七夕
「七夕ってさ、踏まれた願いが叶うんだよ」
前を歩く先輩が僕に言った。先輩は剣道部の部長だ。普段の厳格イメージからは想像出来ないロマンチックな発言に少しだけ驚いた。
「どういうことですか?」
「七夕に短冊書くだろ?あれが2人の橋になってその時に踏まれた短冊の願いが叶うんだ」
得意げに話す先輩の横顔がいつもとのギャップで可愛く見える。
「へぇ、知りませんでした。先輩は叶えたい願いとかあるんですか?」
「踏まれたいのか?」
「そんなことないです。僕だって……」
この人と出会ったのは1年前。一人黙々と素振りをするその姿に憧れた。感動した。それ以来の片想いになる。
「なんだ?」
「なんでもないです。踏みますよ?」
「それで願いが叶うならいいな」
この人が卒業するまでのあと半年、この綺麗な後ろ姿を精一杯追いかけよう。
「どんな願いでも自分で叶えるからいいんです」
僕は憧れる後ろ姿にそう言った。