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白猫と黒い病院  作者: 鬼桜天夜
序章
1/2

目指メト出会イ

読んでくださりありがとうございます!

主人公と一緒に、病院の謎を考えてもらえれば嬉しいです!


By鬼桜天夜

夜の帳が降りたまま、開けることも無く時間が過ぎていく。

月明かりのみが光源となり、暗い病室を照らしている。

暗い病室に目が慣れるまではそこまで時間はかからなかった。元々暗いと夜目がききやすいのかもしれない。

少年は起き上がる。

久しぶりに体を動かすので、起き上がるだけでかなりの体力を使う。それが、少しばかり悲しい。

まず目に写ったのは、異様な"黒い"病室。本来なら無機質なカーテンで仕切られ病人達が過ごすベッドですら黒かった。その黒くここが現実か疑う様な光景は、彼の心をより困惑させた。


『ここは一体、どこだ?』

彼には心当たりがこれっぽっちも無いのだ。病人怪我人なわけでもなし、何故分かるか?理由は単純、彼はどこの学校かも知らないが、学ランを来ているから。

そして怪我をした記憶も無い。となると、よりこの病院に居る訳が分からない。


『、、、とりあえずこの病院から出よう。話はそれからだ』

あわよくば人が居て、色々聞けたら良かったのだが、彼はそうしようとしなかった。人の気配がない、その勘が当たっているのを、病室から出てすぐ証明されたからだ。

人の声が1つもしないのだ。何も音が聞こえず、聞こえるのは自分の心音だけ。それが妙に心をざわつかせ、不気味さが際立つ。


カツカツ、カツカツ。カサッ、カサッ。

足音と腕を振った時の布の擦れる音が、交互に重なる。大きな瞳が、月のような輪郭をしたものを捉える。

ふと、足を止めて窓を見上げると、そこには白い月明かりが入り込みそれを拒む型番ガラス。

下を見下げても、見えるのは真っ暗闇。都市の栄光が見えてもおかしくないのにそれが消えている。


汗りが出る。


足が自然と前に出る。


この嫌な予感を払拭する為に。


『はぁ、はぁっ、ふぅ、とりあえず出なきゃ』

辿り着いたのは、玄関口と思わしき場所。自分の背丈より少し高くて冷たい鉄製のドア。ドアノブに触れると、ひんやりとした冷気が背筋を凍らせる。


『やっぱり、ダメか、、、!』

ガチャ、という音を少しだけ期待していた自分を嘲笑うようにドアは固く閉ざされている。


彼、もとい白野悠弥はかなりの窮地に立たされていた。

そんな彼に、救世主?導きの光?白い女神?

よく分からないが、恐らくそれは重要なことじゃあない。


地面に硬いものを打ち付ける音と、どこかぷにっと柔らかい音が聞こえる。音は小さいがこの閑散とした病院じゃとても大きく聞こえる。

少し長い前髪を揺らしながら振り返ると、そこには、


白い毛並みの"白猫"が居ました


「あなたも迷子?」


『猫が喋るとか、有り得なくないか??』

この世界の在り方に気づくのは、案外早いようで。




いやいやいや、猫が喋る?ここは現実だろ?いや、そもそも俺がおかしいのか??


「大丈夫?あなた顔面蒼白よ、あなた」


『それはそうだよ。猫が目の前で喋ってるんだから』


「まぁ別に良いじゃない。猫が喋ってるって言う事で」


『猫が喋るわけないだろ。お前は一体何者なんだ!』

悠弥は激昂する。彼は未だ少年だ。理解が出来ず人に、あぁいや、猫に当たるのも無理は無いだろう。


「そんな怒らないでよ。今はそういう事で良いでしょ?」


『はぁ、そうだね。これ以上怒ったら逆に疲れる』


「話が早いわね!ってことで出ましょう!」

猫だからか、はたまた彼女故かは知らないが、会話が成立していないのはお分かりいただけただろう。


『前後が無いけど、病院から出ようって事でしょ?』


「そうそう!」

悠弥は白猫に訝しげな視線を送る。なにせ喋る猫というのに留まらず、病院からの脱出の協力を持ちかけてきた。それはとても魅力的な提案だが、この白猫を信用するのとはまた別問題。

