88話 場所
スギノルリ、転移石ゲットです!
クロムの店を出た私は、ヴァイスとエクルに合流した。
向かった先は、ジエラの店だ
シャンシャンリンシャンリンシャン…
入り口の巨人に挨拶をして中に入ると、小さい店内に人がごった返していた。
既存の武器を見る者、それを購入する者。
受注生産の武器を求める者。
しかしそれには、半年待ちの表示がしてあった。
私に気付いたジエラが手を振ってくれたが、あまりに忙しそうだったので、私は外を指差し、一旦店内を出た。
店の外の窓からは、慌ただしく動くジエラの姿が見えた。
そしてその場所には、埃なく飾られたあの日本刀があった。
しばらくして人が引き、【閉店】と書かれた看板をジエラが扉にかけた。
帰っていく巨人に手を振った後、私達を店内に呼び込んだ。
「ルリー!!ごめんねー、お待たせしましたー」
「ううん、繁盛してるようだね」
「おかげさまだよー」
ジエラが店の様子を話してくれた。
前に来た時も、シルバーウルフの素材の件で、クロムの店同様賑わっていたが、今ではその比ではない程だった。
「お店、下の広場に移さないかと言われていますー」
「この店の広さでは限界があるのでー」
「凄いじゃん!」
「でも悩んでますー。この店は、私が職人になってからずっと居た場所ですー」
鍛治職人のイメージは、ドワーフの男。
巨人とドワーフのハーフで、さらには女であるジエラは、鍛治職人としてやっていくには厳しかった。
当然、広場に店を構えることなどは出来ず、少し離れた、人通りの少ないこの場所でひっそりとやっていたのだ。
ジエラの複雑な気持ちは理解できる。
「ジエラ」
私はエクルを紹介した。
「彼が、あの刀をつかってくれてるの」
「えっ!?」
エクルが少し照れたように、けど大切そうに、腰に下げた刀を触った。
「ちなみに、シルバーウルフも、彼が倒したようなものだから」
一度に色々なことを聞いて困惑するジエラだったが、
「あ、あの…」
エクルが少し恥ずかしそうに喋った。
「このカタナ、持っていて、とても心地良い」
「つくってくれて、ありがとう」
エクルが満面の笑みでジエラに頭を下げた。
「ジエラのつくる武器が、私は大好きだよ」
「だから、場所なんて関係ないと思う。ジエラがつくれば、それがジエラの作品なんだから」
その言葉に、緊張の糸が切れたジエラが泣き出してしまった。
男性陣3人が戸惑っている。
「ずっと、不安でしたー」
「お店は繁盛していますー」
「けどそれは、私の武器なのかなーって」
「シルバーウルフとか、A級冒険者とか、私には大きすぎますー」
私は、ジエラに突然として、いろいろなものを背負わせてしまっていたんだ。
「でももう、考えるのは辞めますー」
「理由がどうであれ、私の武器を買いに来てくれたお客さんと、一人一人ちゃんと向き合いますー!」
「そうすれば、さっきの彼のような笑顔がまた見れますかねー」
「出来るよ、ジエラならきっと」
笑った口元から見える八重歯。
ジエラのその笑顔もまた、私に力をくれた。
ジエラに別れを告げて、私達は店を出た。
宿を探すために広場へ戻ってきた。
初めての創造国であった事を興奮して話をしてくれるエクル。
「凄いね!こんなにたくさんの種族を見たのはじめてだよ!」
広場は、相変わらず人の往来が多かった。
人目を引く大きな巨人。
店の前で呼び込みをするドワーフ。
それを見て武器屋に入る人族。
魔道具を買っていく獣族。
エルフの姿は少なかったけど、里があの状態では仕方ないだろう。
他種族が共存する場所。
『特別なものか!』
カーマインが言っていた。
『創造国が特別に見えるのは、1週間という、限られた時間があるからだ。あれ以上の期間一緒にいれば、もっと騒ぎが起きてるさ』
『1週間ってのは、拠点防止の為なんかじゃない。本来の目的は、他種族間との交流を最小限に止める為だ』
確かに、小さないざこざはこの広場でも見られる。
その度に、巨人が制圧して事を納めている。
でもそれの、どこがいけないことなんだろう。
争いのない国が良い国なのか?
それは、強い力によって上下支配されているだけではないのか?
言いたい事を言い合い、ケンカすることは悪い事ではない。
それによって、お互いの事を知れるのだ。
そうやって、まとまっていくのではないのか。
禁忌の子らのこともあり、他種族間の交流を制限している今の状況。
それが変わることはないのかな。
ジエラのように、ハーフでも認められる場所はちゃんとある。
この世界に必要なのは、もっと、お互いを知ることじゃないのかな。
「2人は一度、獣族国へ帰っててくれないかな」
私は、ヴァイスに転移石を渡した。
「その時が来たら、コレを使って」
「コレは?」
転移石の説明をすると、ヴァイスが頷き、受け取ってくれた。
「ルリっ?」
置いていかれると思い、不安そうなエクル。
「エクル、聞いて」
私はエクルの目線に屈んだ。
「私はこれから、しなくちゃいけない事があるの」
「それが終わったら、魔王討伐に行く」
「だから、それまで待っててくれる?」
じっと私の目を見つめるエクル。
私は、髪をそっと撫でた。
「……わかった」
「ありがと」
ギュッと抱きしめた。
初めて会った時より伸びた背が、とても頼もしく見えた。
スギノルリ、次はどこへ!?




