4話 初級魔法
スギノルリ22歳、ついに、魔法使いになりました!
街の外へ出てきた。
「すごい…!」
遠くに山が見える以外、だだっ広い草原が広がっていた。
いや、よく見ると草木がなく岩や砂だらけのところも見えている。
現実世界にいた頃は、修学旅行以外で遠出したことなんてなかったから、こんな景色を見たのは初めてだ。
魔王に魔物…
この世界の現実を聞いて、少し怖くなったのは事実だ。
でも、私に帰る場所なんてない。
この世界で、魔法使いとして、やっていくしかないんだ。
「よし!」
私はステータスを開いた。
使えるようになった魔法は4つ。
火球
水弾
風刃
回復
「4つ?たった4つなわけ?」
わたしはステータスを何度も確認した。
けれど、どこを探してもこの他に魔法はなかった。
「いくら初級だからって4つとか…。この魔導書作った人の悪意が感じられるわ…」
「確かに、これだけしか覚えれない魔法使いなんて、皆なりたがらないよね」
「まぁ、とにかくやってみるか!」
「回復は今は必要ないから、とりあえず他の3つを試してみよう」
掌を前に出し、集中する。
魔導書に手を当てた時に感じた魔力を想像するんだ。
「火球―かきゅう―!!」
ゴォォォォォォーーーー!!!!
「おぉ!!」
掌の前に魔法陣らしきものが現れ、そこから勢いよく炎の塊が飛び出した。
「いいねいいね!個人的には、ファイアボール!!って叫びたい気分だけど」
「次は…、水弾―すいだん―!!」
ザザザザザザザッッ!!
同じように、魔法陣から今度は大きい雨粒のような水がたくさん出てきた。
水弾…、水の銃弾って感じか。
「最後は、風刃―ふうじん―!!」
シュパッ!!
「おぉ!!」
鎌のような、三日月のような形をした風が、草を切った。
「火、水、風。初級らしい魔法たちって感じね」
それにしても、弾とか刃とか、がっつり日本語…
なんだろ、翻訳してくれてるのかな?
名前で技名が想像出来るのはありがたいんだけど、個人的には、ファイアーボール!とか叫んでみたかったなー
「とりあえず、技の内容は分かった。でもまだまだ威力低いなー。しばらくはレベル上げだな!目指せレベル10!」
中級魔導書を買うにはレベル10以上が条件。
お金も貯めなきゃだし。
「ん?モンスター何体倒せば1000Gになるんだろ?」
「……。とにかく実践あるのみ!」
「さて、と…」
私は周りを見渡してモンスターを探した。
「いた!」
これは、ウサギ…?
草むらに隠れるようにいた小さい動物。
てっきりプルプルした丸いやつが出てくると思ったけど…。
「これは、モンスター?それともただのウサギなの?」
赤い眼をしたウサギの前に屈んで様子を見ていると、普通に噛まれた。
「痛いっ!」
【―10ダメージ!】
目の前にウィンドウが表示され、体力が減っていた。
モンスターじゃん!
「火球!!」
キュウゥゥ〜〜
【レベルアップ】
「おぉ〜!」
「初めて魔法使った…。モンスター倒した…」
掌を見て、ぐっと強く握りしめた。
【報酬:魔石】
【報酬:モンスター】
ウサギの額のあたりから、魔石が出てきた。
透明な、ビー玉のような石だった。
「モンスター?とは?」
【このモンスターを捕獲しますか?捕獲しない場合は消滅します】
モンスターも売れるんだよね?
「捕獲、で。ん?どうやって持って帰るの?」
【スキル:アイテムボックス】
スキル?そういえば、1つだけスキルあったんだった。
アイテムボックスって何だろう…
目の前に、魔法陣が現れた。
「もしかして、四次元収納的な?入れれるの?」
私は、恐る恐る、手に持っていた魔石を魔法陣の上に置いた。
【アイテムボックスに魔石が収納されました】
魔法陣に吸収されるように魔石は消え、代わりにステータスが表示された。
「ウサギもいけるってこと?え、でもやだな、触るの…」
「動かせないかな、魔法陣」
魔力を意識して魔法陣を見ると、すーっとウサギの下に移動し、吸収した。
【アイテムボックスにモンスターが収納されました】
アイテムボックス欄に、モンスター:ウサギ1、魔石1となっている。
「へぇー、手ぶらでいいんじゃん!何体でも収納出来るなんて便利」
ふと、手から血が出ていることに気づいた。
「そういえば、ダメージ受けたんだった」
「回復!」
ブウゥーン…
光に包まれ、ウサギに噛まれた傷が塞がった。
「治った…」
ステータスを見ると、体力が戻っていた。
そして、
「魔力…、変化なし!」
やっぱり、魔力無限大♾は間違いではないんだ。
これなら、いくらでも戦える!
魔力不足の役立たず魔法使いなんて言わせない!
「よーっし、レベル上げするぞー!」
それから私は、ひたすらレベル上げに没頭した。
魔石とモンスターも忘れずにアイテムボックスへ入れていった。
いつのまにか暗くなっていたが、そんなことは気にもせず、私は魔法を打ちまくった。
体力が減る度に回復をしたが、何しろ魔力が減ることがないのだ。
私は、夜中モンスターを倒しまくった。
―何かに夢中になると、時間を忘れて没頭してしまうことです!
そう、それは履歴書に書いた言葉だ。
昔から、ゲームを始めると夜な夜なレベル上げをしてしまう性分なのだ。
けど今日の私は、いつものそれとは違った。
今日1日、いろんなことがあった。
就職の面接に行く所だったのを異世界に召喚されて。
なのに、役立たず魔法使いと言われて。
国王と勇者に見下されて。
私はまだ、この状況を全て受け入れれたわけではない。
むしろ、怖くて仕方がないのだ。
だから、強くなりたい。
この国で、この世界で生きていける力を、身につけるんだ。
そんなことを思いながら、私は魔法を使い続けた。
【レベルアップ】
それを確認して、私は仰向けに倒れ込んだ。
この世界の空を見るのはこれで2度目だ。
「キレー…」
無数の星々が輝いている。
こんなにたくさんの星は見たことがない。
けれど、知っている星座は一つもなかった。
そして、月が2つあった。
涙が横に流れた。
私は目を閉じて、深呼吸をした。
しばらくして夜が明け、私は街へと戻った。
スギノルリ、この世界で、魔法使いとして生きていきます!