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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

近現代史の闇としての麻薬ビジネス

作者: 深森

――はじめに


このエッセイでは、近現代史の中で展開した麻薬ビジネスの有り様について、その歴史の概略と、それについて思うところを述べたいと思います。そして、今なお盛んな麻薬ビジネスに対して、真っ向から対抗しうるサブカルチャー文化のパワーの可能性と、その将来の展望を述べたいと思います。



薬物問題は、個人的に割と興味を持っているテーマです。元々は、古代&中世の金融~現代グローバル金融の歴史を調べようとしていたのですが、近現代史のお勉強にいたって、薬物マーケットの歴史のお勉強にも足を突っ込んで行ったという経緯があります。


(このお勉強で、割と知識を得たという事があって、結構マジメに「何か作品に仕立ててみようかな」とは思ってはいたのですが、優れたノンフィクション作品が一杯あって、知識不足&迫力負け……という事で断念しております。ノンフィクション著者の一人は、フリージャーナリスト冒険家で、危険エリアに単身潜入して、体当たり取材をしたとか)


思うところを、述べますと…


近現代史における二度の世界大戦、その後に続く世界各地の数多くの紛争、新しいタイプの富裕と貧困、それに伴う近代の人権&社会思想、現代につながる繁華街とスラムの発生……


これらは全て、近現代史の闇を成す「麻薬ビジネス」に繋がっていると言っても過言では無いと思うのであります。


グローバル金融の成長の歴史と、麻薬ビジネスの拡大の歴史は、互いに絡み合っています。光の面がグローバル金融(グローバル資本主義)だとすれば、闇の面が麻薬ビジネスと言えますでしょうか。


*****


――歴史の概略


元々、酩酊効果のある薬物・ドラッグの類は、宗教関係者の間では主要商品だったのですが、高価な品(希少品)と言う事もあり、一般には余り出回る事はありませんでした。古代&中世の宗教関係者がマネーに執着したのは、「聖なる薬物」を手に入れるためと言う事もあったと思われます。


当時のアヘンは、西洋では「メコニウム」という名で呼ばれており、痛み止めなど医療用として使われていました。古代&中世の頃の製法は濃縮効率の悪い物であったため、中毒作用を起こす成分の濃度も低かったと言われています。


※イスラム圏のアヤシイ話題に、暗殺教団の「山の老人」が、暗殺者アサッシン候補の若者たちを勧誘し忠誠を誓わせるために、麻薬を使った? ――と言うエピソードがあったりします。


※シェイクスピア四大悲劇の一つ『オセロ』に、深い眠りを得るため薬物を服用する……と言う一場面があります。この薬物は、今日でいうアヘンチンキです。



大量生産されて安価になった高品質のアヘンが、庶民の間で広く出回るようになったのは19世紀、アヘン戦争の時代です。


広く普及するだけのマーケット基盤が、折よく用意されたかのように広がっていました。医療方面で、外科手術が普及していたと言うのが大きいと思います。麻酔にアヘンを使ったりしていて、麻薬に対する抵抗感が無い状態でした。


国境紛争や地域紛争、多数のギャング抗争などを経て、清末期中国を中心とする巨大なアヘン取引市場が稼働し始めました。それが多数の国々をまたぐ国際マーケットであったために、その国際決済を専門に担当するグローバル金融が生まれ、急成長しました。


初期は、アヘンも合法的な品として扱われており、普通の交易品と共に流通していたのです。19世紀末から20世紀初における中国(清~中華民国)でのアヘン市場の拡大は、爆発的な物でした。近現代を彩る巨大なグローバル金融機関は、だいたい、この時代に生まれています。こうした金融機関は、新規技術開発費や戦費の調達の要ともなりました。


