22話 巨人の王
スギノルリ、A級冒険者になりました!
実はホッとしてるんだよね。
ケーンさんに言われた青色の花の薬草、エクルにあげちゃったから、A級になれないと思ってたから。
よかったよかった。
広場の宿を出た。
シャンシャンリンシャンリンシャン…
「おはよー!」
「おはようございますー!」
ジエラが元気に迎えてくれた。
「できてますよー!」
店の奥から布に包まれた細長い物体を持ってきて、机の上に置いた。
「こちらですー」
布をとると、長剣が現れた。
ラピスの鱗からつくられたその剣は、剣身から柄まで全て濃い青色をしていた。
一色で一見シンプルなデザインのようで、鍔に描かれた繊細な紋様。
そして、真っ黒な魔石が存在感を放っていた。
私は剣を握り、光にかざした。
瑠璃色の剣が、きらきらと輝いていた。
「…いい!めっちゃいい!!」
ずっと黙って剣を見ていた私を不安に思ったのか、今にも泣き出しそうだったジエラの顔が一気に笑顔になった。
「よかったでーす!」
「ありがとう、うん、凄く気に入った」
手の感触、重さ、空気を切る音。
どれもとても心地の良いものだった。
「じゃぁ、これからが本番」
「え?」
「つくってほしいものがあるの」
私は扇を机に置いた。
「形はコレをベースに。あとは、さっきの長剣と同じ感じでつくってもらえる?」
「…これは、扇、ですよ?」
「そうだね」
「…扇は武器じゃないです」
黙ってしまったジエラを見て、私は立ち上がった。
「ソレで、私のこと攻撃してみて」
「え?」
机の上の剣を指差した。
「大丈夫だから」
「…どうなっても、知らない、です、よ!」
勢いよく振り下ろされた剣を、扇で受け止める。
「あと、ラピス!あっち行ってー、受け止めてね!」
文句も言わず肩から飛んでいき、入り口のほうへ行った。
―風刃!!―
無詠唱で扇から放たれた風刃を、ラピスがバリアで防いだ。
ジエラが呆然としている。
「一体、お客さん何者ー?」
「私ね、魔法使いなの」
「魔法使い…」
「そう。でも今ジエラが驚いたことも、全部魔法でやったこと」
「今のが魔法ですか!?」
「私は、この世界の魔法使いのイメージを変えたいの」
「変える…」
「役立たずなんて、言わせない。最強の魔法使いになってやる!」
「!」
「その為にも!!」
ジエラの手を握り目を見る。
「ジエラにこの武器をつくってほしい」
「見たこともない武器で、見たこともない戦い方。有名になると思わない?」
「それは…」
「ジエラ、A級冒険者のお抱え職人になってくれない?」
私は冒険者証を見せた。
「えっ!?A級!?」
黙って頷く。
「昨日まで、C級だったのに…。何したら1日でA級になんてなれるんですか!?」
「私が普通じゃないってわかってくれた?」
「……。私でいいんですか?」
「ジエラのつくる武器がいーの!!」
「……!!」
涙をためて頷いて答えてくれた。
「……少し時間ください」
「今日が2日目だから…。5日後の朝に来るよ」
「わかりました」
ラピスの鱗と、ウサギの魔石でつくった黒い石を置いて、店を出た。
「さーって、まだまだ時間もあるし、創造国観光しますか!鍋!どこだー!」
広場への階段を降りていると、1人の巨人に道を塞がれた。
後ろにも、2人いる。
「何?」
「我が主人がお呼びです。御同行願います」
誰?どうしよう…
でも下手に手を出したら連行されるかな…
なら空を飛んで逃げる…?
「従っておけ」
ラピスが小声で教えてくれた。
巨人達に案内された場所は、私がこの国に来て最初に見た場所。
こんな所、行きたくもないし行けるわけもないと思っていた場所だった。
そう、それは、この国で一番高い所にあるもの。
「ここでお待ちください」
天井が高い。
スート国の玉座とは比べものにならない広さと大きさだ。
「ジェード国王陛下のお越しです!」
屈強な巨人達が片膝をつき頭を下げる。
その場が凍りつく威圧感。
間違いなく、この国で見た巨人の中で一番だ。
「久しいな、青竜」
「500年ぶりか?片割れはどうした?」
えっ?
肩に乗っていたラピスが、飛び上がり、人族の姿になって私の隣に立った。
「ジジイ、まだ生きていたのか」
「はっはっはっ!!変わらんなぁ!!」
笑い声だけで風圧がくるってどんだけ…
「今更、この国に何のようだ?」
「我の意思ではない。主人が望んだことだ」
「主人だと?」
今まで視界にも入ってなかったであろう、巨人の国王が私の存在を確認した。
私は黙って頭を下げて挨拶した。
「人族の娘か?」
「はい」
どうしよう…
何も言わずただめっちゃ見られてるんですけど…
「なるほど、面白い娘だな」
「あぁ」
「娘、名は?」
「ルリ、と言います」
「ルリ、この国へは何をしに?」
「武器をつくりにきました」
「ほぉ、武器か。気に入った職人はいたか?」
「はい。ジエラさんと言う職人にお願いしています」
「…ジエラ?」
国王が横にいた他の巨人に何かを聞いて、その巨人が頷いていた。
「ふっ、そうか、この国を楽しんでいかれよ」
「はい、ありがとうございます」
「青龍よ、悪かったな。最近、西が何やら騒がしいようで気を張っていたのだ。おぬしも気を付けたほうがよいぞ」
「気に留めておく」
そう言って立ち上がり、軽く手を上げてラピスと挨拶を交わし、国王は部屋から出て行った。
「挨拶が遅れ申し訳ございません。私はビリジアンと申します。2人はセラドンとエバです」
「御足労いただきありがとうございました。下までお送りいたします」
さっきと同じ3人の巨人の案内で、広場近くの階段まで送られた。
「それでは失礼いたします」
3人の巨人は上へと戻って行った。
「いやいやいやいや!!何!?何なの!?」
終始丁寧だったけど、威圧感ハンパなかったよ、あの3人!
「しかも国王って…」
私は張っていた緊張が一気に解けた。
「…ラピスの知り合い?」
「…昔な」
まただ。
これ以上聞けない。
一体ラピスって何者なんだろう?
とりあえず、500歳以上ってのはわかったけど。
片割れって言ってなかった?
兄弟?恋人?
モヤモヤしながら、その日は終わった。
鍋、買えてなーい!
スギノルリ、今度こそ鍋探しです!




