52話 イット国
スギノルリ、冒険に戻ります!
目指せ!エルフの里!
目指せ!カーディナル!!
「えーっと?どうやって行けばいいの?」
私はヴァイスに聞いた。
「精霊族への転移門は、エルフ族しか使えない。他族がエルフの里へ行くには、自らの足で行くしかない」
「精霊族との境に近い国、創造国か人族の北の国にとりあえず転移することになるかな」
「なるほど」
「創造国はまだ1か月経ってないから、北の国に行こう」
私は地図を出した。
人族の一番北の国……、あった!
「目指すは、イット国ね!」
転移魔法を唱えると、私達四人の足元が青く光った。
「……。前にも思ったけど、ルリの魔力は一体どうなってるんだい?」
「え?」
「多人数の転移を、しかも一人で。なのに、全く疲れた様子がない」
あ、しまった。
転移って魔力相当使うんだった。
何も気にせず使ってたや…
ヴァイスとエクルは獣族で魔法には詳しくないと思ってたし…
何て言おうかな…
私が考えていると、
「まぁいいよ。あまり詮索して嫌われたくはないしね」
王子スマイルで流された。
やばい、ラピスの殺気を感じる。
「この国は見てまわれる!?」
エクルに手を引かれた。
そうだ、エクルに人族の国の観光をさせてあげなきゃ。
「うん、そうだね。泊まって行こうか」
私がそう言うと、嬉しそうに飛び跳ねていた。
まだまだ子供だなと安心する。
「ん?待って。ヴァイスとエクル、国に入れるの?」
獣族だけど…
「あぁ、それは大丈夫」
ヴァイスが何かを取り出した。
「パッセさんから受け取ってきてるから」
「通行証?」
「そう。商人としてのね。これで人族の国にも入れる」
「そっか、よかった」
ヴァイスの言った通り、問題なく関所を通過し、無事入国した。
やって来ました、イット国!!
はじめましての国。
人族の大陸で、一番北にある国。
エルフの里には、ここから歩いて行くことになる。
その前に、エクルの為にも、少し観光してから行こう。
イット国、この国は、今まで見てきた人族の国とは少し雰囲気が違うな。
スート国やバルト国は、平地の国だった。
広場があって、ギルドや店が並んでいて、城があって。
全てが同じ目線だった。
対照的に創造国は、山のような要塞の国だった。
階段が至る所に伸びていて、入り組んでいて、一番高い所に城があった。
イット国は、小高い丘だ。
山ほど大きくはない。
入り口から、ゆるやかな坂道がずっと続いている。
その坂道の両端に、店が並んでいる。
まるで、観光地のお土産屋さんみたいだ。
建物の色もカラフルで、着ている服も今まで見てきた服装とは違った雰囲気のものだった。
それにしても…
「いい匂い〜!!」
エクルが思いっきり空気を吸った。
「本当、美味しそうな匂い!!」
そうなのだ。
この国に入った時からずっとしているこの匂い!!
ご飯のいい匂いがしてたまらないのだ!!
「ルリ、早く早く!」
エクルに手を引かれる。
「待って待って」
楽しそうな顔をしているエクルを見てホッとした。
お店を見ると、道具屋や武器屋の看板より、食堂の数が多い多い!
至る所に食べ物が売られていた。
だからこんなにいい匂いがしているのか。
あれは、お茶、かな?
エクルの鼻の向くまま、一つの店に入った。
丸いテーブルに座り、お勧めの料理を注文した。
店内を見渡すと、服装から、この国の人達と、他国の人、両方で賑わっていることがわかった。
ザワザワザワ……
「ねぇ聞いた?勇者の話」
「あぁ、今回も無理そうなんだって?」
え?
勇者の話が聞こえてきた。
「勇者のくせに、茶狼の剣しか持てないそうよ」
「そんなんで魔王を倒せるもんか」
第二王子の話で、嘘ではない事があった。
勇者と祈り子の話だ。
二人が今、追い込まれている状況であることは、どうやら間違いではないらしい。
「なんでも、今回は二人しか召喚されてないんでしょ?」
「召喚されたのは三人だけど、うち一人は【魔法使い】だったって聞いたぞ?」
「せっかく【祈り子】が召喚されたってのになぁ」
「なんで【魔法使い】だけは毎回召喚されるんだろうな。役に立たないくせに」
「今回もダメならもう6回連続でしょう?」
「この国の敗戦が薄れるのはいいことだけど、これでまたバルト国の一人勝ちね」
「エルフや獣族にも借りをつくることになる」
「いいかげん、ましな召喚者が来てくれないもんかな」
勝手なことばかり…
無関係な人間を召喚しておきながら、魔王討伐は任せっきり。
出来なければ非難。
この世界のことなんだから、ここの人達だけで何とかしようとか思わないわけ?
私達を巻き込まないでよ。
居心地が悪くなって、席を立とうとした時、
「お待たせしましたー」
綺麗なお姉さんが、飲み物を持って来てくれた。
緑色の暖かいお茶。
懐かしい味…
私は心が落ち着いたのを感じ、次々と運ばれてくるご飯にも目を向けた。
「美味しい!」
エクルが夢中になって食べている。
「初めて食べる料理だけど美味しいね」
ヴァイスが上品に口に運ぶ。
ラピスを見ると、目が合った。
「……食べないの?」
「お前が食べたら食べる」
「ははっ、毒味じゃないんだから」
私が笑うと、ラピスも少し笑って、黙って食事に手をつけていた。
魔王討伐。
それは、ラピスの相方であった赤竜を倒すということ。
ラピスは、どんな気持ちでいるんだろう。
何か、方法はないんだろうか。
スギノルリ、ご飯は残さずいただきました!




