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7話 スープ2


 スギノルリ、ついに上級魔導書買いに行きます。



 カランッ


 「おはようございます」


 「おはよー。……ルリ?」


 少し元気のない私に、キュノさんが近付いた。


 「アンタ、心配してたんだよ、7日も顔出さないから」


 「7日…」


 7日も経ってたんだ。

 無我夢中でレベル上げしてたから、時間の感覚がなくなっていた。


 「すみません、心配かけて。魔石、見てもらえますか?」


 私は机の上に、前回よりも多く、色の濃い魔石を出した。


 「これはまたたくさんね」


 キュノさんが驚きながら、呆れながら、魔石を確認していく。


 「全部で20000Gだね」


 「上級魔導書ください」


 「アンタ…。たった7日で、レベル10から30になったってゆーの?」


 「はい」


 「はぁ〜。普通は1年かかるよ」


 キュノさんはレベルアップの早さのことを不振に思っているようだったが、黙ったままの私に、それ以上は何も言わなかった。


 

 上級魔導書に手の乗せながら、私はキュノさんに尋ねた。


 「これで一応、一人前の魔法使いになれたんですかね?」


 ステータスを表示して、増えた魔法を確認する。


 「あれ?」


 「どうした?」


 「いや、嘘を見破る魔法ってないのかなって…」


 城の魔法使いが使ってたやつだ。


 「あぁ、あれね」


 キュノさんは、本がたくさん積み重ねられた机の奥にある椅子に座った。



 「上級魔導書は2段階になってるんだ」


 「2段階?」


 「そう、今がレベル30だろ。レベルが40になれば、上級全ての魔法が使えるようになるんだ。嘘を見破る魔法や、転移の魔法はそれだね」


 「その2つが使えれば、とりあえず魔法使いとしては仕事に困らずやっていけるさ。だから皆、レベル40を目指す」


 「なるほど」


 「ただし、レベル30から40になるには、10年はかかるかな」


 「え…?」


 「わかったかい?魔法使いが役立たずって言われる訳」


 「たかが初級に1ヶ月、中級に1年、上級に10年もかかるんだ。それでもレベルは40。戦士なら1年でなれるさ」


 「そしてようやくレベル40になったとしても、転移門の魔法使いとして日々仕事をこなす」


 「魔力の限界がある限り、長旅の魔物討伐には連れて行ってもらえない」


 「そこまでしてわざわざ魔法使いを選ぶやつなんていない」


 「アンタが進もうとしてる道は、そんな所だよ」




 城にいた魔法使いが伝えようとしていたことはコレだったのかな。





 「……。それでも、私はこの手で、魔法で戦いたいんです」



 「……ふーん」



 キュノさんはそう言って椅子を回して私に背を向けたので、どんな表情をしているのかわからなかった。



 「じゃぁ、私行きますね!」


 「待ちな」



 椅子がくるりと回ってキュノさんが立ち上がった。


 「スープ、10個欲しいって言ったんだって?」


 「あ…」


 「ジロッソから聞いた。スープ売ってるジジイね」


 「お知り合いなんですか?」

 

 「古い友人でね」


 「……。アイテムボックスに入れておけば、スープは冷めない。けど、それは言えないし…」


 「なるほどね」


 


 「よし、行こう!」


 「えっ?」


 キュノさんは私の手を引っ張り店の外へ出た。




 「よー、スープおくれ〜」


 おじさんのお店だ。


 「おー!おー、…お?」

 

 おじさんが私を見て複雑な顔をしている。

 この前から来てないから、気まずい…


 「ジロッソ、スープ10個な!」


 そんなことおかまいなしに、キュノさんが満面の笑みでとんでもないを言っている。


 「キュノさん…あの…」


 「キュノ、てめーなんのつもりだ」


 いつも優しかったおじさんが、笑顔もなく、低い声で怒っている。


 するとキュノさんは私の肩を叩き


 「アイテムボックス持ってんのよ、この子」


 え……?

 言っていいの?


 「まじか!アイテムボックスだと?」


 混乱する私に対し、ジロッソさんは急に明るくなった。


 「そう、だからスープ持ち放題〜。いつでもあったか〜!」


 キュノさんが私に微笑んでくれた。


 「なるほどな、だから10個売ってくれって言ったのか」


 「ごめんな姉ちゃん、こないだはキツイこと言って。言ってくれりゃーよかったのに」


 「いえ、こちらこそ、すみませんでした」



 「私が言ったのよ。アイテムボックスのことは隠しときなって」


 キュノさんが間に入ってくれた。


 「まーなー。あんま人には言わんほうがいいな」


 「よし、じゃぁ待ってろ、10個用意するから!」




 「あ、それでさ、わたしに案があるんだけど」


 突然の提案に、私とジロッソさんはキュノさんの方を見た。


 「ルリ、今度から魔物はここで売りな」


 「おぉ、そりゃ助かるな!」


 「魔物を、ですか?」


 「そう、アンタはスープをたくさん売ってもらえる。ジロッソはギルドから高く買わなくてよくなる。お互いにいいことじゃない〜」


 「なるほど、えーっと、何がいりますか?」


 私はアイテムボックスの中の表示を確認した。


 「えっ、今あるの?」


 「ありますよ?」


 「ギルドに売ってないの?」


 「売ってません」


 「なんで?」


 「魔物を売る必要が今までなかったので。アイテムボックスの中だと腐らないし。そのままずっと」

 

 キュノさんとジロッソさんが顔を見合わせて驚いている。


 「はははははは!!本当、面白い姉ちゃんだな!」


 大笑いするジロッソさんの隣で、キュノさんも笑っていた。


 

 私はジロッソさんに言われた量をその場に出した。

 

 「ありがとよー、姉ちゃん。えっと、ルリだっけ?」


 「はい!ジロッソさん、これからもよろしくお願いします!」


 よかった、ジロッソさんのお店でまたスープが買える。

 

 「よかったな〜、ジロッソ、ルリと仲直りできて」


 キュノさんがジロッソさんの肩に抱きついた。


 「うるさい、離れろババァ」


 あれ、また不機嫌?

 対照的に、キュノさんはご機嫌だ。


 「ふふ、ルリあのね。ジロッソ、こないだルリに酷いこと言った〜って落ち込んでてさ」


 「あー、黙れババァ!」


 「強面ジジイだけど内面は優しいとこあるのよね〜」


 照れるジロッソさんを、キュノさんがからかっていた。

 なんか、お似合いだな、この2人。

 


 「ありがとうございます」


 じゃれあう2人が私を見た。


 「この街で、2人に出会えてよかったです」


 本当に。この2人がいなければ、私はとっくにダメだったかも。


 2人が笑顔で私の頭を撫でてくれた。




 一人前の魔法使いはレベル40!

 レベル上げ、まだまだ頑張ります!



 スギノルリ、まだまだレベル上げです!


 

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