この時代に電気通信テクノロジーが進んだのも相まって、ものすごく速いスピードで情報と時代が動きました(モールス信号、海底電話線、等)。


同時に、強力なエンジンの開発が進みました。鉄道、自動車、大型船、飛行機……従来とは桁違いの大量輸送・スピード輸送が可能になったのです。


ますます発達していく金融ネットワークと流通ネットワークに食い込む形で、禁制ビジネスを手掛けるマフィアも強大化しました。中国では、京杭大運河の運送業を担っていた青幇チンパンが、黒社会を代表する秘密結社になって行きました。アメリカでは、アル・カポネが有名。



戦前の上海(租界)や満洲国の裏の顔は、アヘン市場によって栄えた『アヘン帝国』でありました。盧溝橋事件に始まる日中戦争も、この延長で眺めてみると、別の容貌が見えて来ます。それぞれの軍隊が、いずれも、戦費調達をアヘン取引の利益に頼っていたと言う記録があります。当時の中国では、アヘンは、黄金と同等の普遍的資産の一つと見なされていました。


当時のアジア市場の規模や文明の生産パワーは、西欧列強に比べると非常に貧弱なものでした。効率よく大量の集金を可能にし、巨額の国家予算を保証するための市場商品が、アヘン類に集中していたのです。


そして、巨額投資が続いていた満洲エリアは、中国で最も発展したエリアの一つになりました。日本の敗戦後、毛沢東はその豊かな先進地を領土として組み入れ、その後の発展の礎を、不動のモノにした……という形になります。



戦後の混乱期は、日本国内で、薬物中毒者が最大数を記録した時期です。元々、夜間工場の生産性を上げたりするために、広く覚醒剤が使われていたと言う事があり、覚醒剤常用の習慣が人々の間に広まっていました。


記録によれば、軍需物資として保管されていたヒロポン等が闇市に大量に流出し、戦後6年間の間に、150万人が乱用者となったそうです。当時、日常品にも事欠き、酒も品薄状態でしたが、麻薬の類は大量にあり、酒に代わる安価な娯楽と見なされていました。芸能界でも、ギャラがヒロポン等で支払われたと言う例があったようです。



中国の方はと言えば、成人男子の4人に1人がアヘン常用者であり、大都市圏では、その割合は半数を超えると言う有り様でした。これ程に深刻なドラッグ禍が席巻した例は、今のところ、他には無いそうです。


*****


――21世紀現代から見る限りでは。


麻薬ビジネスをはびこらせたという意味で、関東軍や毛沢東、蒋介石をはじめとする各国の実力者たちの罪は、重い物がありますが……


時代の潮流というモノがあり、彼等にも、どうしようも無かったと言うのも、幾らかは……あるのだろうとは思います。戦前から続く、地下ビジネス利権&権力構造という側面から見れば、日本の戦後は、まだまだ終わっていないようです。



ベトナム戦争をはじめとする東南アジアの流血の時代を彩ったのは、東南アジアにある『ゴールデン・トライアングル』。麻薬の大規模生産エリアです。毛沢東と蒋介石の活動がきっかけで、活性化したとか。


そして、中東地域を混乱に陥れているのは、中東~中央アジアに広がる『ゴールデン・クレセント』。『ゴールデン・トライアングル』が縮小している今、世界最大の、麻薬の大規模生産エリアとして知られています。


最近は、香港やメキシコなど、大規模生産&供給ポイントが世界各地に広がっているので、どのように生産され、流通しているのか……というのは、あまり明確では無いみたいですが。



我が国の自殺者数の増加にも、麻薬ビジネスが関わっていると言われています。精神病関係の薬物も不法取引されていて、新たな乱用者を生み出すと共に、反社会的勢力の資金源になったりしています。


貧困ビジネスの延長なのでしょうか、患者さんが余計に処方薬をもらって来て、それをネット等で転売して、お小遣いにすると言うケースが見受けられるそうです。医療費&社会保障費の無駄や横流しに直結する行動なので、本当は、やって欲しくは無いのですが……



