている。
婚期を逃しているのはこの性格のせいなのかもしれない。
「大丈夫、誰にも言わないでおいてやるからさ。わかるよね?」
「わ、わかりました。お互い今回限りですね」
「はーい」
結果的に僕たちの追加宿題はなくなった。
その後のトイレの花子さんの噂がどうなったかと言うと、
トイレの個室の中にスピーカーが置かれていたことを言って回った。
いたずら防止で置かれていたと言うとみんな納得してしまった。
そうやって、3階の女子トイレは普段通り使われ始めて。
中には花子さんごっこと言って遊んでいる生徒もいた。
そんなこんなで怪談ではなく女子たちの遊びの一環となった花子さん。
形が違えどこうやって語り継がれるものもあるのだろうと、
僕は僕なりに納得した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私が子供の頃にも噂にはなっていましたが、
花子さんと出会ったからと言ってどうなるといった話はありませんでした。
皆さんの学校ではどのように噂されていたでしょうか?
執筆期間がながっくなってしまい申し訳ないですが。
頑張って投稿していこうとは思いますので今後ともよろしくお願いいたします。