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3話 魔導書


 スギノルリ、魔導書買いに来ました!



 カランカランッ


 「こんにちは〜」


 おじさんに教えてもらった魔道具店へとやってきた。



 「あら?お客?」


 店の奥に、何冊もの本が積み重ねられている机がある。

 そこに座っていた女性が本の隙間から顔を出した。


 「いらっしゃい」


 読んでいた本を机に置き、立ち上がる。


 「何をお求めで?」


 美女…というか、美魔女?

 年齢不詳だけどとにかく綺麗な女の人だ。

 長い赤髪に緑色の瞳、黒い服を着ている。

 服装からして、この人も魔法使いなんだろうか…


 「おーい、もしもーし?」


 「あっ、すみません、魔導書ください!」


 「魔導書?」


 「はい、それがあれば、魔法使えるようになるんですよね?」


 「…。なるよ、一応ね」


 一応?


 「珍しいね」


 「何がですか?」


 「今時ここに魔導書買いにくるなんて。ギルドに卸すようになってからは、大体皆あっちで買うのに」


 「へぇ〜、いやでも!魔法使いたるもの、魔導書は魔道具屋で買わないと!」


 「はははははは!!」


 自信満々に答える私を見て、美魔女が笑っている。


 「面白いね、アンタ」


 「知らないの?この国で魔法使いがなんて呼ばれているのか」


 美魔女が真っ直ぐ私を見る。


 「知ってます。それでも私は魔法使いになりたいんです」


 「どうして?」


 「私にはそれしか取り柄がないので…」


 魔力無限大♾だし!


 「私が、役に立つ魔法使いになってみせます!」


 「………!」



 美魔女は、けなすわけでも、喜ぶわけでもなく、ただ少し笑った。




 「魔導書ね」

 

 机の上に3冊の本が並べられた。


 「左から、初級魔導書、中級魔道書、上級魔導書」


 「おぉ〜!」


 「初級はレベル制限なし、中級はレベル10以上、上級はレベル30以上じゃないと使えない」


 「初級100G、中級1000G、上級10000G」


 「上級高っ!誰でも買えるんですか?」


 「魔力のある人間ならね。」


 「なるほど」


 私の今の手持ちでは、初級しか買えない。

 しかもそれは宿代2日分だ。

 つくづく、これだけしかない支度金に腹が立つ。


 「初級ください」


 「オーケー、じゃぁ手出して」


 言われるように、魔導書の上に手を乗せた。


 「魔力を込めてみて」


 魔力をこめる?そんなのやったことないし!


 でも不思議と、出来る気がした。


 私は、体のどこかに宿っているであろう魔力を手のひらに集中させた。



 ブゥーン……!


 魔導書が光を放つ。

 そして、表紙に描かれていた紋様が手の甲に映し出されたと思ったら、魔導書が消えてしまった。


 「えっ!?」


 困惑する私を見て、美魔女が言った。


 「ステータスを見てみな」


 私はステータスを開いた。

 そこには、今まで空欄だったはずの魔法欄に文字が表記されていた。


 「魔導書はアンタの一部となったのさ」


 「これで…魔法が使えるってこと?」


 私は手のひらをじっと見て、強く握りしめた。


 「まだ、とりあえず魔法が使えるようになっただけさ。技の精度と火力はアンタ次第」


 「イタっ!」


 美魔女が私のおでこを人差し指でつついた。


 「せいぜい頑張んな、魔法使いさん」


 「……はいっ!」



 私がルンルンで店を出ようとすると、美魔女にとめられた。


 「アンタ、薬草とかもってんの?」


 「薬草?」


 「回復アイテムだよ!」


 「もってない。けど、魔法使えるようになったからもういらないんじゃ…」


 美魔女が呆れている。


 「アンタねぇ〜。薬草と魔力回復薬は常備品だよ!」


 「へぇ〜、えっと、いくらですか?」


 「いーよ、初回サービス。頑張ってレベル上げて、中級買いに来な」


 「ありがとう!」



 「あたしはキュノ、アンタ名前は?」


 「私は杉野…」

 

 「ルリ!私の名前はルリです!」

 


 


 「キュノさん、ありがとう!」


 私は魔道具店を出た。



 「よーっし!魔法使うぞー!!」


 「……って、どうすればいいの?」


 キュノさんに聞きに帰ろうかと思っていたら、広場が賑やかなことに気付いた。


 私はスープのおじさんの元へ向かった。


 「おじさん、何かあったの?」


 「おう、姉ちゃん、そこの掲示板見てみな」


 おじさんが指差した先の掲示板に人だかりができていた。


 ―召喚者現る!勇者と祈り子が、この国を栄光に導くであろう!―



 ……!!


 「…召喚者?」


 私は知らないふりをした。


 「異世界から、力をもった者を召喚して、この国を救ってもらうんだと」


 「へぇ…」


 「しかも勇者と祈り子かー、こりゃこの国も安泰だな!」


 掲示板に貼られた紙には、召喚者2人と、あの国王が気持ち悪く笑っている写真が載っていた。


 「召喚者って、何するの?」


 「姉ちゃんは本当に何も知らないんだな?」


 「この国、いや、城の外には魔物がいる。もちろん、それを退治する騎士団はあるし、ギルドに登録している冒険者達だっている」


 「けれど、魔王を倒さない限り魔物がいなくなることはない。だから、どの国も躍起になって魔王討伐に力をいれている」


 「だから勇者を召喚するの?」


 「魔王は勇者じゃないと倒せないってわけではないんだが、勇者や召喚者はこの国の人より優れた能力をもっていることが多いんだ」


 「祈り子とか?」


 「そう!魔力なし回復なんて反則技、召喚者じゃないと出来ないよな!」


 魔王に魔物…

 私はそんな世界に召喚されたのか…



 「そういえば、姉ちゃん、魔導書は買えたか?」


 「あ、そう、ありがとう!無事買えた!」


 「珍しいな、魔法が使いたいなんて」


 おじさんまで…。

 この世界での魔法使いの立場は、本当に良くないらしい。


 「いいの!私魔法使い好きだから!」


 満面の笑みで答える私に、おじさんは少し驚いていたが、その後優しく笑って、


 「聞かせてやりたいよ、その言葉」


 「え?誰に…?」



 おじさんからの答えはなかった。

 それ以上、聞くことも出来なかった。


 

 「そうだ、おじさん!魔法の練習というか…、魔物ってどこにいるの?」


 「レベル上げか。それなら、西門から出たあたりがいいんじゃないか。あそこならそんな強い魔物もいない」


 「ありがとう!」


 「あんまり遠くまでは行くなよ。魔物が強くなるから」


 「わかった、気をつける」


 「メシは?手ぶらで行く気か?」


 おじさんに水とパンが入った袋を渡された。


 「いくらですか?」


 「いーよ、初陣祝い。無事に帰って来いよ!」


 「ありがとう!あ、スープは買う!ください!」



 「頑張れよ!」


 おじさんが拳を私の方へ向けた。


 「うん!」


 私もその拳に応え、街の外へ向かった。




 スギノルリ22歳、ついに、魔法使いになりました!



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