30話 刀
スギノルリ、獣族の国を目指します!
第一目的だった、情報は手に入れた。
創造国に来た目的はもう一つある。
獣族の国へ行く前にこっちにも寄っとかないとね。
シャンシャンリンシャンリンシャン…
「ジエラー!!」
私は勢いよく扉を開けた。
けれどそこにジエラの姿はなく、代わりにいた巨人二人が私を睨んだ。
え?巨人?
「おー!お客さんー!」
奥の部屋からジエラが顔を出した。
「ジエラ!よかった!」
私を警戒していた巨人がまた扉の前に戻った。
「……えーっと、もしかして、ここにもシルバーウルフきた?」
「そうなんですよーー!!もー、すっごくびっくりしましたー!!」
興奮して話すジエラ。
「面と向かって、ギルド長と話すことなんてめったにない事なんですからねー!!」
「先にお客さんから一度実物見てなかったら、何がなんだかわからない所でしたよ!!」
困った様に、でも嬉しそうに、この1ヶ月に起こったことを話してくれた。
予約販売の問い合わせが殺到しているようで、それでも、嬉しい悲鳴、といったところのようで安心した。
クロムの店同様、一流店への仲間入りが出来たようだ。
ある程度の話を聞いて、やっと落ち着いたジエラに、
「出来てる?」
「……はい!」
ジエラの顔付きが変わった。
奥の部屋へ戻り、布に包まれた長い物を抱えて戻ってくると、それを机の上に置いた。
「どうぞ…」
私の目を見ることなく机から一歩下がったジエラの手が、少し震えていた。
布を取り、右手で武器を持った。
私の身体の半分以上の長さがある。
細く長い、けれど、ずっしりとしたこの重み。
初めてこの店を訪れた時、店の外から見えた武器。
これに引き寄せられて、私はここへ来たんだ。
「うん」
鞘から抜き出し、光を浴びて輝く濃紺の少し反った片刃。
そう、これはただの長剣ではない。
間違いなく、【日本刀】だ。
この世界で、武器屋に長剣として並べられているのは云わゆる、【西洋剣】だ。
【西洋剣】とは、ゲームで〇〇ソード、と呼ばれるような、真っ直ぐな両刃で重厚なものだ。
十字架のように左右対称な形で、鍔も、左右両手で握れるくらい長いものが多い。
長剣を振り回して威嚇、お互いの剣を打ちつけ跳ね飛ばし、相手の懐に入って刺す、突き、貫くことで倒すように作られている為、硬く、頑丈に出来ている。
【日本刀】は、それとは性質が全く異なる。
反りのある片刃に、鍔は拳程の大きさで円形になっているものが多い。
斬り抜く、ことを主としているので、細くしなやかだ。
相手の懐に入ることなく、抜き去る。
馬上の武将のように、侍のように。
多少の形の違いはあるけど、私が見てきた武器屋にあった剣は全てが【西洋剣】で、【日本刀】は一つもなかった。
この店を除いて。
「ありがとう、最高の仕上りだよ」
ラピスの鱗から創られた、全身濃紺の刀を同じく濃紺の鞘へとしまった。
「この刀のつくり方は、他とは違いますー」
「え?」
「おじいちゃんが、私に遺してくれましたー」
「いつか、この刀を必要とする人が現れるだろうからーと」
「この刀が特別なことは、私でもわかりますー」
「だからこそ、怖かったー」
「いざ、つくってくれと頼む人が現れることも、ちゃんとつくれるかどうかもー」
椅子に座り、下を向いたままジエラが黙った。
私は、ジエラの前で膝を付き座り、強く握られた拳を両手で覆った。
「ジエラ」
シャラン…
金色の髪が、耳飾りを揺らした。
「ありがとう」
留めていた涙が流れ落ちる。
何百年と受け継がれた重責からの解放を、私は静かに見届けた。
私は刀をアイテムボックスへとしまった。
「使わないですかー?」
ジエラが寂しそうに見た。
「私にはコレがあるからね」
既に腰に差している長剣を触った。
「この刀は、この性能を十分に引き出してくれる人に託したいんだよね」
「当てがあるのか?」
「誰よりも速く、目にも止まらない。そんな人がこの刀を持ったら面白いと思わない?」
ジエラの店を出た後、広場へと降りて来た。
やっぱり、一言お礼言っといた方がいいよね?
ギルドの中へ入ると、視線が集中した。
一瞬静まり返った後、ヒソヒソをこちらを見て話している。
「なぁ、あれって確か…」
「シルバーウルフ倒したって本当なのか?」
「魔法使いなんでしょ?」
受付カウンターへと向かう数歩の間に、ギルドにいたほぼ全ての人の視線を感じた。
尊敬と疑心が混ざり合った、品定めされているような、居心地の悪いものだった。
受付にいたのは、前も対応してくれた女性の巨人だった。
「ルリさん!お久しぶりです!」
私を覚えてくれていたことが嬉しかったのと、少しホッとした。
「えっと…、エルムさん、でしたよね。こんにちは」
「今日はどうされました?」
「ギルド長にお会いする事って可能ですか?」
「はい、確認しますのでお待ちください」
「予約もなしにギルド長に会えるのか?」
「まさか、そんなこと…」
「お待たせしました」
ギルド長のピーコックと副ギルド長のセージが出て来たことで、ギルド内が騒ついた。
ギルド長は、そんな周りの状況を理解しているようで、部屋に案内されることなく、その場で話をはじめた。
「シルバーウルフの出来はいかがでしたか?」
その言葉に、全員が耳を傾けた。
「国王からの直々の指示で、私がルリ様の専属職人へ届けました」
シルバーウルフと国王、この2つの言葉だけで、その場にいた人を全員黙らせ、さらには納得させた。
「今回の件は、ご配慮いただきありがとうございました。おかげさまで、良い道具を手に入れることが出来ました」
「2人の職人も、大変喜んでいました」
「それは良かった」
ギルド長がにっこりと微笑む。
凄い…
A級冒険者という肩書きは、私が思っていた以上に地位あるものだったようだ。
クロムとジエラの店が繁盛するのもわからなくない。
魔法使いの立場を、変えることが出来るかも…
スギノルリ、今後こそ獣族の国目指します!




