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第二話 魂違い

「うーん、気持ちよくない。むしろ痛い」


 ミーミルは渋い顔しながら体をよじる。


「柔らかい……でかい」


 アヤメは正座したまま、憑りつかれたようにミーミルの胸を揉んでいる。

 妙に鼻息が荒いし、顔が紅潮していて、ミーミルは純粋にキモイと思った。


「とりあえずゲームで無い事は確かだな」

「うん。それは確かに。うん」


 とてもリアルな感触に、二人はその事を実感できた。

 現代のVR技術では、ゲームと脳の感覚のリンクは実現できていない。

 ――というか倫理やら道徳やら何やらの反発が非常に強く、恐らく永久に完成しないだろう。

 つまりここは間違いなく、ゲームの中ではない。


 現実なのだ。


「それはそうと、いい加減痛いって。このまま引きちぎる気か? 痛い痛い」

「うーん、力加減がよく分からない……」

「なるほど。さては童て――処女か貴様」

「しょしょしょしょ処女ちゃうわ!」

 

「ゴホン――失礼します」

 

 不意に横からかかる声。

 声の方向へ二人が同時に振り向くと、鉄格子の向こうに赤髪の大男が立っていた。


 白い肌に、青い瞳――恐らく日本人ではない。

 頬に深い切り傷の跡があり、ゴツい軍人のようなイメージだ。

 ファンタジー世界に出てきそうな、深紅の金属を金で装飾された、きらびやかなブレストアーマーを着込んでいる。

 アーマーの真ん中には炎をモチーフにしたエンブレムが刻まれていた。

 腰には赤い剣を携えている。


 何だか赤尽くしだった。

 よく見ると顔も赤い。

 一言で言うなら、水属性が弱点のような男だった。


「あー、ゴホン。お楽しみの最中、申し訳ありませんが、調子はどうでしょうか」


 その言葉で男が顔を赤くしている理由に気づく。

 アヤメは慌ててミーミルの胸から慌てて手を放した。

 客観的に見て幼女が猫娘のおっぱいを揉み続けているのは、かなり狂った絵面である事は間違いなかった。


「こ、これは誤解です! ただの確認なので! 特にやましい事では」

「にゃっふーん。もっと確認してぇ」

「その全く色気のない棒読み喘ぎを止めるのです!」


 アヤメはミーミルに腹パンを入れる。


「こひゅう」


 奇妙な呼吸音と共に、ミーミルは正座のまま突っ伏した。


「あー、ええっと。すみません、何でした?」

「え? あ、そ……そ、そうだ」


 男は露骨に引きつっていた表情を引き締める。


「その、体の調子はどうでしょうか? 何かおかしい所はありませんか?」

「調子は――おかしいです」


 アヤメは素直に答える。


「むっ!? 何か調子が悪いのですか? どこか痛む所が?」


 アヤメの言葉に、男が心配そうな表情を向けた。


「いや、調子はいいんですけど……根本がおかしくなっているというか、何というか」


 体調はすこぶる良い。

 むしろ人生の中で、最も調子がいいと思えるくらいに元気だ。

 だが根本的な所がおかしくなってしまっている。


 性別が。


「まあ……体が痛いとか、そういうのは無いです」


 アヤメは説明しようと思ったが、面倒くさくなって止めた。


「そうですか。それなら良かった……」


 男はアヤメの言葉を聞くと、安堵の表情を浮かべる。

 そして少し緩んだ表情のまま、言葉を続けた。


「私の名前は、オルデミア・エヴァ・ノクタリスと申します。アイリス帝国の第一騎士団長を務めている者です。貴女達の身の回りの世話を、ミゥン皇帝から頼まれております」

「……はぁ」


 全く聞いた事のない国の名前だった。

 もちろん『リ・バース』にもそんな名前の国は存在しない。

 また人の名前も聞いた事がない名前ばかりである。

 そんな名前のNPCなど存在しない。


「突然の事で、困惑されている事でしょう。ですが、落ち着いて話を聞いて欲しいのです」


 どうやらこの男が、二人の置かれている現状について答えを持っているらしい。

 アヤメは正座したまま、男の話を聞く事にした。


「まず我が国は――蛮族の攻撃や、隣国からの侵略に脅かされています。このままでは国が滅ぶのも時間の問題……そこで、我々は助けを求めることにしました。かつて世界を動かしたと言われる伝説の偉人を現代に復活させ、救いを求める事にしたのです」

「なるほど。それはまた壮大な」


「しかし、その法は世界を書き換えるに等しい外法にして禁忌の呪法……。成功率は限りなく低く失敗が続きました。ですが、奇跡が起きた。私たちは伝説の偉人の魂を復活させる事に成功したのです」

「はい」


「復活に成功したのは、我が帝国を建国したと言われる、伝説の双子の英雄、閃皇『デルフィオス・アルトナ』と剣皇『マグナス・アルトナ』――お二人の魂でした」

「ふむー」


「――そうです。突然の事で驚かれているでしょう。実は今、あなた方がここにいるのは、我々がお二人の魂を現世にお呼びしたからなのです!」

「人違いです」



 

「?」


 オルデミアはアヤメの言葉に首を傾げた。


「その何とかアルトナではないです。私はアヤメ」


 そして床に突っ伏してビクビクと痙攣している美少女を指さし、

「こっちがミーミルと言います」

 アヤメは笑顔で、はっきりと伝えてやる。


「???」


 だがオルデミアはさらに首を傾げただけだった。


「その何でしたっけ……禁忌魔法、失敗したんじゃ? 多分、違う人を呼び出してますよ」


 その一言でオルデミアの顔が、さっと真っ青になった。

 さっきまで赤い人だったので、ギャップがすごい。


「少々お待ちを」


 オルデミアは二人にそう告げると、衛兵に耳打ちする。


「なるほど――かしこまりました!」

「急いで頼むぞ!」


 衛兵はバタバタと走り去っていく。

 オルデミアはその後ろ姿を見送ると、落ち着きなくその場をウロウロし始めた。

 オルデミアの顔は蒼白のままである。

 時間が経つにつれ、親指の爪を噛みはじめ、その手はブルブルと小刻みに震え出す。

 その余りの狼狽っぷりに、本人だけでなく見てる方まで胃に穴が開きそうな気分になる。


「あの姿、100を1000って発注し間違えた新入社員時代を思い出すわ」


 いつの間にか復活していたミーミルが呟くように言った。


オルデミア・エヴァ・ノクタリス=アイリス帝国第一騎士団長(赤い)

アイリス帝国=今いる国

ミゥン皇帝=今いる国の皇帝

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