41話 魔法使い
スギノルリ、王都へ戻ります!
西の泉から、転移で帰ってきた。
転移門の魔法使い達と目が合うと、軽く微笑み返してくれた。
そういえば、転移門はエルフと人族に頼んでいるって言ってたけど、エルフの姿は見ないな。
いつも居るのは人族な気がする。
事の報告をしなきゃだよね。
「とりあえず、お城に行ったらいいのかな?」
城に向かって広場を歩いていると、たくさんの視線を感じた。
パッセさんの商店の時に感じた、虐げる視線ではない。
自惚れではなくても、好奇や尊敬な目で見られていると感じることができた。
「お姉ちゃん、魔法使いなの?」
一人の女の子に声をかけられた。
「すみませんっ!急に話しかけちゃダメじゃないっ」
母親らしき人が女の子の手を引いた。
「うん、そうだよ」
私はしゃがんで返事をした。
「すごーい!」
まるでヒーローかお姫様を見ているかのように喜んでいる。
猫の獣族の女の子は、愛嬌もあって見ていてとても可愛かった。
「ねぇねぇ、魔法見せて?」
「魔法を?」
「うん!」
「えーっと……」
私がどうしようかとエクル達を見ると、優しく頷いてくれた。
城に行かなくちゃだけど、少しくらいなら大丈夫かな?
でも魔法を見せるって何を見せたらいいんだろ。
火球は危ないし、水弾は水だから嫌がるかな…
「よし!」
私は扇を手にした。
そしてそれを、体操選手のリボンのように、下に向かってクルクルと回した。
すると、小さな竜巻が出来たので、私はそれを女の子の周りで動かした。
「すごいすごーい!」
いつも風をつかう時は無詠唱無魔法陣なのだが、今回は、魔法だと分かりやすくする為に魔法陣は見えるようにした。
青色の魔法陣が至る所に現れるので、女の子は驚きながらも、夢中で追いかけていた。
次に私は扇を開いて、舞いを踊るように自身と扇を上下左右回した。
扇の先から伸びる風が周辺に伸びて、最後は空へと放った。
「わぁ〜!!」
手を叩いて喜んでくれるその笑顔が嬉しくて、私は少し調子に乗った。
「高い所は平気?」
「うん!」
「よーし、じゃぁいくよー!」
私の掛け声と共に、魔法陣に乗った女の子が、空へと舞い上がる。
まるで透明のジェットコースターのコースを走っているかのように、広場の上空を滑っていく。
今まで静かに見ているだけだった周りの人達からも歓声が上がった。
何周か回った後、ゆっくりと降りて来た女の子も興奮状態だった。
「凄い凄い!!とっても楽しかった!!」
大喜びの女の子を見て、それぞれ母親の後ろに隠れて見ていた他の子供達が駆け寄ってきた。
「わたしも今のやりたい!」
「ぼくも!」
「わたしも!」
5.6人の子供が詰め寄った。
おぉ、どうしよう…
私は、前に使っていたマントを取り出して地面に広げた。
「よーし、じゃぁ皆、コレの上に乗って座って!」
子供達に混ざっていつのまにかヘーシュも乗っていた。
戸惑いながらも乗る子供達が、全員上で座ったのを確認して、
「それでは出発しまーす!ご注意くださーい!」
ゆっくりとマントが浮かび上がる。
「出発進行ー!!」
私の扇の合図と共に、前進し上昇していく。
その後は、さっきの1人ジェットコースターのようにマントが空を舞う。
子供達の楽しそうな声が広場に響き渡った。
それを見ている人達も皆、笑顔だった。
子供達と母親にそれぞれお礼を言われ、手を振って別れた。
よかった。
パッセさんの言っていた通り、この国での魔法使いの立場は悪いものではないらしい。
魔法を使えない獣族にとって、魔法使いは未知なるもので、興味の対象なんだろうな。
そしてだからこそ、王弟ビアンと、赤竜の相性は最悪だったのだろう。
思い出すと、また胸が苦しくなった。
「ずいぶんと奉仕したな」
黙って見ていたラピスが言った。
「なんか、嬉しくて」
「魔法使いとして、求めてもらえたことが」
この世界に来てから、ずっと虐げられてきた。
【役立たず】と言われ、存在を否定された。
その私が、魔法使いとして見てもらえた。
そのことが、何より嬉しかった。
スギノルリ、一転、人気者でした!




