15話 ギルド2
スギノルリ、ついにギルドです!
私達は、奥の部屋へと通された。
堂々とした態度のキュノさんの隣で、出された飲み物を飲もうかどうしようかと私が悩んでいると、
「キュノ!?」
一人の男の人が扉を開けて入って来た。
「どうしたんだ?お前がギルドに来るなんて珍しいな」
知り合いなのかな。
白髪混じりの短いグレーヘア。
この世界の人達に白髪があるのかはわからないけど。
もともと灰色の髪なのかな。
それでも、若い時は間違いなくイケメンだっただろーなーって思えるくらいのオジサマだ。
よく日に焼けた肌のジロッソさんとは違い、白くてすらっとした体格、長いまつ毛、使い込まれた長剣。
この人が勇者って言われた方が、よっぽどしっくりくる気がする。
「この子なんだけどさ」
コップを持つ手の反対で、キュノさんが私を指さした。
「冒険者登録してないまま、だいぶレベル上げちゃったみたいなのよ。このままFランクからなんてバカバカしすぎる」
「どれくらいのレベルだ?」
「レベル40の魔法使い」
「!!」
あ、やっぱりキュノさん、私がレベル40になったこと気付いてたんだ…
「コレ、この子から買い取った魔物と魔石の買取書。コレで何とかなんない?」
「………」
机に並べられたたくさんの買取書を手に取り、考える様子のオジサマ…
「名前は?」
「えっ、あっ、ルリです」
「ルリ、僕はここのギルド長をしているケーンだ」
「はい」
「本来なら、冒険者登録していない間の成果は無効となるのが通例だ。けれど、確かにそれではあまりにも酷だな」
「……用意してくるから、少し待っていてくれ」
そう言って、部屋を出て行った。
「お知り合いなんですか?」
「昔の馴染みだよ」
私は、やっと飲み物に手をつけた。
しばらくして、ケーンさんが大きな石みたいなものを抱えて戻ってきた。
「待たせたな」
それを机の上に置いた。
丸くて透明な、水晶のような石だった。
「とりあえず、冒険者登録からだ。手を乗せてくれ」
石の上に手を乗せると、透明だった色が真っ黒に変わった。
「!!!!」
黒っ!何これ怖い!!
キュノさんとケーンさんも凄く驚いた様子で石を見ている。
「職業は…、魔法使いでいいのか?」
「はい!」
石の色が元の透明に戻り、変わりに名刺のようなものが現れた。
「それが冒険者証だ」
冒険者……
「次が…。少し待ってくれ」
石に手をかざし、映し出された小さなウィンドウのようなものを操作している。
未来的なタッチパネルだな〜
「よし、」
ケーンさんがそう言うと、目の前にたくさんのウィンドウが表示された。
「それが今、ギルド掲示板にある依頼全てだ」
「凄い…」
100以上はあるであろうその数。
「右下にある、[全受託]を押してくれ」
「はい…」
「そしてこれに、さっき受け取った買取書を元に計算した討伐記録を載せて…」
「もう一度、今度は[全反映]を」
言われるがまま、私はウィンドウを押していった。
パッパッパッパパパパパパパ!!!!!!
薄い緑だった依頼内容のウィンドウのいくつかが、濃いピンク色へと変わった。
「えっ何!?」
私は驚いて色の変わった表示を見た。
―ウサギ30匹―
―ブタ20匹―
それは、魔物の討伐依頼の内容のものだった。
「ここには、FからAまで全てのランクの依頼が表示されている。本来、依頼は自身のランクの一つ上までした受けられない。けれどルリは、すでにFから順にこれだけこなしていたと言うことだ」
「なるほど…」
「薬草採集とかはしてないか?」
珍しい草花は、薬草とかになるんじゃないかと思って収集していた。
どこで売るのかが分からなくて、アイテムボックスに入れたままだけど…
「大丈夫、ケーンは信用出来るやつだから」
キュノさんが肩を撫でた。
私は、ステータスを表示して、アイテムボックス内の薬草を確認した。
「いくつか、依頼内容のものがありますね」
「売って問題なければ、アイテムボックスから出して、依頼のウィンドウを押してくれ」
「えっと、これと、これと…」
たくさんあった依頼のウィンドウの半分程が、ピンク色へと変わっていった。
「これで最後です!」
「!!!!」
最後の薬草を机に出すと、ケーンさんが身を乗り出して確認した。
「これを…どこで?」
濃い青色の花。
これを採集したのは…
「迷いの森の先にある山の中です…」
ケーンさんがキュノさんを見た。
「そーゆーこと」
「………………」
驚き、困ったような、悔しいような、深雑な表情でしばらく黙って何かを考えていた。
「あの!私、何ランクになるんでしょうか?」
「えっ、あ、あぁ、Cだよ」
「Cだと〜?」
キュノさんが不満そうにケーンさんを睨む。
「仕方ないだろう、ルリが倒した魔物や薬草はこの国の物ばかりだ。上ランクになる為には、他国や、多種族の魔物も倒さなければ」
「さっきの青い花は?」
「これは間違いなくAランク依頼だ。しかし、C級のルリが今することは出来ない。まずはBになるんだ。そうすれば、Aまで上がれる」
「わかりました」
「あと、従魔登録もしといて」
キュノさんがラピスを指差した。
「ああ、そうだな。ここでしておいた方がいいだろう」
私の手の甲と、ラピスの額にある紋章を水晶にかざした。
「登録種別を鳥で、名はラピス…と」
入力が終わると、ケーンさんに冒険者証を渡された。
「頑張って」
目元にしわを寄せて優しく笑ってくれた。
その笑顔は、少し悲しそうだった。
それは、魔法使いに対する同情なのかな。
私達がギルドを出た後のケーンさんの言葉を、私が聞くことはなかった。
「…アイテムボックスに、真っ黒な水晶、竜の花。当時、強く望み、最後まで手に入れることが出来なかったもの…」
「どれか一つでも手にすることが出来ていれば、僕は、きみを失うこともなかったのかな…」
「無事、冒険者登録が出来ました!」
ジロッソさんの店へと帰り報告した。
「よかったな〜!」
「これからは、街に着いたらまずギルドに寄るんだよ!」
「はい!」
「とりあえず、創造国へ行ってみようと思います」
「じゃぁ、でっかい鍋買ってきてくれ」
「鍋、ですか?」
「あぁ、今度からはその鍋いっぱいにスープ作って持たせてやるよ」
「……!!」
「たまにはこの街にも顔出しな」
キュノさんの優しい笑顔。
この国は嫌いだけど、この2人のことは本当に大好きだ。
スギノルリ、冒険者になりました!




