92話 500年前
スギノルリ、ついに500年前の真相です!
――――500年前、バルト国――――
「ついに我が国の番が来た!勇者を召喚するのだ!」
バルト国王の合図と共に、召喚の儀式が行われた。
この500後には全く見られなくなった、荘厳な神殿。
細かに彫刻された太い柱に、高い天井。
ただの光取りの為ではない、様々に型取られたガラス細工の窓。
その造りは、一国の城と変わらない規模のものだった。
この場所の神聖さと高貴さを表した赤紫色のローブを着た魔法使い達が、建物内を埋め尽くし、祈るように呪文を唱えている。
床に描かれた大きな魔法陣に、宙に浮かぶ無数の魔法陣たち。
これだけの魔法使い達の魔力を結集して、異世界から勇者を召喚するのだ。
【役立たずの魔法使い】と言われるその後でも、その役割だけは変わっていない。
そうして、バルト国には4人の転移者が称ばれたのだった。
「……え、ここは?」
とまどう4人。
「ここはバルト国。そなた達には、勇者として、この世界の魔王を退治してもらいたい」
バルト国王は、スート国王とは違い、国民を思いやり、人望もある優れた王だった。
「ばるとこくだー?そんな城攻めてたおぼえはねーんだけどなー」
重々しい鎧を身に付け、腰には刀を差している男。
腕に付いた真新しい傷跡が、戦場の厳しさを物語っていた。
その太い腕で、悩むように頭をガシガシとかいていた。
そして、その隣には、輝く鎧を着て、頭には豪華に装飾された兜を被ったもう一人の男がいた。
「アンタが今回の武将か?一体どーなってんだよコレ」
武将と呼ばれるその男は、黙って室内を見渡していた。
「はぁー。アンタは?見たところ町娘だろ、なんでこんな所にいるんだよ」
返事がないことで、今度は反対側にいた女に声をかけた。
「あ、あたしは、水を汲みに行ってただけなのに…。ここは一体…?」
バルト国と呼ばれるその国の人達とは明らかに異なる服装。
4人もまた、身分がバラバラなようだった。
共通していたのは、全員が、黒い髪、黒い瞳をしているということだった。
それぞれが、突然の召喚に驚き同様していた。
ただ一人を除いて。
その女は、何重にもなった鮮やかな着物を纏い、まるで人形のように、姿勢よく座って一点を見つめていた。
他の三人とは明らかに違う、艶やかな長い髪の毛。
白い肌に、真っ赤な口紅が映えている。
大きな黒い瞳、眉尻にあるほくろが印象的だった。
その強い視線に、たじろぐバルト国王。
「まずは、それぞれの名を教えてほしい。その後に、ステータスの確認をしたい」
「…………」
「名はなんと言うのだ?」
「…………」
国王の問いかけに黙る女。
残る3人も、その異質な女に対して戸惑っていた。
「なぜ妾から名乗らねばならぬ」
初めて発せられたその声は、迷うことなく、己の地位を誇っているものだった。
お互い存在は知らぬとは言え、その風貌から、自分より上であろうことは理解した。
しかし、第一印象で植え付けられたそれは、決して良いものとは言えなかった。
「……では、他の者から聞こうではないか」
国王の視線が、ここまで多くの言葉を発していた男へと移った。
「俺か?俺は、東雲宗次郎」
「職業は…、【剣士】ってなってるな。まぁ違いねーか」
部屋中に響く大きな声と笑い声。
感情が顔に出やすいのか、表情がコロコロと変わる。
身振り手振りで言いたいことを表し、じっとせずよく動いていた。
ようやく始まった自己紹介に、国王らが安堵の表情を見せた。
「……僕は、蘇芳謙信。職業は…、【勇者】とはなんだ?」
周りの歓声とは裏腹に、聞き慣れないフレーズに戸惑う。
もう一人の男とは対照的に、口数が少ない。
今自分が置かれている状況をしっかりと見極め、この先どうしようかと考えている様子だった。
「私は、鴇雪乃と申します。職業は【祈り子】、とあります」
他の三人より明らかに、使い古された膝下の着物。
手はひどく荒れていて、素足も切り傷だらけだった。
美人には違いないが、もう一人の女に比べ、化粧をしている様子はなく、髪も傷んでいた。
3人の自己紹介は終わった。
召喚されたのは4人。
残るは一人…
皆の視線が、先程の豪華な着物の女性に移る。
「丹色千代」
その名前に、他の3人が反応した。
「に、丹色だと!?」
「………!」
「妾を誘拐する愚か者がおるとはのぉ。父上の怒りをとくとその身に刻むが良いわ」
姿勢を崩すことなく、口角のみを上げて笑うその表情。
凍りつく3人に対して、バルト国側は至って冷静だった。
その後、幾多の説得と状況説明により、ここが日本ではなく全くの異世界だという事実を、4人に知ってもらうこととなった。
最後まで拒んでいたのは千代姫だったが、自身が【魔法使い】であり、魔法を扱えることがわかると、やっとこの事実を受け入れた。
そうして、4人は魔王討伐に向けて進み出した。
スギノルリ、ではなく、4人のお話です!




