口裂け女
茶色いロングコート、大きめのマスクで口を覆い隠す。
道行く人に「わたしキレイ?」と聞いて「キレイ」だと答えると、
「これでも?」と、再びきいてマスクを外し、大きく避けた口をみせて笑いながら追いかけて来る。
ほとんどの人は捕まって殺されてしまう。
これが口裂け女
「ねぇ、私キレイ?」
「キレイだと思います」
「これでも?」
夏の夕方頃、18時を過ぎているが外はまだ明るい。
公園では何人かの子供たちが別れを惜しみながらも家に帰ろうとしている。
俺も飲みかけのコーヒーを一気に飲み干して公園をあとにする。
公園の入り口の前で子供たちがひそひそと話している。
「なあ、知っているか?口裂け女」
「最近、この辺に出ているらしいね」
「こんな暑いのにコート着てマスク付けてるんだって」
「「わたし、きれい?」て聞いてきて馬鹿にしたら一瞬で殺されるらしい」
「「キレイ」て答えてもマスク外して「これでも?」て言って死ぬまで追いかけて来るって聞いた」
「どっちにしろ死ぬじゃん!」
「でも、ポマードって3回言ったら逃げていくからちゃんと覚えとけよ」
昔、よく聞いた都市伝説だ。
噂にはなっていたが、俺は1度も見なかった。
他の地域でも遭遇した話は聞いているが誰一人として殺されたなんて話は聞かない。
ポマードはそれほどに効果てきめんなんだろうか?
そう考えながら家路を急いだ。
住宅街に入ったあたりで街灯が点灯し始める。
まだ、夕日の明かりだけで見えなくはない。
家は多いが塀が高く家の中は見えないようになっている。
逆もまた然り、2階にいない限りは外の様子など見えない。
こんな所じゃ子供の前に不審者が出てもすぐには助けに行けないと思う。
暫く歩いていると誰かがもめている。
小さな男の子と少し大柄な女性だ。こんなクソ熱いのにコートを着ている。
その時背筋に悪寒が走る。その女性はマスクはしていないが他の人に比べて口が大きい気がする。
ある程度近づくと二人の会話の内容が聞こえてくる。
「離せよババア!」
「まあ、口が悪い子供ですこと」
「ポマード、ポマード、ポマード!!」
「あなたもそんなこと言うのね、まるであの都市伝説みたいに」
「俺のことを殺して食うつもりだろうがそうはいかねえぞ!」
「大丈夫、殺したりはしないわ。別の意味で食べちゃうけど」
「うわああああ」
厄介ごとには首を突っ込みたくない俺だが見てしっまたら仕方がない。
俺はわざと足音を鳴らしながら近づいていく。
「あら?かわいい坊やだこと。何か用かしら?」
「うるせぇ、こう見えても21だ」
身長は150cmより少し大きいくらいでよく童顔だといわれる。
そのせいか居酒屋に入ろうとするたびに年確されたり、補導されそうになったりする。
「ふーん、私子供にしか興味がないのだけれどあなたならイケそうだわ」
「そりゃどうも。で?その子を放してくれるのかな?」
「そうね、あなたが私の相手をしてくれるなら」
「あぁ、いくらでも相手してやるよ」
すると、素直に子供を手放した。
子供は泣きじゃくりながらどこかへと走っていった。
女性の格好はまさに「口裂け女」そのものだ。
マスクは着けておらず大きなはさみも持ってなさそうだ
口は裂けてはいないがとても大きい。魅力的だと思う。
そして、夏なのにもかかわらずロングコートを着ている。口裂け女でないならどうして?
「口裂け女だとか言われたし、面白いから聞いてみようかしら。あたしきれい?」
「キレイだと思います」
「これでも?」
そう言うと、女性はコートを広げて見せた。
ボンッ、キュッ、ボンッのグラマラスナイスボディがそこにはあった。
そして、下着が着用されていない。
徐々にムラムラしてきたが一気に冷めてしまった。
体のいたるところに切り傷や青痣がある。
「その傷はいったい...」
「昔付き合ってる人がいたのよ。
彼はとても暴力的で最初は彼のことを好きだったから私も耐えることができた。
でも、日に日にエスカレートしていって刃物まで使うようになった。
私が怯える姿が好きだったんでしょうね。私がやめてといっても全くやめてくれなかった」
「ひどい、ひどすぎる!」
俺は悲しみと怒りで涙をこぼす。
「同情してくれるの?ありがとう。だからと言って逃がしたりはしないわ」
「逃げたりはしないよ」
俺はゆっくりと彼女に近づくが、彼女は微動だにしない。彼女との距離は1mもない。
そして、彼女の体に触れる。痛々しいほどに残る傷。痣は青というよりは黒色に近い。
俺は彼女の体の傷を探るように優しくなでていく。
彼女は俺を閉じ込めるようにコートを閉じる。
「あなたは他の男に比べて優しいのね。あなたに触られるととても気持ちいい」
「そんなことはないよ。俺も男だ目の前にこんなキレイな体があれば触りたくもなる」
「本気で言ってるの?」
「もちろん、本気さ」
「私ね、その男と別れてからも何人かと付き合ってみたの。
私の体を見た途端蔑むような目で私を見て離れて行ったり、
前の男と一緒で暴力をふるったりしてくる男ばかりだったの。
だから、大人の男の人って怖くて子供ばかり狙うのよ。単純でしょ?」
彼女は両手で包み込むように抱きしめてくる。
抱擁されてわかる。この人は悪い人ではない。ただ、心のよりどころが欲しかっただけなんだ。
「どうする?このまま続ける?」
「あなたが良ければ続けて頂戴」
俺はゆっくりと彼女の下腹部に手を伸ばす。二人とも鼓動が早くなるのがわかる。
だが、その時。
「お巡りさん、あいつです!」
「こら!そこの君、何をしているんだ」
コートの外から男性と子供らしき声が聞こえる。
「あら、残念。あなたとはここでお別れみたいね」
さっき逃げていった男の子が警察を呼んだみたいだ。
彼女は俺をコートから出し、突き放す。
「そこのボク出す。
警察官が手錠をかけようと手を掴んだ。
「俺は...」
俺はすぐに警察間の手を払いのける。
「俺はこう見えて成人だ!そして、この人は俺の彼女だ!」
俺は自分の免許証を警察官の顔に押し付ける。
驚いた警察官は級のことに驚き大きくのけぞってしまい尻もちをつく。
瞬間、彼女の手を握り走り出す。
「俺が一目惚れした。ここで君を手放したくない。だから、一緒に逃げよう」
彼女はしばらく驚いた表情をしていたが、その顔は優しい笑顔へと変わっていった。
警察官は茫然として追いかけてこない。
そのまま2人は夕闇に消えていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ホラー作品を望んでいた方申し訳ありません。
都市伝説、一言でいえば怪談のようなものです。ですが、今回はそんな扱いを受ける普通の人がもしいたのならと思い、書いてみました。今後も続けていきますので、ご愛読いただければと思います。