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38話 西の泉


 スギノルリ、泉へ!


 

 夜の森を進んでいく。


 灯りは付けない方がいいと言うから、月明かりを頼りに歩く。


 「痛っ!」


 枝に腕をかすめる。


 「大丈夫?」


 「うん、たいしたことないから」


 エクルが心配そうに近寄った。


 「見せろ」


 押さえていた傷口を、ラピスに強引に見られた。


 「全く…」


 回復魔法をかけながら、ため息をつかれた。



 「行くぞ」


 手を引かれ、立ち上がる。


 そのまま、握った手が離されることはなかった。


 人族の姿の後ろ姿が、なんだか頼もしく見えた。


 ラピス、たまに優しい所あるんだよね。


 

 「こんな暗い中、よく道がわかるね」


 「俺もアイツも、夜目が効くのだ」


 先頭を進んでいくエクル。


 結局、何の獣人なんだっけ?




 しばらく歩くと、空気が変わった。


 この感じ、覚えがある。


 ラピスと出会った、あの山から感じた気配だ。


 

 「着いたぞ」


 

 その場所は、今まで歩いてきた樹が生い茂る森とは違って、泉の周りに草花だけが咲く、開けた空間だった。


 遮ることない月光が、泉の水面を照らしていた。



 「うぅ……」


 ここまで平然としていたエクルも、さすがにこの場所は苦しいようだ。


 「少し離れて待ってて。花はとってくるから」


 力なく頷き、森の中へ戻って行った。


 

 「さて、と」


 私は前を向いた。


 エクルは何の獣人か?


 その答えが今、目の前に巨体として現れていた。



 「白い、虎…」


 純白の、輝く毛並みの大きな虎だった。


 尖った牙に大きな鉤爪。


 獣族王と同じ、獲物を捕らえるような猫のように鋭い眼。


 まだ距離はあるのに、その眼に見つめられて、動く事が出来ない。


 

 「ガルルルル……」


 「私はルリと言います!話を聞いてください!」


 私は遠くから叫んだ。


 「ガァァァアーーーー!!!!」


 威嚇のような叫び声。


 話は聞いてくれないようだ。


 この感覚、懐かしいな。


 誰かさんも初めは全く話聞いてくれなかったもんなー。



 私が思い出していると、


 「何を笑っている」


 「えっ!?」


 やばい、顔に出てた?



 「気を引き締めろ」


 「わかってる」


 「何やら様子がおかしい。結局夜に来てしまったしな」


 

 「ビアン!我がわかるか!?」


 「ガルルルル…」


 ラピスの言葉にも反応がない。


 というより、これは…


 「やはりか…」


 ラピスの表情が険しくなった。


 「ルリ、話は後でする。とりあえず、王弟を倒すぞ」


 「え?」



 そう言うと、無数の魔法陣がラピスの前に現れた。


 

 「雷槍!!」



 「ガァッ!」


 「速っ!」


 雷槍を避けるなんて、なんて速さなの!?


 それでも、2発かすめたらしく、少し血が出ていた。


 「素早いならば、その足を止めてしまえばいい」



 ラピスはそう言うと、魔法を唱えた。


 「岩塊―がんこん―」


 巨大な岩の塊が、王弟の周りを埋め尽くす。


 これで避けられまい。


 「雷槍!!」



 シャッシャッ


 岩の上に飛び移り、逃げる。


 「凄い身のこなし…」



 「地裂―じれつ―」


 怯む事なく、ラピスが魔法を唱える。


 地面が裂け、足場が崩れていく。



 バランスを崩し逃げきれなかった王弟に、雷槍が突き刺さる。


 「ギャオォォォォーーーー!!」

 


 大きな巨体が音を立てて倒れた。


 ラピス、やっぱり強い……


 私が勝てたのって、運が良かっただけなんじゃ…



 ラピスが王弟に近付く。


 「我の言葉がわかるか?」


 「ガルルルル…」


 立ち上がることは出来ないが、上体を起こし、威嚇していた。


 「……やはりな」


 「どうかしたの?」


 「操られている」


 「!?」


 誰に?何のために?


 「ビアンはこのように頭の悪いやつではない。魔物のように言葉を話さないなどおかしい」


 そういえば、虎の鳴き声ばかりで、言葉を聞いていない。


 「…どうするの?」


 「………」



 初めに王弟が居た辺りに、青い花が咲いていた。


 私は、それを取りに向かった。


 様子を感じてのぞいていたエクルに花を見せると、ほっとした表情をしていた。


 


 「ガァー!!」


 「えっ!?」


 王弟が【氷矢】を放った。


 魔法!?


 どうして!?


 「ルリ!!」


 ラピスの障壁で攻撃を防いだ。


 けれど、ラピスが私を心配して駆け寄ってくれた隙に、王弟が森へと逃げてしまった。


 「追いかけなきゃ!」


 「お父さん!?」


 エクルが王弟の後を追う。



 私が走って追いかけても、王弟とエクルには全く追いつかない。


 なんて速いの…


 ラピスに深傷を負わされてたんじゃなかったの?


 風で追う?


 でも、こんな樹が密集している所をうまく飛べるかな…



 「ルリ、乗れ!!」


 竜のラピスの背中に乗り、森の上空へと舞い上がった。


 どこ…どこに居るの?


 この暗闇の中、森の中を走る王弟の姿がわからない。


 「どうして魔法を使えたの…?」


 獣族は使えないはずじゃ…


 「……王弟を操っている者の力だろう」




 「キャァァァァァアーーーー!!!!」


 叫び声!!


 「ラピス!ヘーシュが危ない!!」


 私達は森の入り口へと急いだ。


 


 スギノルリ、急ぎます!




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