アバンタイトル
世界は時に残酷で、時に美しい。
だなんて言うけれど、そう言い切るにしては、あまりにも残酷な部分ばかりが前面に押し出されてはいないだろうか。
子供の頃の夢なんてものを叶えられる人間はほんの一握りだし、そもそも夢を叶えた人間と出会うことすら難しいかもしれない。プロ野球選手だとか俳優だとか漫画家だとか、そういう際物で食っていける人間なんて、枚挙することすらおこがましいほどの数しかいない。
好きな子にフラれることだって多々あるだろうし、行きたい学校にすら進学できない奴も沢山いるだろう。
それでも俺たちは、そんな何も叶えられない自分を直視したくなくて、今の生活が幸せだ、だとか、こんな良い友達たちに出会えたことが俺の一番の財産だ、だとかしきりに自分の人生を肯定したがる。自分が肯定しなけりゃ誰も肯定してくれない、何も持っていない自分を慰めるかのように、幸福だという自分をやたらに外に発信する。
自分が取った選択肢をあたかも最善であるかのように思い込むことで、そんな現実から目を逸らし、なあなあにして、だましだましで生きていく。
夢を叶えることが出来る人間なんて、物語の主人公くらいのものだ。僕たちは、決して主人公なんて役柄じゃあない。社会の歯車でしかない僕たちは、平凡に生き、夢を叶えることもなく平凡な人生を送っていく。
俺たちの人生は激動ではあっても劇的ではない。記憶はされても記録はされない。
今一つ問おう。
君は胸を張って、自分の人生に満足していると言えるだろうか。
俺は、言えない。