1話 召喚
杉野瑠璃22歳、異世界召喚されました。
私の他に召喚されたであろう人物が2人。
うーん、2人とも美男美女だー。
そして私より若そう…
ゲーム好きでこの状況を早くに理解した私と違って、少し混乱しているようだった。
「異世界召喚?一体ここはどこなんだ?」
「………」
「ここはスート国。余は国王じゃ。そなた達はこの国の救世主となるべく召喚した!」
気持ちが良いくらいの上から目線。
聞きたいことはたくさんあるが、今は黙って流れに乗っておこう。
「早速だが、そなた達の力を確認したい。【ステータス】を表示してみてくれ」
教えられた通りのやり方をすると、ステータスが目の前に表示された。
ゲームでよく見る、レベルとか、スキルとかがわかるものだった。
「それは本人にしか見ることが出来ない。どのようなステータスなのか読み上げてくれ」
人にはステータスが見えないのか。
でもそれじゃぁ、嘘もつけるよね?
「あぁ、ただ嘘を見抜くことは出来るのて、偽りのないようにな」
嘲笑い、見下しものを言う。
それがこの国の王らしい。
魔法使いらしい人物が私達に近づいた。
嘘を見抜く魔法でもあるのかな?
「縹誠。職業、勇者。スキルは――――」
10以上はあるスキルを堂々と読み上げた。
イケメン勇者は能力も素晴らしいですね。
ただ、コイツも国王と同じ匂いがする。
「浅葱美沙。職業、祈り子…。えっと…、スキルは、回復と…」
ザワッ!!
「祈り子だと!?」
「職業が祈り子なのか!?」
「えっ…?は、はい…」
もう1人の女の子が発した言葉に、部屋中の人間が驚いていた。
祈り子…?
初めて聞く職業だな。
「勇者と共に祈り子が召喚されるとは!これでこの国は安泰じゃ!」
ご満悦な国王を見るに、なかなか優秀な職業らしい。
「祈り子とは、魔力を使用することなく回復や補助が出来る職業です。この職業は召喚者のみに与えられるもので、その中でも大変稀なものでごさいます」
近くにいた魔法使いが頭を下げ話した。
嘘ではない、と言うことだ。
祈り子…
魔力なしで回復や補助ができるなんて…
「さて、もう1人も聞こうではないか。勇者、祈り子、次は何が出るかな」
私の番だ。
「杉野瑠璃。私の職業は、魔法使いです」
ザワッ!!
「魔法使い…?」
「魔法使いだって!?」
さっきと同じく、周りが驚いている。
えっ?魔法使いってまーまーメジャーな職業だよね?
この国では珍しいってこと?
「そなた、職業が魔法使いだと?」
国王が不機嫌そうに問いかけた。
「…はい」
「チッ!」
ガタン!
大きな音と共に、国王が地面を蹴った。
何?一体魔法使いが何だっていうの?
「ちなみ覚えている魔法や、スキルはありますか?」
嘘を見抜く魔法使いが聞いてきた。
「魔法は…」
私はステータス画面を確認した。
「……。ありません」
「ない?」
「はい、覚えている魔法はありません。スキルは1つだけ…、ただ!」
バン!!
再び大きな音が部屋中に響く。
「もうよい」
国王のその言葉に、誰もが口を閉ざした。
「魔法使いが…何だっていうんですか?」
従うことなく睨みつける私に対し、国王はため息をつき、そして、言葉を発することなく、近くにいた兵士に手で合図を送った。
「説明させて頂きます」
兵士が淡々と話はじめた。
「魔法使いという職業は、珍しいものではありません。この国にも魔法使いはおります」
だよね…
私は、近くにいる嘘を見破る魔法使いを見た。
「しかし、魔法使いという職業が、重要視されていないのも事実です」
は…?
「魔法使いは、確かに強い火力の攻撃を行うことが出来ます。回復や補助も出来、その点では優れているといえるでしょう」
「しかしながら、魔力切れという大きな欠点がごさいます」
「旅や戦いでは常に長期戦となります。魔法が使えている間は戦力となりますが、魔力切れとなったとたん、攻撃はおろか、回復や補助も出来なくなるのです」
「もちろん魔力回復アイテムなどもありますが、持てる量には限界があります」
「ですので、魔法使いとは基本、魔力を必要としない剣や弓で戦い、必要な時のみ魔法攻撃や回復をして、魔力不足を補っているのです」
魔力不足…
「でも私の魔力は…!」
「見苦しいぞ!」
急に横から割り込まれた。
イケメン勇者だ。
「認めろよ。お前は必要とされてないってことを」
「え…?」
「聞いただろ?魔法使いは魔力切れになる。その点、祈り子は魔力なしで回復ができる。誰が見たって、どっちが勇者と共に必要かってのは分かるよなぁ?」
高圧的で、人を見下す態度。
やっぱり、コイツと国王は同類だった。
私は、こいつらみたいな人間を知っている。
これ以上、こんな奴らと一緒にいられない。
「わかりました。では、私は必要ないんでしょうから、元の世界へかえしてください」
「それは出来ん」
また国王か…。
「1度召喚したものを元に戻すことなど出来ん」
なんて勝手なやつ…。
「そもそも、そなたの髪はなぜそのような髪色なのだ?」
「え?」
肩まで届かない長さの茶髪のボフが私の髪だった。
「召喚者は黒髪であるものなのだろう?」
「はい、書記にはそのように残されております」
確かに、他に召喚された勇者と祈り子はどちらも黒い髪をしている。
その2人を見た後、国王は私をじっと見た。
「紛い物の召喚者だったということか」
……!!
勝手に人のこと召喚しておいてなんてやつ…
「勇者と祈り子にはその役目を果たしてもらうため、城に住むことを許可し優遇しよう。そなたは…神殿が面倒を見るか?」
「…かしこまりました」
そうは言っているが、全く受け入れられていないようだ。
「待ってください!」
「またそなたか…」
国王が呆れた表情で私を見る。
「私は城にも神殿にもお世話にはなりません」
「ほぉ?」
「しばらく過ごせるお金を頂けたら、街に出て自分で仕事を探します」
「……」
「金輪際、ここには関わりませんので」
込み上げる怒りを必死に抑え、拳を握りしめ、私は国王に頭を下げた。
「…いいだろう」
私は起き上がって国王を見た。
「支度金を用意してやれ」
「はっ、せいぜい頑張れよ、役立たずの魔法使い」
礼なんて言うものか。
私は無言でその場を後にした。
杉野瑠璃22歳、異世界でも就職活動はじめます!