覚醒剤の消費が最も大きい場所は、芸能界だそうです。芸能人ご用達の密室パーティーと言うのでしょうか、「大人の不健全な楽しみ」関連で、キロ単位の覚醒剤が取引されているそうです。


俗語で「キメセク」と言うそうですが、覚醒剤を使って「いたす」と、とんでもない陶酔感が味わえるそうです(バイアグラと混ぜて服用するのが「ツウ」だとか)。証言によれば、通常の10倍~40倍くらい、感覚が違うそうです。


明らかに生物学的には異常事態なのですが(脳みそが破壊されてしまう)、それで男女ともに強烈な快楽に夢中になって、いわゆる「シャブ漬け」になり、身体も脳みそも、ボロボロになって果てて行くそうです。致死レベルの放射線に当たったみたいに、髪の毛がゴッソリと抜けたりとか。


薬物犯罪関連で、芸能人がカップルで逮捕される事が多いのは、これが原因だそうです。金遣いが荒い、体型や容貌が急に崩れた、老けた、目つきが変、時々ろれつが回らない……などというタレントさんが居れば、まず覚醒剤を疑って間違いないという話です。



密輸業者にとっては、日本はサイコーに魅力的な市場だという事です。


1.末端価格が極めて高価で、「濡れ手に粟」状態

2.芸能界をはじめとして、覚醒剤の類に対して常に大きな需要がある

3.ヤクザ等による緻密な密売ルートが整備されており、量をさばく事も出来る


――というので、世界各地から、多くの密売人たちが、海に囲まれた国境を突破しようと、ワラワラと集まって来ている……と言う訳です。


日本政府は、『危険ドラッグ』などと銘打って薬物犯罪を撲滅しようとしていますが、欲望と快楽を伴う習慣性のあるシロモノだけに、なかなか根絶は難しかろうと思います。「公に出来ない健康ビジネス」と言えば、ほぼドラッグ系ですし。



――将来の展望と言う点では。


サブカルチャーの発展には、大いに期待するところがあります。


海外のデータですが、日本の漫画やアニメ、ライトノベル等が有名になって、サブカルチャーにお金を使うようになった結果、麻薬ビジネスへのマネーの流れが減ったそうです。


市場マネー戦争という観点で見ると、出版社は、グローバル麻薬ビジネスと戦う事は出来ないと思います。政府や巨大広告会社に比べて、戦力が無さすぎます。その巨大広告会社にしても、インターネットの発展に押されて、だんだん切り崩しが起きているみたいですが……


なおかつ、貧困問題は深刻。


正当にきちんと稼げるサブカルチャーやコンテンツ市場を維持しつつ、怪しげな「お小遣いビジネス」や「健康ビジネス」等には手を出さないという流れが、今のところ、最も望ましい在り方かなと思っていたりするのです。


*****


――現代の薬物犯罪に関する補足情報として


一条えりん様[mypage.syosetu.com/862392/]より、以下のような情報、及び、ご意見を頂きました。有難うございます。


(以下、ここより転載)


特に、危険ドラッグは、法律的によく論じられる論点を含んでおり、例えば、「政治集会を行う場合は届け出なさい。場合によっては、警察がその集会を監視します」という、明治時代の条例があるのですが、これは、すぐに、「茶話会」とか、「学術講演会」などと、人民サイドが名称を変更することにより、実質は完全に政治集会なのですが、法の網の目をかいくぐる、いわゆる「脱法行為」に出るわけです。


ですから、「法律の条文に、規制すべき『ハーブ』とか『アロマ』とか、そういったわけのわからないものを、どの程度、条文の文言として網羅するか? あるいは、裁判官の裁量(いわゆる「事実認定」と呼ばれる、アロマキャンドルを焚いている程度なのか、実質はドラッグなのかを判断する行為)に、どの程度、任せるか?」という、すごく難しい問題が出てきちゃうんですよね。