さて、どうするか。


俺は改めて白猫を見つめる。誰も居ない病院に居るにしては毛艶がいい、ごく普通の可愛らしい猫。

顔も猫の中では整っていて、左目が黄色、右目が蒼色の女子ウケ抜群のオッドアイ。

それがむしろ怪しいんだよな、と悠弥は密かに思う。だがそうも言ってられないのが自分の現状、腹を括って白猫と"会話"を試みた。


『まず君のことを聞かせて。君はなんでこの病院に居るの?』


「ん?知らないわ、そんな事。だってそれを知る意味ないじゃない」


『知る必要が、ない?自分がここに居る理由だよ?知りたいって思うことないの?』


「えぇ。それを考えるより、ここから出る方法を考えた方がよっぽどいいしね」

まぁ、確かに。まさか猫に納得させられる日が来るとは。

だが引っかかる事が少しある。

『ここを出なきゃって目的はあるのに、今までそうしなかった理由は何?』

そう、猫なら運動神経も良いから行動範囲も広いはず。なのに何故今までそうしなかったのか。


「出来なかったからよ」


『出来なかったって?』


「だーかーらー!そもそも、その扉が無かったの!窓も閉まってるし、外に出れるって言ったって、敷地内の庭園だけだったし」


『扉が、無かった?』


「そうなのよっ!出たい意思はあったけど、そもそも出れる場所が無いから出来るはずがないでしょ」


『じゃ、じゃあ庭園からは?』


「ざーんねん、柵が高過ぎて無理よ。猫でありながら不甲斐ないわね」

猫でも登れない程の高さか、じゃあかなり閉鎖的な場所だったのか?


『外の様子は?』


「ちょっと待って。私に散々質問攻めしてるって事は、協力するって事でいいのよね?」


『っ、それは、』


「それが答えられないのなら、これ以上話し合う必要は無いわ」

、、、なんで俺は躊躇って居るんだろう。こんな不可思議で恐ろしい病院、出ようと考えるのが普通なのに、なんでこの猫の提案を承諾しようとしないんだ??


口から声が出ない、開いた口から声が出ない、思考は普段と何も変わらないのに、声だけが出ない。

なんで俺は、おれは!

「ちょっと、また顔面蒼白よ!デジャブというやつなのだけど!」


『えっ、あ、あっ』


「なら簡単に!クリアに答えられるようにしてあげる。いい?私の問いにYES or NOで答えて。


私と一緒に協力して、この病院から出る?


YES or NO」

そう言われると、不思議と喉のつっかえが無くなった気がした。水を飲んで潤った様に。そして不思議と"微笑んでいた"


『Yes』


「よろしい!」


『うん、それじゃよろしく。白猫さん』


「む、気に食わないわ、その呼び方」


『えぇっ?いや、白猫さん以外の呼び方あるの?』


「確かに私には名前は無いわ。でも白猫さんは嫌よ、ただでさえ人が居ないこの病院で、唯一の友達にさん付けは喜ばしくないわ」

友達、喋る猫と友達という感覚に、妙に違和感を感じるのは気のせいだろうか。


『じゃあなんならいいの?』


「あなたが、ってそういえばあなたの名前を知らないわ」


『俺は、俺の名前は白野 悠弥(はくの ゆうや)だ』


「そう、中々いい名前じゃない。よろしく悠弥。じゃあその名前に負けず劣らずのいい名前を、あなたが付けて頂戴」


『え俺!?』


「自分で名前を付けてもねぇ。猫って普通飼い主、もとい友達に付けて貰うものじゃない」

それはそうだが、、、だが少し話して分かった。この猫、意外とプライド高めで気が強く、めんどくさいタイプだと。


「今不謹慎な事考えなかった?引っ掻くわよ」


『何もないって。ほんとほんと』


「ふーん?そ、ならいいわよ。ほら、早く言ってみなさい」

名前決めか、白猫どころか動物なんて飼ったことないのに。

うーん、白になぞらえた方がいいよな。


『シルバーとかどうだ?』


「銀じゃない!」


『ならホワイト?なんだかダサくないか?』


「だーかーらー、あなたにイケてる名前を考えてって言ったのよ!」

シルバーもダメか、なら、別の視点、、、キャッツ、そのまんまか?ライトニング、男っぽいか。

ん?男?この白猫、多分女だよな?あっ!


『"レディ"!なんてどうだ?』


「レディ、レディね。いいじゃない!ミステリアスでクールな感じ!私にピッタリね!」

単純に女だからという理由は、黙っておいた方がいいな、うん。

彼は少年にしては、かなり利口なようだ。


さて、彼らは状況だけ見ると最悪な状況だ。自分が何故ここに居るか、どうやって出るかも何にも把握していない状況。だが彼らには、不思議と笑顔がある。友と言える関係かは分からないが、共に歩いて行ける、隣に居る"誰か"が居る。

それが知り合いだろうが、会ったばかりの不思議な猫だろうが、居る事に意味があるのだと思う。

悲しい心を持ったまま、ふらっと寄った公園で、見知らぬおばあちゃんに話を聞いてもらい、心が軽くなるように。人と猫が寄り添うだけで、暗い病院に光が刺したよう。実際は、暗闇だったとしても。

今だけは触らないでおこう、これから先に、もっと悲しい真実と、見たくもない悪夢が居るのだから。













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