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73話 ナデシコ


 スギノルリ、千代姫を止められるのか!?



 ナデシコさんから聞いた、千代姫さんの話は、想像を絶するものだった。


 エルフ族も、獣族も被害は大きい。


 全ては、今回の魔王討伐、さらには封印もさせないという、千代姫の策略だった。


 私は、手の汗をそっと拭った。





 「カーディナルは、ナデシコさんがつくったものなんですか?」


 「そうです」


 「魔法使いの為に…?」


 役立たずの魔法使い達にとっての楽園。


 しかし、ナデシコさんは首を横に振った。


 「いいえ、そんな綺麗事ではありません」



 「私はただ、逃げ隠れただけです」


 「……千代姫さんから?」


 「この世界からです」




 私は、自分の言葉に後悔した。


 少し考えればわかることだ。


 魔王の傘下に入った者の娘が、何事もなく暮らせると?


 

 ナデシコさんの身に起きたことを、私はもっと理解するべきだった。



 黙る私に、ナデシコさんは話を続けてくれた。


 「はじめは、私一人で暮らしていたのです」


 「そんな時、【禁忌の子】らがやってきた」


 【禁忌の子】、異種族間交配によって出来た子。


 

 「望まれぬ子達を、私は他人事とは思えなかった」


 「そして、その子らに魔法を教え育てました」


 「母が出来なかったことを代わりにすることで、何か救われた気がしました」



 「成長していく子達に、変わらぬ姿の私。時を操れるなどと噂が出たのはそのせいでしょう」




 「魔法使い達が来たのはその後です」



 「まさかここを楽園と呼んでくれるとは思っていませんでしたが」


 「私はただ、過酷な状況下でありながらも、修練を重ねた者達に、少しの自由をあげたまででした」


 「人族ではない場所で、人目を気にせず、自由に生きるということを」


 「子供達がのびのびと魔法を使って暮らす姿も衝撃的だったのでしょうね」



 獣族国の転移門にいた魔法使い達は皆、笑顔だった。


 人族の国で見下されて働かされているのではなく、


 誰かの為に、必要とされて働く喜び。



 それがどれだけ違い、価値のあることなのか、


 【役立たずの魔法使い】と呼ばれた私には痛いほどわかった。




 【役立たずの魔法使い】をつくった千代姫と、【魔法使いの楽園】をつくったナデシコさん。


 ナデシコさんは、今どんな気持ちなのだろう…




 「ナデシコさん」


 私は大きく息を吸った。


 「私は、魔王を倒します。そして、【役に立つ魔法使い】になってみせます」



 「……よろしくお願いします」


 ナデシコさんが、赤くなった目を閉じて頭を下げた。





 ナデシコさんとの話を終えて、元の部屋へと戻った。


 

 ウィスタリアはまだ本の押し花を見て嬉しそうにしていた。


 ノワールは無表情で座ったまま。


 ヴァイスとエクルは…、あれ?


 部屋の中央の机ではない、小さな机と椅子に座って、エクルが何か食べていた。


 「エクルがお腹が空いたと言ってね。そうしたら軽く食事を用意してくれたんだ」


 ヴァイスが指し示した扉の近くを見ると、部屋まで案内してくれた女性が立っていたので、私は軽く頭を下げた。


 もう食べ終わりそうだからよくはわからないけれど、卵焼きのような、黄色いフワフワしたものがお皿に残っていた。


 いいな、美味しそう…


 私も欲しいですの言葉を言おうかと悩んでいると、ナデシコさんの声がした。




 「お待たせしました。お送りいたします」



 ノワールが瞬時に立ち上がり、冷ややかな目線を送られる。



 早く帰るぞ、と心の声が聞こえた。


 後ろ髪を引かれつつ、歩き出した。



 城の上まで登ると、ヘリポートのような、開けた場所に出た。


 そこには何人かの魔法使いがいて、地面には大きな魔法陣が描かれていた。


 エルフに人族…


 ここの教え子達だろうか。


 ナデシコさんの案内でウィスタリアを含む全員が魔法陣の上へと乗った。



 魔法使い達によって、その魔法陣が輝き出す。


 私、他の誰かに転移してもらうの初めてだな。


 転移門で魔法使い数人がかりで行うって、こんな感じなんだ。



 「ルリさん」


 光の向こうにナデシコさんが立っている。


 「その時が来たら、またお会いしましょう」


 「はい」


 返事と同時に光に包まれ、私達は転移した。




 謎に包まれていたカーディナル。


 その中身を、知ることが出来た。


 正直、まだ、全てを受け入れきれてはいないけれど。


 私のすることに、変わりはない。



 無事、精霊王も見つけることができた。


 とりあえず、エルフの里に戻ろう。



 

 スギノルリ、エルフの里に帰ります!


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