6話 スープ
スギノルリ、中級魔法使えるようになりました!
「はい、コレ」
「なんですか?」
キュノさんに何かを渡された。
「バッグと…、マント?」
斜め掛けバッグと、茶色のマントだった。
「アイテムボックスのことは隠しとけって言ったでしょ?」
「あ、この中に荷物を入れるんですね!」
「あのねぇ…」
私がバッグに薬草を詰めていると、キュノさんに呆れられた。
「違うんですか?」
「せっかくアイテムボックス持ってんのに、わざわざ重い荷物持たなくていーでしょーが!」
「え…?でも隠せって…」
私は混乱した。
「いーい?アイテムボックスをどこらかしこでも出すんじゃなくて、隠して出すのよ!」
「隠して出す?」
「さもバッグの中から取り出してるように使うの!マントしてれば、手元なんてよく見えないわよ」
「なるほど!」
確かに、それならアイテムボックス使っているのがバレにくい。手ぶら旅継続!
「あと、コレも持ってきな」
キュノさんが机の引き出しから取り出した物を机の上に置いた。
「短剣?」
小さな短剣だった。
少し古い感じがするけど、綺麗な紋様が入っていた。
「あんたねぇ、無茶し過ぎ。魔力無くなるまで夜通しレベル上げなんて危険だから」
「……すみません」
魔力無限大♾なんで無くなることはないんですとは言えない。
「魔法使いはね、魔力がなくなると無力なの。手ぶらじゃ魔物1匹倒せないよ。短剣ぐらい持ってな」
「綺麗な短剣ですね。いくらですか?」
「いーよ、あたしが昔使ってたやつ。古いけど、まだ使えるだろうから、持ってきな」
「いや、でも!」
「バッグとマントと合わせて、さっきの大量の魔石で十分だから」
「ありがとうございます」
「お金貯まったら、武器屋に行ってちゃんとしたの買いな。長剣とか弓とか」
武器…いるのかな?
と思いながらも、一応頷いておいた。
「よーっし、レベル上げ行くぞー!」
魔道具店を出た私は、すぐに街の外へは行かなかった。
「おはよーございまーす!」
「おぅ、姉ちゃん、早いな!」
スープのおじさんが店の準備をしていた。
「昨日はありがとうございました。パンとお水助かりました」
本当に助かった。
回復は体力と怪我を治してくれるけど、空腹は無理だった。
空腹の夜中のパン、美味しかった〜
「そりゃよかった、魔物は倒せたか?」
「はい!おかげさまで、無事魔法使えるようになりました」
「頑張ってレベル上げしろよ〜」
「はい、これから行ってきます!なので、えっと…パンとスープ、10個ずつください!」
「……ん?」
おじさんが驚いた様子で私を見ている。
「スープ10個?」
「はい!パンも!」
「……」
「……?」
なんだろう、おじさんの顔が険しくなっていく。
「姉ちゃん、一度にスープ10個はダメだろう。どっかに売ろうってのか?」
「え?いや…全部私が食べる用なんですけど…」
「それは無理な言い訳だな。1日にスープ10個も食べれるわけないし、冷めちまったら美味くねぇ。そもそも、10個もどーやって持ってくつもりだ?」
「あ、それは…!」
私は言葉につまった。
アイテムボックスのこと。隠しとけってキュノさんに言われたんだった。
「え…っと…」
黙る私を見て、おじさんはため息をついた。
「ごめんなさい…。1つなら、売ってもらえますか?あと、パンも…」
おじさんは黙ったまま、スープとパンを売ってくれた。
「ありがとうございました…」
おじさんは最後まで私を見てはくれなかった。
「土爪!!―どそう―」
大きな爪が大地を斬り裂くように、地面が割れる。
単体攻撃ではなく全体攻撃って所が、中級って感じか。
雑魚モンスターをまとめて倒せるのはありがたいな。
中級魔法でも、覚えた魔法は多くはなかった。
上級を覚えたとして、一体どれだけの魔法が使えるようになるんだろう…
『役立たずの魔法使い』
頭に染みつくその言葉を忘れる為に、私はレベル上げに集中した。
「お腹すいたな…」
アイテムボックスからスープを取り出した。
「あったかい…」
それは、出来立てと同じく湯気を纏い温かいままのスープだった。
そう、アイテムボックスに入れた物は時間が止まるようなのだ。
それを知った私は、今朝おじさんにスープを10個欲しいと言ってしまった。
アイテムボックスがあれば、いつでも好きな時に温かいスープが飲めるから。
でもそれを、おじさんに説明するわけにもいかず…
「もう、あのお店には行けないかな…」
おじさんのスープもパンも、とても美味しいのに。
そして何より、この世界に勝手に召喚され、役立たずと城を追い出されて、行き場所がなかった私に初めて優しくしてくれた人。
『魔法なら魔導書買って覚えればいいんじゃねーのか?』
あの言葉で、私がどれだけ救われたか。
強くなろう。
強く、強い、魔法使いになるんだ。
【レベルアップ】
また、時間を忘れてレベル上げに没頭してしまった。
街に戻ろう。
スギノルリ、いよいよ上級魔導書買いに行きます。