48話 第一王子
スギノルリ、ただいまです!
転移でスート国の、ジロッソさんの宿の部屋に飛んだ。
あー、何も変わってない。
本当に、私以外には貸し出していないみたいだ。
窓から入る風が気持ち良かった。
部屋から出て、下の食堂へ降りる。
人が少ないうちにと思って夕方前に来たけど、それでも少し客が入っていた。
キュノさんはいない、か…
ジロッソさんを見つけて駆け寄った。
「ただいまー!!」
「おぉー!!ルリ!!」
抱きしめてくれるたくましい腕は、まるでお父さんのように心地良かった。
「元気にしてたか?」
アレ以来、訪れるのだ。
ジロッソさんが優しく頭を撫でてくれた。
「……うん。大丈夫」
「そろそろご挨拶してもいいかな?」
ヴァイスが申し訳なさそうに声をかける。
「あ!ごめん!」
ジロッソさんとの間に入り、紹介した。
「ジロッソさん、新しい仲間の、エクルとヴァイスです」
「ヴァイスです」
丁寧に挨拶するヴァイスに対して、エクルは私の後ろに隠れて恥ずかしそうにしていた。
まだ人族には慣れてないかな。
「おー!仲間かー!よかったな、ルリ!」
「じゃぁまた鍋いっぱいに作らなきゃな!」
私は鍋を出した。
「スープ!…美味しかった…」
スープに反応したエクルが少し声を出したが、またすぐ後ろに隠れてしまった。
「ははっ!スープ美味しかったか?」
そんなエクルに対し、しゃがみ込んで、優しく声をかけてくれるジロッソさん。
「……うん」
「よーし、待ってろ、うまいの作ってやるからな!」
「うん!」
ジロッソさんの笑顔が、エクルにも伝わった。
3人を席に案内して、料理を待つ間、私は少し席を外した。
しばらくして机に戻ろうとすると、店内が何やら騒がしくなっていた。
「ここにいるのは分かっている!!」
「さっさと出すんだ!!」
ジロッソさんを怒鳴りつけている。
「スギノルリを出せと言っているんだ!!」
「この店がどうなってもいいのか!!」
多くの兵士を連れて店内で騒ぐ男。
勇者ではない。
けれど、どこかで見たことがあるような…
私に気付いたヴァイスが静かに近付いた。
「一体どうしたの?」
「突然店に入って来たと思ったら、素性も明かさず、ああやって騒いでいる」
「知り合いかい?」
「いや、知らない、と思う」
「そうか…。身なりからして、高貴な者ではありそうだけどね」
誰だか知らないけど、これ以上、ジロッソさんの店で暴れられてたまるか。
私はあることを思いついた。
「早く出すんだ!!」
今にもジロッソさんを殴りそうだ。
その時、店内の床が青く光り輝いた。
「何だ!?」
魔法陣が浮かび上がり、突風が店内を走る。
店にいた全員の注目を浴びて、光の中から現れたのは、
私、スギノルリだった。
「ジロッソさんから離れて」
「ルリ!?」
男を睨みつける私に、ジロッソさんが驚いている。
男は、突如現れた私に混乱して口が空いたままだ。
「何をしたのだ!?」
「さぁ?魔法使いなら出来る何かよ」
私がした事は、【転移】だ。
前にラピスが店内につくった転移口に移動したのだ。
何もない所から突然現れた私を見て、全員が驚いていた。
普通に魔法陣から現れるだけでも良かったのだが、
どうせならと、風をつかって少し演出を加えといた。
「はっ、A級冒険者というのも、嘘ではないようだな。少しは実力があるようだ」
「スギノルリ、だな?」
高圧的な口調。
私は無言で席についた。
「こっちを見たらどうだ!」
声を荒げる。
「誰?何の用?」
私は椅子に座ったまま見上げた。
金色の髪に、青い瞳。
思い出したくもない、面影だった。
「貴様!誰に向かって偉そうな口を叩いている!」
「知らない、誰?」
変わらない私の態度を見て、近くの椅子に乱暴に座った。
その後ろに立った兵士が、代わりに紹介してくれた。
「このお方は、スート国第一王子のゼニス様です」
第一王子…
どうりで、あの国王にそっくりなわけだ…
「はっ、これでわかったか」
偉そうに腕を組む。
王子を無視し、運ばれて来たご飯に手をつけた。
「貴様!この俺の話を聞かぬのか!」
「見てわからない?食事中なの。話があるなら終わるまで待ってたら」
「食事?はっ、今すぐ俺と一緒に来い。こんなものよりよっぽど上手い物を食べさせてやる」
「お断りします」
イラついた王子が席を立ち机に近付く。
「いいか?一度しか言わん。俺の妃となり城に来い」
空気がピリつく。
「妃となれば何不自由ない暮らしをさせてやろう」
「貴様はただ、与えられた役目を全うしろ」
「それは困りますね」
ヴァイスが立ち上がる。
「お前如きが、この俺の話を遮るな」
「私も他国の王子です。貴方と立場は同じではありませんか?」
「はっ、王子だと!?」
威勢よく突っかかる王子だったが、ヴァイスに近付くと、その大きさに少し怯んだ。
「私も彼女を伴侶にと思っていますので」
「えっ!?」
獣族王が言ってたやつ?
いやいや、この場を収める為の方便か。
ラピスの怒りが凄いけど、さすがにそれをわかってか、大人しく座っていた。
「はっ、冒険者ごっこの次は、男漁りか!」
「【召喚者】としての自覚を持ったらどうだ!」
「誰が召喚したと思っている!!貴様はこの国の為に戦うものだと決まっているのだ!!」
店内が静まり返る。
この王子…
なんて事を言ってくれるんだ。
店中に聞こえる大きな声で。
【召喚者】だということが、バレちゃったじゃない!
「とにかく、貴様はこの俺の妃となり城へ来るんだ」
二度目言ってますよ。
無理やりに腕を掴まれ、立たされる。
カランッ
スプーンが床に落ちた。
「ちょっと待った」
スギノルリ、を助けてくれるのは誰!?




