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Thebes:「車窓」  作者: エンリコリート・ヴァシュタール
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Thebes:「車窓」-第十四回

「車窓」-第14回


 分かっていた事だろう。


 別に、いつ起こってもおかしくなかっただろう。


 この時勢、別に珍しくもない話だろう。


 肩入れし過ぎたのだ。

 絆され過ぎたのだ。






 外は深夜を前に、夜陰。

 部屋には戻らず、食堂車のバーカウンターにいつまでも、狸帽の少女。


 傭兵は酒の対価というわけではないが、等とバーマスターといくつか話していたが、先ほどそろそろ部屋に戻ると言い置いて席を立った。



 ──赤い髪の孤児の少女が、本気で密航しようというのなら。

 その機会は今夜、今を除いて他にない。

 

 他にないが。

 他にないが、ただの一孤児が、あの警備を突破して鉄道車内に侵入できるとも思えなかった。

 実のところ狸帽の少女は、もし赤い髪の孤児がこの場に現れれば、なんらかの"手引き"をするつもりでいた。



 しかし深夜近く、鉄道駅に彼女の気配はなく。



 怖気づいたか。

 ならそれでもいい。彼女の様な人物が搾取され続けるのは忍びないが、ただ大それたことをせず、今後もここに生き、在り続けてくれさえすれば。


 しかしここまでに見た赤い髪の孤児を思えば、この警備を見て二の足を踏むより、無謀でも突破を試み、警備に取り押さえられる最後を望むだろう、と。


 そして、その取り押さえられた彼女に"金なら少しは払う。せめて次の街まで"と、言ってやるつもりだった。

 だから、現れもしないこの夜に、狸帽は何か、違和感を感じていた。


 徐に顔を上げ、カウンターの奥側へグラスを差し出して、バーマスターに浅く一礼して席を立つ。

 バーマスターは何かを感じた様に、わからぬ程度に首をかしげたが、狸帽の少女にとって心地よい無関心さで、問わず、見送った。



◇◆◇◆◇



 槍の雨号の搭乗口に立つ。

 この時間なお光源が焚かれ、物々しい警備は続く。


 何か、少しあわただしい。

 耳をすませば、警備の職員が話す声。


 "宿泊街の方で遺体が発見されたらしい"

 "じゃあ列車(こっち)はハズレか?"


 孤児院は宿泊街の端だ。

 ぞわり、とした何かが、狸帽の想像に鎌首をもたげる。


 "いや、検死からその犯行は昨晩だと"

 "2番街の11歳の少女で、やはり絞殺、される前に慰み者(・・・)に"

 "胸糞の悪い奴だ"



 "マリエルじゃ……ない"


 束の間、安堵の息を吐くも。

 直後。


 想像が。

 したくもない様な汚らしくも悍ましいそれが。

 狸帽の中でひとつ、重なる。



 "その犯行は昨晩"

 "昨夜夜陰に消え、情事の匂いを染みつかせて帰った院長"

 "自分の細足にすら向けられた男の視線"

 "恍惚の表情で鞭を振るう姿"


 "小児性愛者なのでは──"



 "院長先生が、何か悪いことしてるんだってのは──"




 今にも泣きだしそうな顔で。

 狸帽のそんな表情、連れ合いでも居ればなんと稀かと思ったろう。

 しかし誰の関心にも止まらぬ稀有な悲壮。


 "何が、流れの移住者か"


 そんな名残を残して、狸帽の少女は爆発するような勢いで、夜の街に向かって駆けだしていた。


 その勢いに、しかし警護対象から急速に離れるそれに、警察関係者は一様に動揺するも動けず。



「──嬢ッ!! ──さら何処へ!? ──朝には発車して────だぞ!!」


 既に遠く、それを目撃したらしい傭兵の叫びが、雪に途切れて聞こえた。




◇◆◇◆◇



 街を疾走する狸帽の少女。

 焦燥掻き立てられ、息も荒く、此の者らしくなく。

 もどかしくも、擦るように足に触れ、吐き捨てるように短く叫ぶ。


加速(ウィンドウォーク)! 浮遊(レビテートステップ)!」


 とたん、そも人とも思えぬ速度で疾走していた少女がかき消えるような速さに加速し、次の瞬間には飛び上がり、家屋の屋根伝いに宿泊街へ。


 余談。

 この段において余談、だが。

 まぁ少女の焦燥は究極こちら(・・・)の知った事ではない故。


 今世この地域において、ニンゲンは魔力というものを持たぬ。

 では先日、狸帽の少女も使って見せた魔術(・・)とは何か。


 それは九割九分において"召喚魔術"を指す。

 ヒトは魔力を持たぬ故、魔力を持つ者と取引、召喚をし、求める結果を得る。

 対価は主に"精神力"である。


 ありていに言えば、悪魔を呼び、対価を支払い、代わりにやってもらう(・・・・・・・・・・)


 安静にしていれば徐々に元に戻るヒトの精神力(メンタル)、それが"対価"と納得しづらい者もいるようだが、言い方を変えれば"ヒトの正気を食う"という事であり、それをこそ悪魔の求むるモノであると説く魔術師もいる。

 いずれ回復するものを対価に出来る点で、ヒト側から見て最も費用対効果に優れ、唯一欠点としてほぼ例外なく儀式術式であり、召喚という工程(ワンシークエンス)を必要とし、どう簡略化しようともその行使は遅々としたものになる。


 しかし召喚をしなかった。

 狸帽の少女は、先日のそれと違って、召喚をしなかった。


 魔術の結果を得るには、魔力が必須である。

 ここで本来対価として支払うべき、"人の精神力"という奴を直接魔力に変換することは不可能ではない。しかし恐ろしく効率が悪い。


 藁にも燃え移るかというほどの種火を起こすのに、常人であれば昏倒するか、正気を失うといった加減だ。


 しかしながら少女は、"脳を削り取られるような感覚"に顔をしかめながらも、"加速"と"浮遊"を行使してのけた。

 少女は極寒のシルヴェリアで生業を持つが、母の死に心壊れかける、その点において普通の子供(・・・・・)のはずだ。


 ならば何故、それが可能であったか。



 何にせよ、もはや矢弾の様になった少女が夜陰を駆け抜けた。





Thebes:「車窓」エピソード

 第14回 


 キャスト


        狸帽の少女 ルコ・クロケット

       赤茶髪の傭兵 リトア・ディフェンド

   老紳士のバーマスター ジョセフィーロ・ラルコ

       慌しい警備員 ハッジ・アランド

       慌しい警備員 イサク・カダール

       慌しい警備員 ヴィンセント・ウェスランド

          語り手 オレ



 放って置けばいい。

 少女。


 見に行くな。

 確かめに行くな。


 お前にはつらい。


 きっと。つらい。



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