こうした問題は、公に論じる機会をたくさん設けるべきです。



というのは、報道されるレベルの、楽しいとか、気持ちいいとかなら、犯罪ですが、まだ本人が立ち直る余地は残されます。


しかし、儲けを優先するマフィアは、当然ながら、質が粗悪な、混ぜ物をしたドラッグを流通させるわけです。到底、報道できない内容ですが、皮膚が剥離し、肉が削げて骨が見える状態〔※脚注1〕になっても、今度はその激痛を和らげるため、ドラッグに手を伸ばすしかありません。


ネットで検索すると、すごくライトに、「ハーブ」とか「パウダー」とかいうのが出てきます。お値段もそこそこ安価だったりします。


薬物依存専門の病棟で治療可能ならまだいいですが、よく知らないまま使うと、死に至るかも知れません(実際、死んでいる人がいます)。〔※脚注2〕


その「怖さ」を、政府から、もっと民間に知識を広めた方がいいと僕は思います。



〔脚注1〕――「皮膚が剥離し肉が削げる」ドラッグは、一部では有名なのですが、「クロコダイル」と通称され、ロシアンマフィアの資金源として大きなパーセンテージを占めていると噂されています。「混ぜ物」というのは、石油、灯油、ガソリンなどを混ぜていると言われ、この情報だけでも、著しく人体に有害なのは明らかだと思います。


〔脚注2〕――近年の脱法ドラッグ使用者による有名な事件としては、「マイアミゾンビ事件」と通称される残虐な事件があります。これは、ドラッグで精神状態が正常ではなくなった男性が、全裸になり、路上に寝そべり、ホームレスの顔に噛みつき、肉を食べ、警察が数回、注意をしますが、全く変化がなかったため、最終的には、噛みついた側の男性が警察により射殺される、という結末を迎えています。



脱法ドラッグによる異常行為として、上記のような行為はめずらしくないようで、ドラッグを用いた結果、大型犬に飛びつき、噛みつく、などという例があるようです。


つまり、使用者自身の身体や精神を壊すだけならまだしも、純度の高い麻薬や覚醒剤では考えられないような、攻撃衝動、暴力衝動がドラッグの影響として発露し、最終的に犯罪者となってしまう、という危険性も指摘できると思います。


特に、「新発売」のドラッグほど、危険です。薬物というと、部屋に閉じこもって楽しんでいるようなイメージがありますが、外に向かって破壊衝動を発散する、こういった可能性は、ドラッグの開発においては、正式な向精神薬などと異なり、実験がなされていないため、未知なのです。ですから、「安くて新しい危険ドラッグに飛びつく」という行為は、「未知の危険」に足を踏み入れる行為、といっても過言ではありません。


なお、上記の「クロコダイル」や、「マイアミゾンビ事件」は、検索をすると、非常にグロテスクな、生々しい、恐ろしい画像が出てきます。はっきり言って、未成年者にはとても見せられない、残虐な画像です。そのため、くれぐれも、軽はずみに検索して画像を見ることは、お避けいただきたいと思います。


(以上、転載ここまで)


*****


――結びに代えて


化学合成テクノロジーの進歩によって、新種の『危険ドラッグ』が次から次へと生み出されている。しかも、高度に発達したグローバル金融システムとインターネットとを通じて、簡単に取引できる――それが、今の時代なのであります。


危険ドラッグを含む薬物&アングラマネー問題については、かつて歴史上に出現した『アヘン帝国』の成れの果てを考えてみても、「無防備&野放しの状態」だと色々マズイという事は、確かであります。


薬物問題というのは、一方では、芸能界のようなイビツな社会構造の矛盾や、貧困の問題ともリンクしており、現代社会の難問の一角を占めていると言えます。


(……と、筆者は結論するのであります)


薬物の誘惑に対抗しうる娯楽エンタメとしての、サブカルチャーの発展は、希望の一つであります。『表現活動』と言うくくりにおいて、他にも何らかの可能性は、見つかるのかも知れません。


一考のきっかけになれば、幸いであります。

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