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64話 カーマイン


 スギノルリ、出会ったのは!?



 「誰だ?」


 現れたのは、美女ではなかった。



 「最近やけに人が来るな」



 白髪の老人。


 けれど、傷だらけの腕に、鍛え抜かれた身体。


 年齢とは不釣り合いな立ち振る舞いをしていた。



 てゆーか、この人…



 「エルフ族里長ノワールだ」


 ノワールが前に出た。


 「へぇ〜、わざわざ何のようだ?」


 ノワールの前でも屈せず、腕を組み堂々としている。


 「貴様こそ、ここで何をしている?」


 「儂か?儂はここに住んでいる」


 「ここに、住んでいる、だと?」


 確かに、大きな木の下に家らしきものがあった。


 ノワールの表情が厳しくなる。



 「人族が、なぜここにいるのだ」



 怒鳴り、叫ぶわけではない。


 静かに、ノワールが怒りを見せた。


 その殺気に、近くの木に止まっていた鳥たちが逃げ出した。



 やっぱり、この老人は人族だ。


 どうして、この精霊族の大陸に?


 いや、こんな森の中に住んでいる?




 「カーマイン、どうかした?」


 家の扉が開いて誰かが出てきた。


 女の、人?



 その女性は、ノワールに気付くと、跪き頭を下げた。


 「さ、里長さま、、」


 「立て。聞きたい事がある」


 女性は震えたまま下を向いている。


 「そう怯えるな」


 ノワールが触れようとした瞬間、


 「触るな」


 老人がノワールの手を払う。


 そして、ノワールから守るように女性の肩を抱いた。


 2人は黙ったまま睨み合った。



 

 「まぁまぁ」


 そんなノワールと老人の間に、ヴァイスが入る。


 「私達は争いに来たのではありません。少しお話しを聞いてもらえないでしょうか?」


 柔らかいヴァイスの笑顔に、老人の警戒が和らいだ。




 「こっちへ」


 老人に案内されたのは、家の前にある木や石で作られた椅子がある場所だった。


 老人と女性が並んで座ったのを見て、私とノワールがそれぞれ座った。


 エクルは湖に入って遊び出したので、ヴァイスはそれを見えるように立ったまま、ラピスは私の近くに座った。




 「私はルリと言います。彼はラピス、立っているのが獣族のヴァイスと、遊んでいるのがエクルです」


 「ほぉ〜、エルフに人族、獣族までとは。一体何事だ?」


 堂々と話す老人をよそに、女性はまだ下を向いて震えていた。


 そんな女性の手を握り、話す老人。


 その手には、薄い桃色の花の指輪がしてあった。


 「儂はカーマイン。こっちは嫁のビオレータじゃ」


 嫁…?


 え、でも…?


 驚く私に、老人が言った。


 「なんじゃ?人族とエルフが一緒にいるのがそんなに不思議か?」


 !!!!



 そう、そうなのだ。


 この女性はエルフだ。


 薄い褐色の肌に、尖った耳と紫色の瞳。


 だから、ノワールの耳飾りを見て、里長だとすぐに気付いたのだろう。


 けれど、この老人は人族だ。


 一体…


 ん?


 まって、カーマイン?



 「カーマインって、冒険者の?」


 「ほぉ、儂を知っとるのか」

 

 「創造国であなたの剣を見ました。そしてイット国でも…」


 「はっはっはっ!儂もまだまだ廃れておらんなぁ!」


 「よーし、酒でも飲むか!」


 陽気な老人だなー。


 巨人王やジロッソさんタイプだな。




 「待て」


 ノワールだ。


 「こちらの用件が終わっていない。酒はその後にしてくれ」


 「はいはい、と」


 カーマインがゆっくりと座ると、ノワールがまた話し出した。


 「で、話って?」


 「精霊王様がここへ来なかったか?」


 「あぁ、来たぜ」


 「いつだ!?」


 「昨日の、朝…だったか?」


 カーマインがビオレータを見ると、黙って頷いた。


 「何をしに?どこへ行かれた?」


 「待て待て、慌てるな」


 ノワールが立ち上がる。

 

 「ウィスタリアは花を採りに来た。どこへ行ったかはわからない」


 「……精霊王様を呼び捨てにするとは…」


 カーマインを睨みつける。


 そんなノワールをよそに、話を続ける。


 「花は既に誰かに摘まれていたらしい。だから、誰か来なかったかと聞かれた」


 「誰か来たのか?」


 「あぁ」


 「赤髪の人族の女と、その次に来たのが桔梗色髪のエルフの女だ」



 !!



 赤髪の人族…まさか…


 ノワールはエルフに心当たりがあるようだった。




 「あの上に、何があるの?」


 私は山を見上げた。


 !!!!



 「どうして、山に何かあるとわかった?」


 「儂は、どこに来たなんて話してないぞ」



 「あ…いや…、山の上から、何かを感じるから…」



 「へぇ〜、姉ちゃん面白いな」


 「あの山は、特別なんだ。そして、そこに咲いている花もな」



 あの山、確か霊山って言ってたよな…



 「あの山の上には、白い花が咲く。ウィスタリアは、それを採りにきたんだ」


 白い花…


 「けど、あの山はそう簡単に登れる山じゃねぇんだ」


 「え?」

 


 カーマインがビオレータを見ると、立ち上がり、山の上の方へ向かって【ファイア】を唱えた。



 シュワッーーーー


 

 10メートルほど上昇した所で、消えてしまった。



 「え?」


 「北の大陸内で一番神聖なる場所と言われているこの山は、魔法で護られている。上に登るには、自らの足か、強力な魔力を持った者だけだ」



 「エクル!」


 私は川で遊んでいたエクルに叫んだ。


 「ルリ、どうしたの?」

 

 「あの山、登れる?」


 私は霊山を指差した。


 「うん、わかった!」


 川岸を歩き、滝の横まで来ると、ロッククライミングのようにスイスイと断崖を登り始めた。


 そして、先程魔法が消えた高さもなんなく通過していった。


 「ほんとだ…」



 「エクルー!ありがと!もう降りて来てー!」


 降りて来たエクルにタオルを渡し、今度は私が風を使って舞い上がった。


 「おぉ!姉ちゃんも魔法使いか!」


 カーマインとビオレータが驚いている。



 私は、一気に上昇した。



 途中、見えない壁に阻まれた気がしたが、何事もなく突き抜けた。


 「着い…た?」


 頂上へと着いてしまった。


 草一本生えていない、険しい山の頂。


 そこにあったのは、ただ一本の白い花。


 の、残骸だった。



 ひどい…

 

 無惨にも折られた花が、横たわっていた。



 私が下へ降りると、カーマインが興奮していた。



 「姉ちゃん、凄いな!何者だ!?」

 

 「えっと…」


 圧がすごい。


 「そーかそーか、儂らの馴れ初め話が聞きたいって?よーしよし、話してやるからまー座れ!」


 あ、酔ってる?シラフでこのテンション?



 スギノルリ、カーマイン劇場始まりです!




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