~鬼灯の夢~16
「実は、先日―――」
ぎくりとした。おいはぎの自白をするつもりか。
「財布を拾いまして」
「は?」
「財布です、これです」
望月は懐の中から唐草模様の長財布を出した。
「落とした男は酔っていたようで、すぐに追いかけて渡そうとしたのだが、拙者の顔を見るなり悲鳴を上げて逃げ出したのです」
「―――はあ?」
話が違う、刀を抜いて財布を出せと迫ったのはないのか。
「その財布を見て拙者は思った。こんなに簡単に金が手に入るなら人を脅して金を手に入れようと……それで毎晩、仕事の帰りに試していたのだが」
研之介は自分がきっと間抜けな顔をしているだろうな、と思った。
「やはりだめだ。いざとなると意気地がでなくて何人も見送った」
「そんな意気地なんか出さなくてもよい!」
思わず大声を出した研之介に望月は驚いたようだった。
「俺は望月どのを疑っていた。最近話題になっていたおいはぎかと。でもよかった、望月どのがそのような間違いを犯さなくて」
研之介は望月の手を握った。
「望月どのを見損なっていて申し訳ありませんでした」
「佐々木どの」
暗闇の中でも望月の真剣な表情はわかった。
「拙者は腹の子を殺そうとした情けない父親です。そのことを腹の子は知っているのかもしれないと思うと眠ることもできないほど苦しみました。拙者は生まれてきた子供にそのことを謝りたい。だから妻に生むようにと言いました……」
望月は研之介の手を握り帰した。
「そのためにどんな苦労をしても金を稼ごうと決めた。その苦労が拙者への罰です」
「望月どの、その苦労は罰ではありません。糧だと思ってください。親子三人、幸せになるための糧だと」
研之介は望月の手の中にある財布に触れた。
「この財布の落とし主を知っています。俺の友人の知り合いですよ」
「おお、そうですか。それではその人に返して下さい」
望月はこの財布の中に決して手をつけてはいないだろう、ということはわかっていた。その知り合いが望月のことをおいはぎ呼ばわりしていることは黙っているつもりだ。
「望月どの、その決意に一杯奢りたい。つきあってください」
「それはありがたい」
望月が髭の中で笑った。研之介も笑った。
「では―――」
時間が遅いが三ツ輪に頼み込めばまだ飲ませてもらえるだろう。研之介が望月と一緒に歩きだそうとしたとき。
「だれか……っ、だれか、お助け―――」
細い悲鳴が聞こえた。はっと二人は立ちすくみ、次にはその声のもとに駆けつけた。
商人らしき男と小僧が、地面にへたりこんでいる。近くで提灯が燃えていた。その前に刀を持ち、ほおかぶりをした男が立っていた。




